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やめて!わけわからん能力を湿地帯に使ったら我子の正体を知らないクリフトが燃え尽きちゃう!死なないでクリフト!何かの約束はどうなっちゃう?今逃げれば本当を知らなくても良いんだから!次回「クリフト死す」

「それでは始めましょう。ではこちらを」



 ルウがクリフトにトリガーのついた棒状の道具――所謂銃身のない銃のような形をしている道具を手渡す。

 そして中心部が膨らんでいて両端に細い管が伸びているアイテムを取り出すとルウが片方の管を口に咥えた。

 あなたもどうぞと反対側の管を指差し、彼が首を傾げて管を咥えたのを見てトリガーを2回引く。



「あの、これは?」



「さあ、あなたもトリガーを」



 訝しげにだがクリフトが1回トリガーを引いた。



「あら、なにも起こりませんでしたわね。ではゲームを始めましょう、先行は私で構いませんわよね? では――金貨3枚から。まだ始まったばかりですから」



 そう言ってルウがトリガーを引く。



「なるほど、こういうゲームですか。一体なにをどうしたらなにが起こるのか、楽しみですね。では私は、金貨6枚でどうでしょう」



「いきなり元の金額より高くするなんて、悪い人ですわ。それじゃあ金貨2枚に銀貨3枚。ああそれと説明をしていなかったのでしますけれど、トリガーはこの口に咥えたアイテムと連動していて、さらにトリガーは7回転して1回目に戻りますわ。2つのトリガーはそれぞれに毎回ランダムで数字を設定していて、2つのトリガーがその設定された数字で止まった場合――」



「ははは、一体何が起こるのでしょうな」



 クリフトが子どもの遊戯を楽しむ大人のように、どこか朗らかに笑いながらトリガーを引こうとしたのだが、ルウが口を開く。



「爆発しますわ。ええ、それはそれはそのまんまるなお顔が吹っ飛ぶくらいの爆発が」



 トリガーを引こうとしたクリフトの動きが止まった。

 そして彼は体を強張らせ、目を見開いてルウを見る。



「さあ、あなたの番ですわ。希望の料金とトリガーを。ああ別に引かなくても良いんですわよ、結局ランダムですもの」



 ニコリと微笑むルウにクリフトが引き攣った笑みを返す。



「い、いやはや、中々にお上手ですな。そんなことをしたらあなたまで死んでしまいますよ」



「ええそうですわね。ですが湿地帯に挑むんですわよ、こんなところで死んでしまったのならそれまで。なんせゲン担ぎですもの。さあ、数字を」



「な、なるほど。で、ですがなにもこんなところで運試しするのも馬鹿げた話ですよね。ああ、わ、私は金貨じゅ、10枚で」



「まぁっ、元値の2倍ですわね。そんなに焦ってどうしたんですの? もっと楽しみましょう」



 ルウは懐から口に咥えたアイテムと同じものを取り出すとそれを我子に投げ、それを投げて撃ち抜いてほしいと言った。



「はいはい、ほどほどにしなさいよ」



 我子はそのアイテムを遠くに投げると続けて石をアイテムに向かって投げた。

 すると石が当たったそのアイテムは発光し、轟音を鳴らして爆発した。



「では続けましょう。私はそうですわね、金貨2枚と銀貨1枚でどうでしょう」



「あ、わ、わた……私、は」



 歯をガチガチと鳴らし、トリガーを握る手を震わせているクリフトが荒い呼吸を繰り返し、口を開閉させながらやっとといった風に金貨15枚と言い、トリガーを引いた。



 クスクスと悪魔のような微笑みを顔に貼り付けるルウに我子は呆れたように息を吐き、背中にくっついているフィリアムに目を向ける。



「本当良い性格してるわね」



「あの見た目だもん、大抵の人はルウちゃんの提案を受け入れちゃうんだよね。まあそのおかげで助かった場面が何度かあったけれど、やっぱりルウちゃんが痛い思いをするのを見るのはちょっとね」



「基本的にあの子は感覚が麻痺しているのよ。一体何をされたら死ぬほどの痛みを悲鳴一つあげずに耐えられるようになるのかしらね。ルーアとは違う意味で手間のかかる子よまったく」



「アンジュちゃんはあれだよね、個性的な人を引き寄せるなにかがあるんだよきっと」



 我子は呆れたような顔をしてフィリアムの頬を軽く引っ張る。

 そして、フィリアムにあなたもその個性的な理由がある人種なのかしらと尋ねる。



「さあどうだろうね。あたしはあたしでしかないから理由なんて言われてもパッとしないかも」



「まあ表に出さない内はなにも聞かないわよ。しっかしルウもそうだけれど、ナイトもウルも何かしら腹に抱え込んでいる節があるのよね。このギルドでのうのうとしているのってウチだけなんじゃないかしら。1回死んだことがある程度だし」



「なにそれ初耳なんだけれど」



 フィリアムが驚きの声を上げ、我子の体をペタペタと触り始めた。

 我子はくすぐったいわとフィリアムを体から離し、別に体に異常があるわけではないと教える。



「死霊とか魔族になったとかじゃないから安心なさい。ただウチの場合釣り上げてくれた人が全知全能だったってだけ。その人を誤って殺しちゃったけれど」



「一体何があったのさ!」



 驚愕に口をあんぐりとするフィリアムにいずれ機会があったらね。と我子は含んだ言い方をする。

 そしてそろそろ終わるわねとルウに目を向け、右手に描かれた神性の魔法陣を撫でると右手をルウとクリフトが咥えている爆弾に向ける。



「――う〜んそうですわね、では、銅貨3枚。そろそろ減らせなくなってきましたわ」



「あ、あぅ、お、おぇ。あ、わ、わた、わたし、わたしは……き、金貨、よ、よんじゅ――い、いや! 金貨100枚だ!」



「あらあら、随分と強気に出ましたわね。そんな金額、私に払えるかしら?」



 そう言ってルウが懐から大量の金貨が入った麻袋を取り出し、管を強く噛み締めて歯をむき出しにし、悪魔のように嘲笑ってクリフトにその真紅の瞳を向けた。



 これがただの遊戯であることに気がついたのだろう。

 この悪魔のような彼女にとって自分はただの玩具でしかないと理解してしまったのだろう。


 クリフトは突然笑い声をあげ、何度も何度もトリガーを引いた。



 そして彼が壊れたおもちゃのようにそのトリガーを引く指を止めた刹那、爆弾が強く発光する。



「終演のお時間ですわ。最期に見るものがわたくしのような天使であって、あなたの人生は恵まれていますわ」



「は、ハハハ、ハハ、アハハハハ……」



 ハイライトをなくした瞳で涙を流すクリフトの正面で、ルウがまさに天使のような可愛らしい微笑みを浮かべた。



 爆弾が爆発の予兆を見せた瞬間、我子はその爆弾のある空間に右手をかざす。



「閉じなさい――『幻想発現魔法少女シュガーアンドスパイス』」



 ドラゴンから抜き取った神性を改良し、自身の魔法へと昇華させた我子の新たな力。

 神性を魔法へと変え、そこに我子自身の神性を加えることで新しい理を生み出すことができるその魔法は、ドラゴンが使用していた世界から乖離という魔法ではなく、その事象が影響を及ぼすという限定的な範囲を対象――この場合、爆発が及ぼす影響という範囲を選択し、それ以外の対象を弾いた。



 爆弾が爆発した。

 しかし爆発した爆弾が周囲に及ぼす影響は切り離した世界へと消えていき、爆弾を囲っていたルウとクリフトには一切の影響が現れていなかった。



「ったく、手間かけさせるんじゃないの。ルウ、その商人がウチをギルマスと見抜けなかったからってそんな頭に血を上らせるんじゃないの。値引きが理由じゃない時点でその勝負は不平等よ」



「……今、なにをしましたの?」



「対象が及ぼす影響をあるかもしれない過去と未来、現代にぶっとばしただけよ。明日どこかで爆発が起きるかもしれないし、昨日どこかで爆発が起きたかもしれないわ」



 ルウが頭を抱え、またとんでもない力を使って。と、呆れているのだが、我子は彼女に近寄るとデコピンをし、クリフトを指差す。



「白目向いて気絶なんて漫画でしか見たことないわよ。これで彼が廃人になったらあんたちゃんと償いなさいよ」



「わかっていますわ。確かに、大人気なかったかも――」



「ウチはあんたに子どもらしくいろって言ってんの。悪いことをしたなら謝る、気に食わないことをされたら感情を爆発させる。ルーアと大して歳が変わらないんだから、わざわざ大人になんかなるな」



 ルウが頬を膨らませたのを見て我子は小さく息を吐き、ルウを抱き寄せて優しく頭を撫でる。

 きっと彼女には本当に痛みがないのだろう。故にそれを我慢するなとは言わない。もう我慢する段階は過ぎているだろうし、何よりその力で彼女が段々とギルドのためではなく、ギルドにいる自分自身のために使い始めてくれているのが我子は嬉しかった。



「リップヴァンウィンクルは好き?」



「……ええ、私のかけがえのない場所ですわ」



「そう。ならこれからも気に入らない奴がいたら、あんたのためにどんどんやっちゃいなさい。誇りだの恩義だの仁義だのに振り回されることなくあんたのためにね。そう在っていてくれるのなら、ウチがいつでも抱きしめて頭を撫でて甘やかしてあげるわ」



 ルウが朱の差した頬を隠すようにそっぽを向いたが、彼女が涙目を浮かべていたことを我子は見ており、しばらくそのままの体勢でいるのだった。

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