トクホの人型ポーズ真似したら腰がパキっていったんだけれどこれってトクホ買えってことかしらそれとも――
「頭が痛いわ……」
翌日、真っ青な顔をした我子が頭を抱えて自室から降りてきた。
「わ、アンジュ様ごめんなさい、起こしに行けなかったです」
「いいのよルーア、今日は早く起きちゃっただけだから」
シュンとするルーアを抱っこする我子だったが、彼女が一瞬眉をひそめたことで、さすがに飲みすぎたかと反省する。
「ルーア殿ですら引くくらい飲むのはいかがなものかと思いますぞ」
「わかってるわよ。ごめんねルーア、ちょっと臭ったでしょう? 顔と口を洗ってくるわ」
「い、いえ、ルーアにはまだ早い匂いがしただけですから」
こんな幼子にまでフォローさせてしまうとは。我子は項垂れるとルーアを撫で、そのまま洗面台へと向かった。
「っと、フィムもルゥもミリアもおはよう。朝からシャンとしていて偉いわね、ウチは朝だめだわ」
「おはようございますですわ、朝がだめなのではなく寝る前がだめすぎるだけだと思いますわよ」
「昨日は結局、飛竜のお肉で明け方まで騒いでいたもんね。よくあれだけ体力が続くよね、結局アンジュちゃんとナイトさんだけだったんじゃない? 最後まで起きてたのは」
昨夜他の冒険者たちを交えて店内バーベキューをしたことまでは覚えている我子なのだが、それ以降の記憶がなく、どうにも記憶を探っても頭痛しかしない。
そんな風に昨日のことを思い出そうとしていた我子に飛びかかる影が一つ。
「おっと――ミリア、朝から情熱的なダイブは割としんどいわ」
「むぅ……だって、最近お姉さま、かまってくれない――ってお姉さま、すっごいニオイ、女の子が……しちゃいけない、臭いが、するよ」
我子は頭を抱える。
慕ってくれているはずのミリアにストレートに言われてしまい、心臓を鷲掴みにされたような圧迫感に襲われる。
「……ねえ、昨日ウチなにかしてた? お酒だけでここまで言われないわよね?」
流石に何度も臭うと言われ、一応花も恥じらうお年頃な我子は傷ついていた。そのために原因究明のために昨夜の行動から見直すことにした。
「男集からもらったタバコをぽこすか吸っていましたわよ」
「どう考えてもそれが原因ね。えっと、こっちのタバコはどんなものだったかしら――」
我子は異世界転移の特典としてもらったアイテム鑑定とアイテム図鑑を駆使してこの世界でのタバコを検索する。
「へぇ、ウチがいたところと大差ない感じのもので、50年前のプラチナが考案したのね」
我子は納得する。
現代にいたとき、そこまで過剰に嫌っていたわけではないが、やはり香ってきたら顔をすくめるくらいには濃い臭いだった記憶があり、それに酒の臭いまで加わればルーアとミリアが嫌がるのも当然だと深く反省するのだが、ふと思いつく。
そしてその思いつきのために情報を集めなければとルウに目をやる。
「なんですの?」
「ねえルウ、やっぱりタバコって嫌われているの?」
「それはあの臭いですからね、好んでいる人は稀ですわよ。精々冒険者たち周囲の評価を気にしない人々が吸っている程度ですわ」
「アンジュちゃん段々と歳のいった冒険者風じみてきたよね。見た目はすっごい美人さんなのにやっていることが熟練のおじさんおばさんだもん」
我子はフィリアムのこめかみに、折り曲げて尖らせた指の第二関節を押し当てながら思案顔を浮かべる。
「さっきからどうしたんですの?」
「ねぇルウ、ウチたちが今四季風で何を売っているのか。答えられる?」
「何って言いますと。お茶ですわよね?」
「そうじゃなくてね」
我子は喉を鳴らしルウを撫でるとポケットを漁り、そこに入っていた昨日のだいぶ先が残っているタバコの吸い殻を取り出して口に咥え火を点ける。
「安らぎと癒やし、ついでに治癒ね。さて、治癒はともかくそれをたった一本で実現しちゃえるものがあるんだけれど。しかもどういうわけか四季風とすこぶる相性のいいものがあるのよね」
ルウが呆れたような、訝しむような顔で我子を見た。
しかし彼女が口を出す前にフィリアムが首を横に振り嫌だ嫌だと声を荒げた。
「せっかく可愛くてお洒落な感じの喫茶店になってきたのに、煙臭くなるのなんてヤだよ」
「私も、ちょっと嫌……かも」
しかし我子はフィリアムとミリアの唇に人差し指を押し当て、話は最後まで聞く。と続きを話すために口を開く。
「別に既存の形にこだわる必要なんかないわ。煙が出ないものを作ればいいし、見た目も変えればいい。臭いがしないものを作ったっていい」
「う〜ん、でもそんなこと――」
「タバコっていう形に関してはミスティックルナーを使えばなんとでもなるし、ウチたちにだってなにかできるかもしれない。しかもそれだけじゃないわよ、タバコの材料は何か答えられる?」
「え? 材料って紙と葉っぱ?」
「ああなるほど、確かに四季風と相性はいいですわね。ですがそれで満足できる物ができるんですの? 結局普段の商品と大差ないものが出来上がるのではないんですの」
「ウチを誰だと思っているのよ、そこそこに喉も体も刺激して安らぎと依存性をもたらす葉っぱの一枚も二枚も手に入れてやるわ」
首を傾げるフィリアムとミリアを我子は抱き寄せ、口角を上げて嗤う。
「悪人ヅラですわね」
「えっと、つまりどういうことなのかな?」
「四季風で出しているようなブレンドの葉っぱを使って新しいタバコを作って売り出そうという魂胆ですわ」
フィリアムとミリアが顔を見合わせて驚いた顔を浮かべると、すぐに弾けたように破顔し納得したように頷きあった。
「女だからって吸っていけない道理もないし、可愛くタバコを吸っちゃいけない理由もないわ。目指せトクホタバコ」
トクホとは何かとルウに聞かれた我子だったが、意気揚々とやる気に満ち溢れているために耳に入らず、これからの行動について予定を立て始めるのだった。




