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第三話

こうしてこの木神このがみ玲奈れなという生意気な子を家に居させることになった。


そこで一つの問題が起きる。木神の部屋をどこの部屋にするかだ。

木神が今までポテチを散乱させていた部屋は一階で一番大きい部屋だ。

さすがにオーナーであるはずの俺がその部屋を使いたい。だからなんとかして木神を別部屋に移動させなければならない。


「よし、木神このがみ


「なに?」


先の乱闘が終わってから木神はずっとゲームに食いついたままだ。こちらを気にするそぶりすら見せない。


「お前は二階の一番奥の部屋だ。荷物まとめて移動しろ。この部屋は俺が使う」


「は?めんどくさいんだけど」


「おまっ!居候の分際でめんどくさいだと?!」


「あんたこそ世間からすれば誘拐犯の分際だよ。そこんところちゃんと自覚持ちな」


木神はこちらに見向きもしないまま冷淡に告げた。


「この手の脅しがいつまでも続くと思うなよ…」


「吠えてろバーカ」


俺は怒りを腹の下でグッとこらえる。ここは穏便にことを済ませた方が良さそうだ。

俺はリュックを持って二階の奥の部屋へと向かった。



翌朝、大量のポテチとコーラが届いた。

木神このがみは喜んでダンボール箱の山に飛び込み、


「今日はコーラの風呂に入れるわ!」


などとのたまっている。今のうちにメントスを大量に注文しておこう。


しかしこうのんびりしている暇はない。やることがたくさんある。


俺はダンボール箱の山から木神を引きずり出そうとした。

だが、腕を掴もうとするたびに「痴漢です!」と叫ぶので、こんな馬鹿は放っておいて一人で仕事をすることにした。


この家は何年間も空き家だったらしく、埃と蜘蛛の巣まみれだ。リビングは誰かさんのせいで、生ゴミ臭が漂っている。これは精神衛生上よろしくない。

ただ、家が広すぎて掃除する気力も起きない。


流石に一人で掃除するのは無理だと思って、木神をなんとかポテチ部屋から引っ張り出して掃除を手伝わせた。

「掃除終わったら新作ゲーム買ってやる」と言った途端木神は急にやる気を出し、見事な手際で仕事をしてくれた。おかげさまで掃除は日が昇る頃には終わった。


陸斗りくと!掃除終わったからゲーム屋さん行くよ!」


急に下の名前で呼ばれ、ビクッとした。


「俺は長旅と掃除でクタクタなんだ。さすがに寝させてくれ」


そういいながら俺は自分の部屋に向かおうとした。


すると後ろから急に腕を引っ張られ、バランスを崩した。その勢いで体を壁に押さえつけられた。背骨に鈍い痛みが走る。

これが世に言う「壁ドン」か。ずいぶんと乱暴なものだ。


目を開けるとニコニコと笑う木神が俺を見つめていた。しかしその目だけは恐ろしい殺気に満ちている。


木神の腕が俺を押さえつける力はあまりに強く、抜け出せそうにない。


「約束、破るの?」


木神は笑顔で聞いた。僕はその時点でまたしも折れてしまった。



街中に出ると、あらゆる店が目に入った。コンビニ、スーパー、メガネ屋さん、カフェなど、大抵は元いた世界と同じだ。

ただ、全ての店がレンガ造りだ。昨日来たばかりの時は暗くて気がつかなかった。俺の家もそうだし、こっちの世界ではこれが普通なんだろうか。それともこの街特有のものなのだろうか。


そんなことをぼーっと考えているうちにゲーム屋さんに着いた。やはりレンガ造りだ。

そんな外見とは打って変わって、中は見慣れたゲーム屋さんだった。新作のゲームがずらりと並んでおり、どれも俺が前いた世界と同じようなものだった。しかし、その中に俺の目を引くものがあった


[カフェイン王になろう!]


おそらく「石油王になろう!」みたいなノリなのだろう。後学のために買っておこう。その隣には[サファ探検隊3]というゲームもある。トレジャーハントゲームらしい。3まで続いてるってことは人気なのか?それほど面白くもなさそうだが...


結局カフェイン関係のゲームを二つほど買ってしまった。その間に木神は大量のゲームをカゴに入れて持ってきた。俺は呆れながらも、全部を買った。どうせベルツカードは無限に使えるんだし。



「お前のゲームなんだからお前が持てよ。量が多くて重いんだよ」


「レディーに荷物を持たせようとするなんて配慮が全く無いようね。最早感心する。」


店を出て5秒も経たないうちに険悪ムードだ。


「お前がレディーを自称するのは10年早いわ」


木神は同い年と思えないほど華奢だ。


「あんた今私の胸を見て言った?」


「え?胸なんてどこにあるの?」


そう言った直後、右足に激痛が走った。足元を見ると木神が潰す勢いで俺の右足を踏んでいた。


「いってぇ!!」


俺は右足を手に抱えてぴょんぴょんと飛び跳ねる。


周りの人が一斉にこっちを振り向いた。

完全に「イタい」やつだと思われている。


木神は他人のふりをしてスタスタと歩いて行った。

胸が小さいことを相当気にしているらしい。



家に帰ると木神は手も洗わずに買ったばかりのゲームをし始めた。その傍らには当然ポテチとコーラ。こいつの不摂生をなんとかしてやらないと。


「おい木神。毎日カップ麺とポテチじゃ流石にダメだ。」


「なんで?陸斗さまには関係ないことじゃない?」


「いいや関係ある。俺たちは協力関係にあるからな」


「ふーん。じゃあ飯よろしくー」


「いやなんで俺がお前のためにそこまでしなくちゃいけないんだよ!」


「え?だって私の食生活が気になってしょうがないんでしょ?当然だよね」


「そうだとしても礼儀ってもんがあるだろ!」


「ゴハンヲツクッテクダサイ。ヨロシクオネガイシマス。」


「ああもう!なんなんだお前!」


イライラが猛スピードで募っていく。

だが、こういう奴相手にいくら口で言っても理解してはもらえないのはわかりきっている。


ここは舌で理解させるしかない。



俺は街の市場へと出向いた。


「スパイスどこで売ってるかな」


徹夜明けの猛烈な眠気に抗いながら俺は材料を探した。

動物の足のようなものを売っている肉屋さんや、でっかい葉っぱを売っている八百屋さんなどが目に入った。なかなかに奇妙で、やっと異世界に来たという実感が湧いてくる。


「よお、兄さん!何探してるんだい?」


急に声をかけてきたのは八百屋さんのおじさんだった。

がたいがよく、身長も高いく、いかにも健康そうな人だった。


「はぁ」


驚いて間抜けな返事をしてしまった。


「元気ないなさそうだなぁ。あんた、見慣れない顔だねえ。最近引っ越してきたのか?」


「まあそんな感じです。それよりスパイスってあります?」


「スパイス?聞いたこともねえな」


「香辛料のことです。ピリッと辛いあれです」


「もしかしてクーリエのことかい?今持ってくるわ」


おじさんは店の奥へといき、すぐに戻ってきた。


「運がいいな兄さん、これで最後だったよ」


そういいながらおじさんは掌サイズの実を渡してきた。


 香りはクミンに近い。これなら使えそうだ。


「じゃあこれください」


「毎度あり!またよろしく頼むぜ兄さん!」



「木神!夜ご飯の準備できたぞー!」


「昼間急にいなくなったけどどこ行ってたの?」


「まあ食材探しかな」


「これの?」


木神はテーブルの上の鍋を指差す。


「そうだ」


「何作ったのか早く教えなさいよ」


そういいながら木神は鍋の蓋をとった。

スパイスの香りが部屋をみたした。


「今日のディナーはカレーだ」


「なんだこれ。茶色いし。まるでうんk−」


「ストップストップ!!今絶対言っちゃいけないこと言おうとしたよね?」


「いやどっからどうみてもうんk−」


「ストップ!!まずは一口でもいいから食べて!」


「こんなのが美味しいわけないんだけど」


そう言いながら木神はスプーンを口に運んだ。


「うまっ!!」


「だろう?この料理が知らないなんてこの世界のやつらは人生の半分損してるわ」


「なによそれ意味わかんないんだけど。それよりもこれ、辛さと旨味と甘みがちょうどいいバランスで、米と驚くほど合う...。これどっか他の国の料理とか?」


「まあそんな感じだわ」


「へ〜。少しは見直した。案外有能なのね」


「一言多いな」


「じゃあ明日は私が作るよ。材料だけ買っておいてちょうだい」


「そうか...よろしく頼むぞ」


ここまで素直だとむしろ怖い。というのも木神が美味しいご飯を作るのは流石に想像しがたい。あれほど部屋を汚してゲームばかりしてる奴がそもそも料理なんてできるのか?



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