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ふたりで街を散歩している。

彼女は涼しげな装いで、ワンピースにつばの広い帽子。

僕はワイシャツにスラックス。同じのが数着あり、他には持っていない。

平坦な住宅地を歩く。主要道路からは離れており、走っている車は見かけない。道路脇に猫が寝ており、のどかである。


「あん、また逃げちゃった。」


彼女が猫を撫でようとして近づくが逃げられたようだ。茶トラの猫が駆けて行くのが見える。


「そんなに真っすぐ近づいていったら逃げられるよ。猫を見ないで、3メートルくらい離れたところで座り、下から手を出してみて。猫が触ってくるまでジッとして、できるだけ見ないでね。」


少し進むとまた猫がいた。白猫だ。

また彼女が駆けていくが、途中で止まる。


「あっと、猫を見ないで近づいて、、、。」


作戦がうまくいき、猫が近寄ってきて彼女が猫を撫でる。目の前で猫が寝転がりゴロゴロする。両手で猫の背中を擦り、彼女はにこやかになる。


「うわーかわいい。」


その彼女の笑顔を見て、子供の頃にも同じようなことがあったと思い出した。その時と同じに、僕も近くに寄って猫を撫で、手提げから煮干を取りだして猫にあげた。


「あ~、ずるい。私もあげたい。」


彼女が煮干をあげていて、見ていた猫が何匹か近づいて来る。

突如、遠くで様子を見ていたキジトラ猫がさっと駆け寄り煮干をさらっていった。


「きゃっ」


驚いた彼女が尻もちをついて転び、ワンピースの裾がめくれる。

集まっていた猫は皆、驚いて逃げて行った。


「大丈夫かい?」

「ありがと。」


手を差し伸べる。彼女が手を取り、立ち上がって衣服を整えた。


「見たでしょ?」

「ああ白いのが見えた。」

「もう、エッチ。」

「不可抗力だよ。」


仕方ないねと肩をすくめる。彼女も仕方ないなと苦笑いする。


「いつも煮干を持ち歩いてるの?」

「ああ、ここに来る時は持ってくるんだ。猫が多いからね。撫でさせてもらったお礼にあげている。」

「ふーん」

「煮干をあげるのは君に教えてもらったんだ。その時の君の笑顔が素敵だった。」

「え?、そうだったかな。」



子供の頃の記憶。


彼女の家の前に僕がいる。自動車の下で猫が寝ており、僕は静かに近づいて覗きこむが、猫は逃げてしまった。


「あの三毛猫はとなりの家の子よ。また来るから玄関に座って待ってて。」


少女はそういうと家の中に入る。

しばらくして猫が現れ、さきほどと同じように自動車の下で丸まった。ちょうどよく彼女が戻ってきた。


「猫が来たよ。恵美ちゃんが連れて来たの?」

「ううん、違うよ。わたしが持ってきたのはこれ。」


少女の手のひらには煮干しが乗っている。


「えっ、それどうするの?」

「猫が食べるのよ。こうするの。」


どこから持ってきたのか、皿のようなものを置き、煮干しを入れた。少女が皿の端を爪でたたくと、猫が近づいてきた。


「まだ騒がないでね。食べ始めたら撫でていいから。」

「うん。」

「猫を撫でたらこれあげて。」


少女の手から煮干しを数本受け取った。

猫が皿の煮干しを食べ始める。少女が猫に近寄り、背中を撫でる。


「あきくん、もういいよ。」

「うん。」


僕は猫に近寄り背中を撫でる。その優しい手触りに感激した。


「猫、可愛いね。」

「でしょ?、可愛いのよ。あ、そろそろ煮干しをあげて。手のひらに載せて猫に見せるの。」


僕は煮干しを持つ手を開けて、もう片手を添えて、猫の前に差し出す。猫が僕の指の匂いを嗅いでから、煮干しを食べ始める。猫の温かさと、舌でなめる感触を手のひらに感じる。


「僕の手から煮干し食べてるよ。」

「可愛いでしょ。」

「うん。」


僕は少女を見る。少女は笑顔を見せており、僕はその笑顔にドキッとした。


「じゃあ、わたし出掛けてくるね。昨日の盆踊りで友達と踊ってたんだけど、その友達と約束しているの。昨日途中で抜けちゃったから謝らないと。」

「うん、わかった。行ってらっしゃい。」

「ごめんね。あきくんまたね。」


少女は駆けて行く。僕はその後ろ姿が見えなくなるまで見送った。




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