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婚姻届


就寝前。

用意してあった婚姻届と必要書類を見ている。叔母さんから、用意しておいたからと渡されたものだ。彼女との結婚は僕には急な話だったが、やはり前もって準備していたのだなと思う。


「婚姻届だけど、必要書類は揃っていると思う。証人欄も叔父さんと父さんが書いてくれていた。あとは僕らが記入するだけだ。」


彼女の前に用紙を置いた。


「今なら出さないこともできるが、どうする?」

「え?」


彼女は、意味がわからないという顔をしている。


「えっと、出したいなら名前を書いてくれ。」

「あきくんはどうしたいの?」

「え?」

「あきくんの気持ちが知りたい。わたしと一緒にいたい?」

「う~ん、結婚するという実感はないが、一緒にいたいとは思っている。」

「なら決まりね。」


彼女は用紙を手に取り名前を記入する。続けて僕も記入した。


「結婚するか。」

「うん。」


彼女が隣に座り、僕に寄りかかる。


「明日、届けに行こう。」

「ん。」


気がついたら彼女は寝息をたてていた。昼間は買い物ではしゃいだので疲れていたのだろう。起こさないように抱えてベッドまで運び、おやすみと声を掛けた。



翌朝。

彼女は寝ているのだろう、まだ姿が見えない。そういえば、ふたりでの写真を撮っていないと気が付き、デジタルカメラを取り出して充電を始める。しばらくして彼女が起床した。


「おはよう。」

「ん、おはよ。寝坊しちゃった。」

「親と離れて初めての土地に来たんだ。疲れているのだろう。仕方ないよ。」

「ふふ、あきくんはいつも優しいね。」

「そうかな?」


ピンポーン♪

呼び鈴が鳴り、彼女が玄関に向かう。


「あっ、ちょっと待って、僕が出る。」


彼女を呼び止め玄関にむかう。パジャマ姿だと手振りで伝えた。

宅配の人から大島めぐみさん宛と言われ、え?となったが、宛名をみて納得する。荷物を受け取り居間に運ぶ。

着替えをした彼女が来て、荷物の宛名に大島恵美とあるのを見ると、両手を頬にあて身体をくねらせる。


彼女が荷物を取り出している。見てはいけないものもあると思い、その場を離れた。

台所で朝食のトーストを作る。目玉焼きは失敗して炒り卵になった。インスタントのコーンスープをいれ、彼女に朝食だと声をかけた。


朝食の後、ふたりで役所に向かう。既に陽が高く昇っており真夏日で暑い。途中の商店街で帽子を買うことにした。今日の彼女は水色のワンピース姿で、髪は赤みを帯びたパーマのかかったボブ。彼女が選んだネイビーのハンチング帽が、日差しの中で彼女によく似合った。


役所に着き、謎のオブジェの前で歩みを止める。


「記念写真を撮らないか。」


セルフタイマをセットし、オブジェを背にふたり並んで立ち写真を撮る。

デジカメの小さな画面で確認し、何度か取り直しをした。緊張しているのか写真のふたりの表情は固かった。


窓口に行き、ふたり手を繋いで婚姻届を係員に渡した。戸籍謄本と住民票を貰い、ベンチに座って名前が書かれているのを確認する。


「手続き完了だ。」

「うん。」


彼女が笑顔になる。僕の頬も緩む。緊張していたのだろう、疲れているのを感じた。


「少し疲れた。休憩しよう。すぐそこのカフェに入るか。」

「うん、わたしも緊張して疲れたわ。」


カフェに入り昼食にした。頼んだ料理が美味しく話が弾む。彼女が笑顔で話をしている。いつもより可愛く見えた。

彼女と付き合って行けるのか、彼女を好きになれるのか、先ほどまで不安を感じていた。婚姻届を提出して書類上ではあるが夫婦になったのだと実感し、なにかが変わったように思う。好きになれるのかは分からないが、彼女と付き合って行くんだと心の中で誓った。


他に用事がないため、カフェから出てからは、ぶらぶらと商店街を散策することにした。

彼女が僕に手を伸ばす。


「手を繋ぎたい。」

「ああ、わかった。」


帰りはずっと手を繋いでいた。



家に着いて玄関を開ける。


「「ただいま」」


ふたり揃ってただいまと言い、ふたり顔をあわせて微笑む。


「「おかえり」」


ふたり揃って返し、温かい気持ちになった。




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