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ふたりの思い出


夕食の席にて。


「飲めるか?」

「少しなら。いただきます。」


叔父さんが日本酒を勧めてきた。


「いい男になったな。去年は頼りないと思い、恵美を任せていいのか悩んだものだ。いまなら迷うことなく任せられる。」

「いや、まだまだです。恵美が居てくれるから頑張れています。」


僕は恵美を見る。


「言えるようになったじゃないか。恵美、よかったな。」

「うん。」


しばらく雑談していたが、酔が回ったころ、あのときの話を始めた。


「あのとき恵美にしつこく言い寄るのが居てな、恵美は断わっていたんだが、あの少し前にそいつが強引に迫ってきて、偶々通りがかりの人が助けてくれて何事も無かったんだが、これはどうにかしないといかんとなってな、そんで悩んでいたら、恵美が、あきくんと結婚すると言うから驚いてな。で、君のお母さんに電話したら、君には好きな人も付き合っている人もいないと聞いて、わけわからんとなったんだが、まあ二人は子供のときから仲がよかったし、ちょっと頼り無かったが君は信用できるし、渡りに舟ということでくっつけることにした。君の性格から事前に伝えると断る理由をあれこれ考えて駄目になるので、帰り際に言えばなし崩しになるだろうってことでああなった。まあ、結果は作戦どおりだな。」


「はあ、それでいろいろ準備してあったと。」


「まあな。君が来るのを待っていた。ひとりで外に出すと危険だから、結婚すると言って会社を辞めさせてな。ダメと言われても無理やりくっつけるつもりだったよ。はっはっは。」



しばらく叔父さんの話に付き合い、叔父さんは酔いつぶれた。恵美は途中で抜けて先に寝ている。


叔母さんがお茶を持ってきた。


「恵美と一緒になってくれてありがとね。あの子ね、古い袋や花火の燃えさしやら、大事に仕舞っていてね、以前に、汚いから捨てなさいって叱ったのだけど、綺麗に拭いてまた仕舞ったのよ。理由を聞いたら、あきくんとの思い出だって。他にも小さな笛や玩具の指輪があったわね。憶えてる?

あ、そうそう、あきくんから貰ったっていう櫛が割れちゃって、わんわん泣いてたこともあったわ。」





布団の中で、考えていた。

恵美との過去の出来事。一年間一緒に過ごして、おぼろげに思い出していたが、今日の出来事を切っ掛けに鮮明になっていく。


紫の大きな朝顔が描かれた綿飴の袋。彼女が綿飴の袋を大事に抱えてた。綺麗に洗うからと叔母さんと揉めていた。小学5~6年の頃の思い出。


花火の燃えさし。両思いになれるというおまじないを叶えた花火。彼女が大事にしまっていた。彼女が僕を意識したであろう出来事。中学1年の頃の思い出。


彼女とふたりきりで歩いた河川敷。彼女が僕を好きになったと言う出来事。初めて彼女と同じ皿の料理をつまんだ。魚の骨を取りだして、魚には鯛の鯛があるのよとハンカチに包んでいたのを思い出す。僕の背が伸びたときの、中学2年の頃の思い出。


無垢木の和櫛。中学の修学旅行での土産だ。くせっ毛だから絡むのと言っていた。大事にするって紅い顔で俯いて言ったのを思い出す。翌年、風邪で寝込んでいる彼女が、櫛が割れてしまったのと泣きながら僕に謝る姿を思い出す。僕が彼女を意識した時だ。中学3年から高校1年の思い出。


小さな笛。お土産を家に忘れて彼女の家で竹から作った笛。竹を貰いに彼女と出掛けた、ふたりきりでの初めてのデート。笛を作っているところを彼女が見ていた。高校2年生の思い出。


ふたりで出掛けた初めての日帰り旅行。彼女とふたりでの食事。ご飯を食べるときの彼女の嬉しそうな表情。用意していたが渡すタイミングが無くて帰りの電車で渡した小さな銀のハーモニカ。そのときの彼女の笑顔。高校3年生の思い出。


あの頃は彼女を特別と思っていたのだろう。すっかり忘れていた。

ずっと心に引っ掛かっていたなにかが埋まった気がした。





翌日。

用事を済ませた帰りに、ふたりで近所の神社に行く。参拝した後にふたりで(えん)に腰を掛けた。


「子供のころ、よくここでお菓子を食べたの。いまは無いけど、あそこに駄菓子屋さんがあって。あきくんとも一緒に食べたのよ。」

「ああ、すこし覚えてる。家の縁側と思ってたが、ここだったのか。」

「わたしが飴の指輪をつけて、あきくんの口に押し当てたら、あきくん逃げちゃって。」


思い出話に花を咲かせ、しばらく語り合った。



「ここもいろいろ変わってしまって、あのときの御神木も無くなっちゃって、、、」


悲しいことを思い出したのか、静かになっていく。


「恵美。」

「ん?」

「思い出したんだ。子供のとき僕が君を好きだったことを。大人になって忘れていたが、君と暮らす日々が思い出させてくれた。」


恵美をみた。恵美も僕をみている。


「そして今でも君が好きだ。これからもずっと一緒にいて欲しい。心からそう思う。」


恵美の目に涙が浮かぶ。

彼女を抱き寄せて愛してると囁き、そして長いキスをした。





黄昏になり、辺りが暗くなっていく。交差点の信号と通り過ぎる自動車のランプが浮き上がって見え、いまは行われていない夏祭りを思い出す。


「あの夏祭りが僕達の始まりだったのかな。」

「うん。わたし達の思い出が始まったの。」

「そうだな。」


僕は恵美を見る。1年前から髪が10センチほど長くなった。思い出の中の彼女の髪は長い。その長さにはまだ届かないが、そう遠くない未来にその長さに届くだろう。


「神様にお礼を言ってから帰ろう。」

「うん。」


ふたりで並んで立ち、拝礼する。

その後、僕たちは手をつないで、ふたり並んで歩きだす。




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