ふたり
ふたりでべッドに横になっている。
残業続きで疲れた僕は、ぐったりと身体を沈めている。
対照に、恵美はテンションが高かった。花屋の真奈さんに赤ちゃんを抱っこさせて貰ったらしい。
「でね、赤ちゃんがわたしの指を掴むの。小さい手でギュって。指がとてもちっちゃくて、それでもしっかり動いていてね、すごく可愛いの。あと、ほっぺがまんまるで、つんつんするともぐもぐしてね。可愛いの~。」
恵美のテンションについていけず、早く終わってくれと祈る。だが祈りは叶わなかった。恵美がこっちを見て、じわじわと近づいてくる。
「わたしも赤ちゃん欲しいな~。」
「まあ、神様の贈り物というからな。簡単ではないよ。」
「うん、そうだけど。やることやらないと出来ないよ?」
「ぐはっ」
鋭い指摘に少なからずダメージを受ける。夫婦になり5ヶ月が経つが、まだ営んでいない。
「そもそも、温泉宿に泊まっても手を出さないのはどうなのかなって。立たないのかなって。」
「いや、そうでは、、」
「あきくんを待ってたら、おばあちゃんになっちゃうよ?」
「んん?」
「だからね、わたしから襲うの!、それ~。」
「ちょっとまて、今日は疲れているんだ、、、」
☆
翌朝。ふたり一緒に目が覚めた。
「おはよう。」
「ん、おはよ。」
ピタリと身体を寄せ、ふたりとも裸で寝ている。直に感じる体温が心地よい。
「少し安心した。」
「ん?」
「夫婦になれたのかなって。」
「ん」
恵美は身体をよじり、背中を向ける。
「わたしね、待っていたの。あきくんが迎えにこないかなって。高校を卒業したら迎えに来るかな。成人式のあとに来るかなって。
夏にあきくんがうちに来るけど、わたしに一緒に来いと言って欲しいって、いつも願ってた。いつもわたしに声を掛けてくれるけど、望んでいた言葉は無くて、帰ったあと泣いてた。もう諦めようって、忘れたいって思って、神社でお願いまでして。
でも諦めきれなくて。意気地のないわたしは何もしないで待ってた。」
恵美の声は少し震えている。
背中から抱きしめた。
「怖いことがあって、お父さんに相談したら話が進んで、結婚して。
それから毎日があっという間で、毎日が楽しくて。以前のわたしには想像できないくらい幸せで、夢を見ているのではないかって。
いまこうして一緒にいて、あきくんに抱きしめて貰えて、とても幸せ。」
恵美の手が僕の手に重なる。
「待っててくれてありがとう。以前の僕は幼かったから、なにも考えずに受け入れない選択をしていたかもしれない。
経緯はどうあれ、いま僕らはこうしてここにいる。君が待っててくれたから一緒になれたんだ。」
恵美が僕の手を握る。
「ありがとう、愛してるわ。」
「僕もだ。」
しばらくそのままでいたが、恵美が身体をよじりこちらに向く。少し不機嫌のようだ。
「言わないの?」
「え?」
「わたしは言ったよ。愛してるって。」
「ああ、愛してるよ。」
「気持ちが入ってない。」
「うっ。」
呼吸を整えた。
「恵美、愛してる。」
すこし待つと、恵美が顔を寄せてキスをした。
「ありがと。」