雪だるま
夜半から雪が降り、翌昼に30センチほど積もってから降り止んだ。
「母さん、今日も泊まっていいかな。これだけ積もると帰れないや。」
「いいわよ。」
「これだけで帰れないの?」
「電車が動かないんだ。この辺りの電車は雪に弱いから。」
「ふ~ん。」
僕の実家に泊まりに来ている。電車とバスで1時間ほどの距離ではあるが、今回が結婚してから初めての訪問となる。仕事が忙しくなると難しいため、天気予報で降雪と聞いていたが強行した。
じっと雪を見ていた恵美が、よしと気合を入れて外に出る。
「雪だるまを作るよ!」
そう言うと雪を丸め始めた。やれやれと思いながら手伝う事にし、スコップを手にして外に出る。
「雪を集めるよ。」
「かまくら作るの?」
「いや、雪が少ないから集めるんだ。雪だるまを転がしていると土で汚れるから。」
「え、もう胴体できたよ?」
そこには土で汚れた雪玉があった。
「あっちで頭作るね。」
恵美は雪がきれいな方に駆けていく。
走ると危ないと思ったその時、恵美が前のめりに転ぶ。
「きゃっ。」
「大丈夫か?」
「もう、転んだ~。」
転んだ彼女の姿を見て、子供の頃の出来事を思い出した。
☆
「きゃっ。」
声がした方を見ると、雪の中に少女がうつ伏せに倒れている。
「転んだ~。あっ見て、わたしの形。」
僕は近くに寄り手助けをする。
「ん、ありがと。」
立ち上がり、雪を払う。
「一緒にあたまを作ろうよ」
少女はそう言うが、一緒に転がすには雪玉は小さい。少女がひとりで転がし、あっという間に丁度良い大きさになった。
「重くて持てない。手伝って。」
「ああ、ちょっと待って。」
ふたりで雪玉を持って胴体の雪玉まで運ぶ。乗せようとするがバランスが悪くうまく乗らない。
「あきくん支えてて。首をくっつけるから。」
少女がぺたぺたと雪を付ける。
出来上がったそれは、雪だるまというよりは、ひょうたんであった。
「まあいいか。出来た~。ほら一緒に、出来た~!」
「出来た~!」
二人で万歳をする。
そこに叔父さんがやって来た。
「雪だるま出来たのか? ん、これか? う~ん、少し綺麗にするか。」
土がついたところをスコップで削り、新しい雪をつける。型を整えてからふわふわの雪を振りまいた。
「そら出来たぞ。どうだ。」
「わたしが作った雪だるまなのに~。わたし、つるつるがいい。」
雪だるまをぺたぺたして固める。ふわふわは無くなっていく。叔父さんは残念そうだ。
気を取り直して叔父さんが胸を張って指をさす。
「あっちにかまくらを作ったぞ。見るか?」
「見る。あきくんも行こ!」
僕の腕を掴み、強引に引っ張っていく。
かまくらに着いて、二人で中に入った。
「暖かいね~」
「うん。」
「すごいだろ、はっはっは」
叔父さんが入ってくる。
「おとーさん、狭い。邪魔。あっちいって。」
「恵美、それはないだろ。俺が作ったんだぞ?」
「邪魔。あきくんと二人でいっぱいなの。」
叔父さんが肩を落として去っていく。
しばらく遊んでいると叔父さんが来た。
「寒いから早く家に入れよ。」
「ここ寒くないから大丈夫。あきくんも温かいし。」
☆
二人で雪だるまをつくった。叔父さんが教えてくれた、ふわふわの雪だるま。
「お父さんの雪だるま。なんだか懐かしいな。」
優しく恵美の肩を抱いた。
家に入り、母さんに尋ねる。
「叔父さんのところで雪だるまを作ったのを思い出したんだ。毎年夏に行っていたと思うけど冬にいったことあったかな?」
「あるわよ。雪だるまを作ったのはあなたが小学5年のときね。あのときね、あなた達がかまくらの中に二時間もいて心配したものよ。様子を見にいったら二人で仲良く遊んでいて、絵を書いていたのかな、楽しそうだったわ。それから、叔父さんが娘を取られたと嘆いてたわね。」