二つ目の名
私はずずという名前をもらったが、間もなくお母さんは私をピイと呼ぶようになった。何でも、私の鳴き声がぴいぴいしているからだという。小さく鳴いてもピイ、大きく鳴いても結局ピイとなってしまうのはわざとではない。ついつい、だ。お母さんが「ピイ?」と呼べば、「ピイイ」と鳴いて姿を現す。体を擦り付けて、そのうちくるりと回ってお尻を向けると立てた尻尾を振るわせ……
「何、臭いよ?」
「なんてことをするの?」
最初は訳が分からなかった小さいお姉さんもお母さんも、それが子猫の甘えだってことをやっと理解してくれた。先輩は子猫の時でもこんなことはしなかったとのことだから、そこは個体差だろうか。ちなみに、間もなく匂いは出せなくなった。今でも相変わらず、くるりとお尻を向けて立てた尻尾を振るわせるんだけどね。まあ、これはご挨拶だ。やがて、小さいお姉さんは新しい仕事のため東京に行ってしまい、私の身にはとんでもないことが待っていた。でべそ、いや、ヘルニア手術を兼ねた避妊手術である。
「ヘルニアと避妊手術は同時に済ませてしまう方が負担がなくていいでしょう。ヘルニアの手術は早めにしなくてはいけませんね。腸が出てきてしまっているので」
お医者さんは初めての健康診断の時に既にそう言っていたのだ。
「ごめんね」
手術の当日お母さんは言った。何が「ごめんね」だ。病院に連れていかれた私は絶望した。連れていかれた日は不覚を取って手術されてしまったが、病院に一泊した翌朝、私はおなかを包帯でぐるぐる巻きにされながらも、診察台の上でお医者さんを低い声で威嚇した。
「え、これ、うちの猫ですか?」
ひょっこり現れたお母さんがのんきなことを言う。
「あらあら」
「あはは」
看護師さんとお医者さんが笑う。
「ピイ?」(お母さん)
「ピイイ」(私)
「あ、うちのです」(お母さん)
てな調子で家に帰ったものの、私はすっかり警戒し、お母さんの布団に潜り込んだきり動かなくなった。トイレだけはそっと行ったが、後は潜ったままだ。夜になったらお母さんが布団の中にお水を持ってきた。力なく顔を上げた私は夢中で飲み、ほっとしてまた眠った。「ピイ?」と呼ばれて、微かに「ピイイ」と答えた気がする。




