ケチとは
私がここに来たときには、まだおじいさんとおばあさんがいた。お母さんは二人に私のことをロシアンブルーという貴重なネコだと紹介した。ほんとは全くのでたらめなのだが、先輩がこの家に来たとき、猫を飼うことに反対だった二人に先輩のことを「アメリカンショートヘアーという、いいネコだよ」と紹介し、その可愛さに二人は態度を豹変させ、客にも自慢したという成功例にならったのだ。が、おばあさんは私を見てたった一言、
「ケチなネコ」
と言った。
小さい方のお姉さんが、
「名前はずずっていうんだよ。可愛いでしょ」
と言えば、
「え? くず?」
あはは、と笑った。
「違うよ、ず、ずっ」
小さいお姉さんがわかりやすく言ったのに、今度はおじいさんの方が
「ぐず、か」
と言う。お母さんはあきらめておじいさんおばあさんのエリアから私を二階に連れて行った。
「ケチかあ。ケチなネコねえ」
お母さんはまじまじと私を見た。私と目が合う。お母さんはおもむろに書棚を開け、ぱらぱらとページをめくった。
「ケチといのは、不吉、物惜しみをする、心が狭い、卑怯、みすぼらしいという意味があるけど……最後のみすぼらしいという意味だろうねえ」
と頷く。そりゃあ、先輩は押しも押されもしない血統書つきだ。でも、別にかまわない。ママンは素敵な黒猫だったもの。だいたい、みすぼらしいことのどこが悪いと言うのか。不敵に見上げる私を、お母さんはフフフと笑って見下ろした。この時、私は確信した。どうやら、私はなし崩し的にここの家の一員になった、と。




