やっぱり、飼い猫への道?
初めは本棚や、箱の陰、布団の隙間などに隠れている私を覗き込むお母さんをシャーっと威嚇し、大きいお姉さんからは「ジャックナイフ」などとからかわれていた私も徐々に慣れて、キャットタワーで過ごす時間が長くなった。その頃、私の尻尾はまだネズミのようではあったが、体の毛が少し伸びて、グレーがかってきていた。どこにいても気が付かれないから、オレンジ色に白い花の模様の入った首輪に小さな鈴をつけられる。
「黒猫かと思ったけど、なかなか素敵なチャコールグレーだね」
お母さんはこっそり褒めてくれた。
「お前のママンは気立てがいい、素敵な黒猫で、よくデザイン・建築事務所の入り口のところにそっと座って気づいてもらうのを待っていたよ。それで私たちが用意しておいた食べ物をお行儀よく食べて行くんだけど、それが前髪ちゃんっていう猫に見つかると大変でね、前髪ちゃんに追いかけ回されて、追い出されちゃうんだよ。前髪ちゃんは菓子パンでも何でも人の食べるものは食べてしまう猫だったね」
小さいお姉さんは私を撫でながら言った。
「前髪ちゃん?」
お母さんが聞いた。
「ああ、ちょうど前髪みたいにおでこのところが黒い毛になってるの」
小さいお姉さんは答えた。
あの大きい白い猫だな、私はぴんときた。
「お前のママンはスタイルもよくてね、小さかったから、まだ子猫かもしれないと思った。それが子供を産んでいたんだね。そうそう、ママンはぜぜって呼ばれてたよ。だから、お前はずずね」
そう言って、小さいお姉さんは私を抱き上げた。
どこが、「だから」なのかわからないが……なるほど、ママンか。東京から一時戻って来たお姉さんはデザイン・建築事務所でアルバイトをしていて、お兄さんの方はその事務所の社員だそうだ。お兄ちゃんはそのお兄さんの家で暮らしている。
小さいお姉さんは続けた。
「ずずのお兄ちゃんはトラっていう名前だって。すっかり慣れて家族みんなに可愛がられているって」
トラかあ。私はねずみ色、おっと、チャコールグレーの一色だけど、お兄ちゃんはかっこいい黒と茶色のトラ模様だったもの。
「あれ、ねえねえ、この子のしっぽ、うっすら縞が見えない?」
小さいお姉さんが私の尻尾に注目した。
「ほんとだ、よく見ると縞模様が見えるね。黒猫だと思ったらグレーの猫になって、それからしっぽにうっすら縞まで出て来るとは」
お母さんもまじまじと私を見た。
「お母さんは黒猫だったけど、お父さんは体格のいいトラ縞の猫だったからね」
小さいお姉さんが言った。ふと思った。私は、またどこかに行くのだろうか。何だかお尻の下がむずむずして落ち着かなかった。