飼い猫への道?
人間のお姉ちゃんのところに、人間のお母さんが迎えに来た。この時は不安だったし、初めて自動車に乗ったしで、生きた心地がしなかった。
「ねえねえ、お母さん、この子飼ってもいいでしょ。前に黒猫って可愛いって言ったことあったじゃない」
車の助手席で私の入った段ボールを抱えているお姉さんが言った。
「言ったけど」
お母さんは素っ気ない。
「放って置いたらかわいそうだよ」
情に訴えるお姉さん。
「野良猫としてたくましく生きていくかもしれないよ。家の中で飼われるより幸せかもしれないし」
現実的なお母さん。
「すぐ車に轢かれちゃうでしょ。そうじゃなきゃ、病気になるかも」
「現実には現実を」とばかりに返すお姉さん。
「うちのにゃんちゃんと上手くやっていけるかどうかわからないよ」
角度を変えるお母さん。
「様子を見てみようよ」
提案するお姉さん。なかなかしつこい。
「飼う気はないよ」
お母さんの決定打。
「貰い手が見つかるまで。預かるだけでいいから」
譲歩したお姉さんにお母さんも考えた。
「そうだねえ、まずは病院で健康診断をしてから。そうじゃなきゃ、家におけないよ。にゃんに病気がうつったら大変だから」
本人、いや、本猫の気持ちなんかお構いなく、こんなわけで動物病院に連れて行かれ、健康診断をされ、予防注射をされ、虫下しを飲まされ、ノミ取りまでかけられ、散々な目に遭って私はお姉さんとお母さんの家に着いた。早速お姉さんの部屋の一角に住処をもらう。翌日、お姉さんは落ちたノミの数をチェックし、糞に虫がいなかったこともチェックした。私は最大限警戒もし、隠れていたが、寝る時に心細くなって不覚にも、隠れているところから出て行ってお姉さんの髪の毛を枕に寝てしまった。
数日後、お姉さんは私を洗い、先輩猫のにゃんに対面させた。私は大人猫も見かけたことがあるので、すっと警戒モードに入り、同時に自分の居場所を守るという気概もあって、ちびながら精一杯頑張った。
一方、相手の先輩は予想外の反応を見せた。威風堂々、落ち着きと威厳に満ちた雌猫だったが、私を見て動転してしまったのだ。聞けば、ここに来る前、ご幼少のころからマンション暮らしの血統書猫、猫より人間の方が大好き、むしろ、自分を人間と心得ている方らしい。私を見て、恐ろしいものを見てしまったとばかりに退散してしまった。そこで私はお姉さんの部屋とキャットタワーのある隣の部屋を確保した。
「これじゃあ、一緒に住めないよ。にゃんが可愛そう」
とは、お母さんと大きいお姉さん。(ここにはお母さんとお父さんと私を拾ったお姉さんと大きいお姉さんがいる)でも、私はどうやらヘルニアらしく(獣医の先生はでべそと言った)手術が必要らしかったので、貰ってくれそうな人がいるかが問題だった。しかも、アメリカンショートヘアーのにゃん先輩(本名はラムというらしい)のような愛らしい顔つきではなく、やれ、目が小さいだの、毛が薄いだの、欠点が目立っていた。
「ほらほら、こんなにかわいい」
私を捕まえたお姉さん(これからは小さいお姉さんと呼ぶ)はよくそう言ったが、お母さんと、もう一人の大きいお姉さんは先輩の味方だった。お父さんについては何とも言えない。だって、お父さんは声も体も大きいのでこっちは最大限の警戒をしていて、顔を合わせることは滅多になかったから。