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勝負

 お母さんは笛を吹く。フルートというらしいが、これがひどい音だ。私はお母さんの足元にくっついてみたり、尻尾を絡めてみたりして何とかやめさせようとするが、なかなかうまくいかない。そうなると、ドアのところで外に出たいとアピールする。お母さんは笛を置いてドアを開ける。

 私は、

「ついてこないの?」

 と誘ってみるが、

「じゃあね」

 と言われてドアはバタンと閉じられる。また、笛を持つ気配。私はすかさず、

「入れて~」

 とばかりに鳴く。ドアが開く。笛が始まる。

「開けて」

 と鳴く。ドアが開く。閉まる。

「入れて」

 と鳴くが、笛が始まる。

「すぐに開けて」

 と、さらに鳴く。お母さんは首をかしげる。

「ご飯かな?」

 ということでご飯をもらう。ドアが閉まる。一応食べる。

「開けて」

 と鳴く。ドアが開く。足元でふざける。また、笛が始まる。外に出してと鳴く。外に出て断固鳴き続ける。

「おやつかな?」

 そうそう、私はここぞとばかりにアピール。とろ〇が出て来る。お母さんと見つめあってぺちゃぺちゃ舐めるけど、そんな時間もすぐに終わって、また笛が始まる。私はお母さんのノートパソコンのキーボードの上に座る。

「きゃ~」

 という声とともにお母さんに摘まみ上げられて頭をぐりぐりされる。

「一体お前は何がしたいんですかっ?」

 ってお母さんが聞く。何って、邪魔したいに決まっている。お母さんがパソコンを閉じ、私は閉じたノートパソコンの上に座る。お母さんの笛が始まる。ゆったりしたところを通過して、アレグロだの、プレストだのとなる。ここがうまくいかない。メトロノーム登場。もう、きちがい沙汰だ。ついに私はパソコンの上から飛び降り、キャットタワーに駆け上がり、そこから飛び降りると、全速力でカーテンへと向かい、忍者のようにカーテンをよじ登ってそこからパソコンの上に飛び降りようとするが、そこにはいつのまにかクッションが置いてある。仕方ないから椅子の上に飛び降りる。もう一度カーテンを上り、カーテンレールの上からニャーという掛け声とともに再び飛び降り、お母さんの足元を何度となく駆け抜け、部屋中駆けまわる。が、お母さんも笛をやめない。何だか、宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」を思い出す。楽団でチェロを弾くゴーシュがインドの虎狩りという曲を弾くと猫が狂ったようになるんだけど、それが面白くてチェロを弾き続けていたゴーシュはすっかりチェロの腕前を上げるという話だ。この猫に私も負けない。だからと言ってお母さんの腕が上がるわけではないのが残念だ。

「全く、ほんとに何がしたいんですっ? どんどん出て行ってくださいっ」

 お母さんはついに笛を置き、私を捕まえて抱っこし、ぎゅっとして、ぽんと床に置く。私を追いかけたので息が弾んでいる。が、また笛を始める。今回は私の負けか。私は観念してお母さんを見守る。部屋を出て行かないのは私の意地だ。


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