癖
無くて七癖というが、私にも癖がある。ここに来てお母さんたちを驚かせたのが、私の人相、いや、猫相の悪さだ。
「いかにもワルって感じがするねえ」
感心する大きいお姉さんにも、小さいお姉さんは負けない。
「可愛いよ、そこがまた。怖い顔だからって悪い子だとは限らないんだから」
やはり、怖い顔なのか……
「確かに、怖い顔だね」
お母さんは決定し、さらに続けた。
「その上、いったん目が合ったら逸らさないんだから。普通、動物って視線を合わせようとしないんじゃない? にらみ合ったら戦いの始まり、って気がするけど、ピイは絶対逸らさないよ。私も負けまいと思ってピイとじっと見つめ合ったけど、そのうちめんどくさくなってやめちゃった」
そうだろう、そうだろう。遊んでもらおうと、すぐにおなかを出して下手に出る私だが、いったんにらみ合ったら、後へは引けない。
「ママンに、そんなときは目を逸らしなさいって教えてもらえなかったんじゃない? ずずのママンはずずが小さい時に死んじゃったから」
あくまでも私の味方、拾いの親の小さいお姉さん。
「まあ、そうかもね」
「面白くていいよね」
どうでもよくなったらしいお母さんと大きいお姉さん。
「ずずは可愛いね」
愛は盲目、の小さいお姉さん。怖可愛いというジャンルはあるが、怖可愛面白いというジャンルもあるのだろうか。
「こんな顔をしていても、夜なんか目が真ん丸でふざけかかって来るんだから、その時はすっごく可愛い顔をしている。ふわふわのまん丸」
お母さんが言うと、小さいお姉さんは言った。
「結局大好きなくせに」
「まあね」
お母さんが答える。そう言えば……お母さんは私がこの家から外に出ないようにしている(私も今のところ出る気は全くない)ことを、実は内心気にしているのだが、これはどうだろうか。こう見えて、私にだってライバルはいるのだ。ある時、私がベランダに続く掃出しのサッシ越しにお日様の温かさを楽しんでいると、奴がやって来た。私は野良だったから、奴らのことは知っている。ママンは奴らが私たちに近づかないよう気を付けていた。その大きな体、堂々とした嘴、広げた羽根は悪魔のようだ(私も時々『わ~、悪魔みたい』と笑われることがあるが、この際自分の外見のことは棚に上げる)奴は、興味深げに私に近づき……にらみ合いが始まった。しんとして、じっと動かず、互いににらみ合う。目を逸らした方が負け、私は奴を睨み続ける。一分、二分、五分……まだまだ続く。昨日今日で身に着けた技ではない。私はひるまなかった。ということで……ついに奴が悔しそうにベランダの手すりを鋭い嘴で思い切りつつき始めた。近くで身を潜めて勝敗の行方を見守っていたお母さんが「ひゃ~」と声を上げた。サッシがある以上、私に危険は及ばない。きっと手すりの方を心配したのだろうが、奴はその時には飛び去っていた。
それから、私が日向ぼっこをしているのを見つけると、奴はやってくる。相変わらずのサッシ越しだ。が、奴もこのごろ戦法を変え、ベランダの手すりに止まって大きな声で鳴き続けるようになった。これにはあほらしくて付き合えない。奴はひとしきり大声を出し続けて飛び去って行く。馬鹿だな。