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Cカップ女子エマは義賊になりたい


「たっはぁ~食った食った~やっぱ下界メシってばサイコーよねえ」


 ふたりはディアーナがガイドブックをしらみつぶしにして見つけてきた食事処でたらふく食べた。ナニモノかよく分からない生物の丸焼きや、ヘビかトカゲの尻尾、エビみたいなタコなど、得体のしれない品々だったが、空腹に耐えきれず、ヒカルも平らげた。


「よっし、次は飲むか~ヒカルは? なに飲む?」

「い、いや俺は……ちょっと」

「ん? なんで? 私の酒が飲めないっつーの?」

「なんでまだ飲んでねーのに酔っ払ってるみたいなんだよ! っていつの間にか飲んでんのかーい!」


 ディアーナの横にはすでに数本の空ジョッキが転がっていた。


「ねーなんで飲まないのよーん」

「って、今度は甘えモードか! 俺は未成年なの!」 

「未成年?」

「そ! 未成年者はお酒飲んじゃいけないの!」

「ふーん……ドーテーだからか」

「いや違う、いやいやまあ童貞だけれども、ってそーじゃなくって!」

「ふふ~ん、ヒカルはぁ~ドーテーなのね~ん……」

「わ、悪いかよ」

「ううん……ワ・タ・シ・モ……よ?」

「え?」


 ヒカルが驚いて聞き返そうとすると……

 

 ――ZZZzzz


 ディアーナはイビキをかいて寝ていた。ちなみにヨダレまで垂らしている。


「ったく、だらしねー女神さまだなあ~ 起きろよ、起きろ~顔に落書きするぞ?」


 ――キュッ キュッ キュッ キュゥウウウウ


「って、マジ起きねーな、おい! このあとどーすんだよ! 俺は風呂に入りたいんだが? 柔らかいベッドで寝たいんだが? おい! オイィィイイイッ!」


 はぁ はぁ はぁ……


「ちっきしょーう! 重い! 重いぞ! 女神のくせに!」


 ヒカルはディアーナを背負って歩いた。なぜなら、粘りに粘ったものの、めし処を追い出されたからだ。


「ねえキミ、今、女神って……言ったのかい?」


 そのとき突然、どこからともなく声がして、ヒカルはあたりを見回した。が、どこにも見当たらない。


「ここだよ、ここ」


 声は上の方からだったから、見上げると塀の上に人影があった。巨大な月の月明かりが逆光となりシルエットしか見えない。

 

「よっと」


 影はふわりと飛び上がると、音もなく着地した。影のヌシは小柄で少年のように見えた。


「少年?」

「ふんっ 失礼だねキミは。これでもボク、裏町のアイドルなんだぜ?」


 フードをとると、それは少女だった。ほどけた髪が月明かりに揺れている。


「ほんとだ胸がある! Bカップくらい?」

「Cだよ! って、そんなことよりキミ、女神って言ったよね?」

「え? ああ……」

「キミ、この町は初めてなのかい?」

「あ、ああ……この町っていうか、世界っていうか……ね」

「ふむ。いいかい? 永久迷宮があるこの町――迷宮都市アデステラは女神禁猟区なんだぜ?」

「女神禁猟区?」

「そうさ、ダンジョン以外はね。だからさ、ボクにそのおぶっている女神とやらを渡しなよ。悪いようにはしないからさ」

「へ? これ? このなんちゃって女神?」


 ヒカルは少し嫌な予感がした。しかし、それだからこそ、おぶっていたディアーナをことさら乱暴におろした。ディアーナは仰向けになり、だらしなく足をひらいてイビキをかいたままだった。


「ぷっ、ぷはははははぁ~なんだこれ! きったねーなあ~」


 ディアーナはヒカルが書いた落書きでひょっとこのような顔をしている。


「このひょっとこ女神を連れて行ってくれるのか? 助かるぜ」

「いやいやゴメンゴメン。こんなの女神じゃないや」

「そ、そうか……残念だ」

「で? キミ、冒険者なのかい?」

「え? あ、ああ……そうだとも、冒険者だぜ。オマエも冒険者なの?」


 なんとなく『本当のことを言うのはヤバイ』と思ったわけじゃなく、ヒカルは本当だったらなりたかった冒険者だと言い張った。

 

「ボク? ボクはね……盗賊さ。盗賊のエマ」

「え!」


 思わずヒカルは財布代わりの革袋に手をやったが、そういえばさっきの店でほとんど使ってしまったことを思い出しただけだった。


「はっはっはっは。大丈夫だよ。ボクが目指すのは義賊だからさ。キミみたいな薄汚れて弱っちょろい冒険者の卵から巻き上げるほど落ちぶれちゃいないよ」

「は、はあ……」


 ヒカルは複雑な気分だったが、これが強盗で金がないなら命をもらうぞ! とか言われなくてよかったと素直に思った。


「見たところ行く当てがなさそうだけど、泊まるとこを探してるならウチに来なよ」

「へ? 君んち?」

「いやいや、ウチは宿屋をやってるんだよ。『盗賊の宿屋』っていうんだけどね」

「って、絶対ダメな組み合わせじゃないか! 寝ている間にごっそり奪われる感じしかしないよ」

「まあ、そう言うなって、逆に安全なんだぜ? 商売でやってる以上、宿泊客の荷物は狙わないってのがしきたりさ。ヘンな噂がたったら商売あがったりだからね」

「な、なるほど……そう言われてみれば……そうなのか?」

「それにさ、この町では今、野宿は危険だよ?」

「な、なんで?」

「夜はさ、出るんだよ」

「な、なにが!」

「アンデット系モンスターがね。ダンジョン内では飽き足らず、そこかしこに這い出てくるんだ。ほら、そこらの家や店も門を閉ざし始めたようだぜ。どーする?」

「い、行かせていただきます!」


 ヒカルとディアーナはこうしてエマ達盗賊が運営する『盗賊の宿屋』に泊まることになった。




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