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スキル開放


 パイプオルガンの音色(ねいろ)にあわせ、賛美歌が聴こえる。通路に灯された炎がときおり舞い上がり、星空へと吸い込まれるように昇って行った。

 迷宮都市アデステラの町の中央にある、正神教の教会、サンアデステラ教会である。


「いーい? ヒカル。教会に入ったらあんまり私たちのほうを見ないでよね」

「なんでだ?」

「そ、そりゃあウチらは神の代行、女神として神々(こうごう)しくなければならないからよ。てか、ぶっちゃけ恥ずかしいんだけどね。ほら、ヒカルと話すと地が出ちゃうからさ」


 なるほど、教会に足を踏み入れると、女神たちのカラダはまばゆい光に包まれた。ディアーナやエレナでさえ神々しく輝いているのだ。中でもフィオリナは別格だった。もちろんヒカルは知りさえしないが、まるで聖母マリア様の再来か? とさえ思える輝きを放っていた。


「おお女神様! こんな夜更けに戻られたとは、いかがなさいましたか?」


 出迎えたのは司祭にして英雄アレキシスパーティのプリースト、ロメオ・バーンシュタインその人だった。

 

「はい……この者、ヒカル・ムッツリーノが……スキル開放の儀を望んでおりましたもので」


 いつもとは違い、先頭に立っているフィオリナがしゃべった。


「ム? ムッツリーノ?」

「シィーっ、ヒカルは黙ってて!」


 光のベールの下から、ディアーナが人差し指を口元にあて、ナイショ! というポーズをした。


「ぐっ、わかったよ」


 ヒカルは打ち合わせ通り、かしずき、頭を下げた。


「さようでしたか。本来、スキル開放は日が沈むまでというキマリ。しかし女神様のご依頼とあればご対応しましょう」


 ロメオの口には絶えず笑みがあったが、その瞳は笑っていなかった。

 いちいち嫌味なヤツだ。と、ヒカルは思ったが、ロメオにはロメオの疑問があるのだ。女神様の知り合いなど聞いたことがない。あるとすればふたつ。ひとつは……


「ひとつお聞きしたいのですが、ムッツリーノ殿はダンジョンマスターというモノを知っていますか?」

「な! え? や、あ……し、知らない! し、知りません」


 ヒカルはディアーナとの会話を思い出していた。ダンジョンマスターだということがバレてはならないと。


「ふむ、よろしい。コチラへおいでください」

「あ、はい……」


 ロメオは女神達にはその場にとどまるよう依頼し、ヒカルを奥の間に導いた。


「以前、どこかでお会いしましたか?」

「え、ええ……ダンジョンで一度……助けていただきました」

「なるほどなるほど~」


 ヤバイ、バレてる。役者が違いすぎる。こ、殺される? とさえヒカルは怯えた。そんなヒカルの思いを見透かすようにロメオは微笑んだ。


「ご心配なく。私は神の使徒。神の意志に従う者です。貴方が仮に、無いとは思いますが、仮にですよ? ダンジョンマスターだとしても、公平に対処するのみ。しかし……」


 ロメオの口は笑っている。しかし、やはり瞳は真剣だった。


「貴方が、女神スレイヤーという大罪人であれば話は別! もうひとつお聞きします。貴方は女神スレイヤーですか?」

「へ? 女神スレイヤー? 何それ」

「ハッハッハ〜了解しました。貴方は大丈夫でしょう」

「な、なんなんだよ急に」


 ロメオの目が初めて笑った。


「ふむ。どうやら貴方は女神様と行動を共にするお方のようだ。ですのでお聞かせしましょう。女神様にまつわる悲劇を」

「えーっ、それって長くなるヤツ? 俺、興味ないんだよなあ〜そ~いうの」

「なっ、好奇心や探究心が冒険者、いいや人間の行動の原動力というのに、興味がないと?」

「うーん……俺さ、案外気に入ってるんだよね。今のアイツらとの関係。だから、それが壊れるような情報は聞きたくないっつーか、メンドイっつーか」

「フッ、ハッハッハ〜なるほど、なるほど。貴方は不思議な人だ。女神様たちの寵愛を受けるのも分かる気がします」

「寵愛? そんなんじゃねーような気がするがなあ」

「まあ良いでしょう。しかし、このことだけは覚えておいてください。女神様は崇拝の対象であると同時に、女神様を疎ましく思っている人間もいる、ということを」

「あ、ああ。覚えておくよ」


 それからロメオによってスキルメニューの説明がされた。ロメオの見たところ、ヒカルの属性はフラットであるから、おおよそどんな系統のスキルも開放可能であること。しかし、一度スキルを開放すると属性ができ、反対側にあるスキルの習得は困難になることなどだ。


「本当にこのスキルで良いのですか? もっとこう、私の口から言うのもなんですが……攻撃的な、冒険者に向いているようなスキルもありますのに」

「ああ、コレがベストだ! やってくれーい」

「了解しました」


 こうしてヒカルのスキルは開放された。


「あ、最後にひとつ。今おこなったのはあくまでスキルの開放です。開放されたスキルも最初はレベルゼロ、鍛えなければ使い物になりませんので」

「なるほど。サンキューロメオ。アンタのこと少し誤解してたぜ」

「サンキューロメオという名前ではありませんがね」

「お、おお~ありがとうロメオって意味だし」

「なるほど。いや、コレが我が使命、我が仕事ですのでね。あ、そ~言えば料金ですがツケで良かったですか?」

「え? 金とんの?」

「当たり前です。コレが教会の貴重な収入源ですので!」

「な、なるほど。ツ、ツケでお願いします」

「まいど〜」


 またしても嘘くさい笑顔でヒカルを送り出すロメオであった。


「で? ヒカル、あんたなんのスキルをゲットしたのよ」

「ふふふ、秘密だ! が、俺はだれにも負けない力を手に入れたのだ!」

「ふーん、言えないってことは……どうせ、透視とか暗視とか、そーいうエッチぃスキルでしょ?」

「な、なに? そんなスキルもあるのか?」

「あるわよ。高いけどね」

「ぐっ、そうか……それは次回ゲットすることにしよう」


 チキショウ、ロメオのやつ、そんな説明なかったぞ! と思ったヒカルだった。




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