初めての戦闘遭遇
「はいよ。出来上がったぜ」
乾燥させた薬草をお湯で戻しただけのスープ。体によく塩気も採れる算段。
「…ん、これは煮込みすぎた野菜みたい。味は…いまいちね」
いきなり味まで完璧にこなせるとは思っていないが、インスタント食材を作ると言うアイディア負けか。
「外で手軽にスープが出来るんだからいいだろうよ」
俺も薬草スープを口にする。塩気は薬草が強めで、汁は薄目となっている。
「そう。野外食向けに用意したんだ。お店で出すなら論外だけど、荷物が嵩張らずに手軽に作れる点でみれば、案外良い線行っているかも」
味にお世辞も言わず、淡々と俺の行動の目的を評価してくれた。まぁ、良しとしよう。料理スキルをとったせいか、食べられそうな食材の調理方法がなんとなくわかるように
なった。それを応用して何か出来ないかを試してみたが、試行錯誤は必要そうだ。
「ではでは、使用人。そろそろ行くわよ」
確かに今の自分はそんな立ち居地ではあるのだが…。
「へいへい、お嬢様」
俺は荷を背負いなおす。たまたま事故で拾ってしまった、行く当ての無いどこぞの大神官様の世話をしているような立ち居地。で、否定しなかったわけは。
「使用人てことはお給料貰えるんだよな?」
「んっ? そこは働き次第よ!」
あれ、ボケにボケ返し? それとも真剣なほう? 俺が先にボケ返しをしてしまったというパターンも有り得る。
もっとも、この分なら冒険者稼業が無理でも村人でやっていけそう。元の世界に帰れてもスキルを所持したままだとうれしい。
昼飯を取って先へ進む。町の近くの森なので、広さはともかく危険度は無い。探していたのは昼食にも採った薬草。需要は高く、低い採取難易度だとか。たぶん、スキルなしでも採取や判別は可能だと。冒険の必携品の為、どこでも売れるという品物。自分で使うもよし、金品に換えるもよし。無難な選択だと思う。
「そういや、エルルのいた時代って、今の時代と何が違うんだ?」
「人も文化も何もかも。少なくとも高い信仰心や魔力を持たないものは市民権を持たなかった。今の時代、と言われても私にはいまいち実感は無いけど、私のいた教団がもう過去に廃れてしまっているならば、それはもう異世界に居るのと変わらない」
俺はどきりとしてしまう。
「異世界ってあると思うか?」
「ある。召還魔法の類は異世界から呼び寄せる魔法。少なくとも召還対象となる魔物は、私達の世界にいる生き物とは異なるでしょ?」
「お、おう。そうだな」
俺はあいまいな返事を返した。が、ゲームの召還魔法を思い描いて、それもそうだなと納得した。逆召還魔法と言うのがあるなら、その異世界というのに行けるのだろうか。
「俺はわからないことだらけなんだ。色々と教えてもらえたら助かる」
「そこは喜んで。あなたは私の命の恩人みたいなものだから」
その辺りについては何がどうしてどうなったのかを説明できない。よって俺としては肯定も否定もできない。
「そ、そうか? そう思ってくれているのはうれしいんだが、俺はたまたま通りかかった程度だから気にしなくてもいいぜ?」
本当にたまたま通りかかったレベルだったので、助けたという気は全く無い。むしろ、この世界に馴染めていない仲間が出来たようで、今は少しだけ安堵している。
「私はこの時代のことを良く知らないけれど、よろしくね」
あぁ、なんとなく性格が良さそうな人で良かった。
俺はエルルとそんなやり取りをしながら歩いていた。会話のほうに気をとられていたのもあった。しかし、注意して歩いていても、その後に直面する危険には気がついていなかったことだろう。
ヒュッ!
瞬間、何かが俺の頬を掠めた。気がついたときには背負っていた鞄の中身の幾つかを抜き取られていた。抜き取ったのは蔓のような枝がうねうね動く草。
「「魔物!?」」
俺とエルルは慌てて動く草から距離をとった。
「ちょっと待てよ! 入り口の狩人さんはこの辺りに危険な動物は居ないが…って行っていたじゃないか!」
「雑用! どうするのよ! 財産含めて大事なものが幾つかとられちゃったじゃない!」
うねうね動く草のほうを見ると、確かにがま口財布を奪われていた。なんてこった。逃げることも出来なさそう。
「えっ、ちょ、俺戦い方知らない。そうだ! 俺、雑用ですから! せ、先生。お願いいたします!」
俺は畏まり、最敬礼をしながら後ずさる。
「えっ、ちょ、私戦い方知らない。そうよ、私は回復職だから、前線で戦えなければ、攻撃スキルも無い!」
Battle Encounter! 「うごめく何か」