神官との初めての野外クエスト
―動物と野草の楽園 エスクワイア―
そこは町からすぐの森だった。人里にも近いので、危険な動物の類は少ない。クエスト自体も総じて難易度は少なく、これならば俺達にも遂行可能なことだろう。
俺は森の入り口付近ですれ違った狩人さんに狩りスキルを習った。脳内に鳥や動物達を追う弓持つ狩人達の姿が浮かぶ。『狩りの基礎スキル習得』と。俺は狩人さんに謝礼として1000G払った。スキル伝授者には謝礼を払うのが礼儀らしい。採掘のときは本当に恵まれていた。鉱夫の仕事に応募したから、というだけでもないだろう。
「ありがとうございました」
「この辺りには危険な動物はいないが、気をつけて進むんだよ」
狩人さんが手を振りながら去ってゆく。
「これでよし。俺は弓も使えるようになったぞ!」
俺は弓に矢を番えて森の方角を狙う。
「おめでとう、雑用に狩りは必要なの?」
「えっ? それは…狩りスキルでパーティの食糧確保! とか?」
後日熟練冒険者に聞いたらこれは正解だった。冒険は食料や飲み水確保は重要度最大。戦闘職はスキル枠を圧迫するであろうこの手のスキルを確保しづらいが、雑用なら習得も迷わない。有益にして重要なスキルというわけだ。それも基礎を習得というなら上級とかがいずれ出てきそうだ。
俺は弓の感触を確認しながら、森の奥へと歩く。使い慣れていないが、扱い方はぼんやりわかるという不思議な感覚を確かめながら。
その後しばらく、俺達は森を進んだ。確かに危険な動物は居ないようで、取り立てて何も無く歩くことができた。
「何ていうか、見たことも無い木とか草だらけだなぁ」
「シシトウの生まれた場所ではこのような植物が無い?」
「(俺が異世界から来たことは伏せたままなんだったな)そうそう。俺はこっちに着てからまだ日が浅いから、見るもの全てが目新しいよ」
本当は今頃学校の修学旅行のはずだった。流石に今はその延長線上と言う気分ではない。
「まだ聞いていなかったわね。あなたの出身はどこ?」
「ん?…日本、てとこ」
「聞いたこと無いわね。私が知らないなんて…いや、この時代の地名は既に私の知るものとは違う?」
エルルが途中から独り言になってゆく。恐らく彼女が推察している内容は正しいのかもしれない。2600年以上残っているもの自体が稀だと思う。たとえ俺の世界であったとしても。
「そういうわけで、俺にこの辺りのことを聞かれてもまったくわからねーからな」
と、俺がこちらの世界に関して何も知らない事の理由付けも終了。
俺は背負い袋をがさっと背負いなおす。ずり落ちてきたので重心を据えなおした。
「荷持ち持ち、ご苦労様」
パーティのハイプリーストの荷物持ち。雑用の真価を発揮。俺、活躍してるな。
「雑貨冥利に尽きります」
エルルは大神官で良いとこの生まれなのは間違いないようだ。恭しい表現を多用すると機嫌が良くなる。
良いんだ。俺はこれで良いんだ。平凡な日本人の高校生として生きてきた俺が、いきなり剣と魔法で戦えるかと言われると困る。スキルを習得したからと言って、いきなり戦うような心構えとかまで出来るとは思えない。
冒険者の雑用ってシェルパみたいな位置づけか。どの道危険な場所へ行くことには変わりは無い。名誉市民職のようなものだと思っておこう。
お日様が真上くらいに差し掛かった頃だろうか。時計は無いが、恐らく昼時。
「ちょいとここらでお昼休憩にしよう。ちょうど開けた場所でもあるし」
「それはいいけど、何を食べるわけ?」
俺は背負い袋を地面に下ろした。
「冒険者の必携品。パンと干し肉とぶどう酒ならあるよ。他、煮詰めた薬草」
俺は火をおこす準備をする。煮詰めて乾燥させた薬草はお湯で戻してスープにする。インスタントな料理を用意できないか考えた挙句の方法。
「え、料理も出来るの?」
「出来なかったが、町の食堂でラーニングしてきた」
ちゃんと『料理の基礎スキルの習得』済み。コモンスキルは冒険者以外が所有するスキルの為、町中ほど教えてくれる人が多い。スキル枠は大分類で10種類までが上限らしいから、本当に必要なものだけを選んだつもりだ。
サバイバル。下手すると一人で生きていかなきゃいけなくなる。
普通の冒険者は上位職も視野に入れて専門スキルを選ぶようだが、雑用の俺にはそんなものは無いので、なら必要性の高いものだけ自由に選ぶ。
採掘、狩り、料理のスキルを習得済み。残り7枠。恐らく今日は採集の基礎スキルも習得することになる。採掘と採集で複合上位スキルの探索と鑑定が覚えられるようになるらしい。前情報もばっちり仕込んだ計画的キャラ育成。…自分のスキル編成を考えるのも楽しいな。戦闘にはかなり不向きな構成だが、自分のステータスってやつは自覚している。




