悪夢の夜
「魔法の武器でもなければこいつは倒せないようだ!」
幽霊を斬ろうとして剣を振り回していた男はそう叫んだ。
「シシトウ殿、ゴーストの方は私に任せてくれ! 私に考えがある! あちらのアンデッドナイトは時間稼ぎを頼む!」
カルナは傷を全回復させて戦線に復帰していた。エルルは他の前衛の負傷者の治療に廻っている。
「そっちの髑髏野郎か、任せろ!」
相手を出来る気は全く無かったが、時間稼ぎぐらいなら、と思って勢いで引き受けた。
俺はカルナと立ち位置を交代する。
今度は馬上槍を持ったアンデッドナイトが相手となる。実体がある分、まだこちらのほうが相手に出来そうだった。
が、いざ歴戦の勇者だったと思わしきアンデッドナイトを前にすると、死を覚悟する思いだった。
背筋を冷や汗が流れる。流石に安請け合いだったかと思う。
ふと、自分の体からうっすらと黒いもやが立ち昇っているような気がした。
「シシトウ、危ない!」
それはエルルの叫び声だった。気が付くとアンデッドナイトが直ぐ目の前に突撃していていた。・・・避ける暇も無い。
ドガガッ! 体に強烈な衝撃を感じ、続いて自分の体が宙を舞っているのを感じた。
クリーンヒット!
アンデッドナイトによるチャージ攻撃の直撃。痛みは殆ど感じない。が、眼下に地面が見えるのを見て、「あ、これはまた死んだかな」と、ふと思った。
ドゴッ! っと、俺は地面に激突した。途端に、全身に強烈な痛みを感じた。
「ぎゃあああ、いてぇえええ!」
俺は痛みのあまり、転げまわりのた打ち回った。わき腹をランスで抉られていて出血もひどい。
「シシトウ、動き回るな!」
エルルに怒られながら治癒を受ける。徐々に傷が塞がる。
「あ、生きていたのか」
「当たり前でしょ。あんた、自分で回避行動を取ろうとしていたのに気が付いていなかったの?」
どうやら俺は無意識に防御、回避行動を取っていたようだった。雑用と戦闘職の狩人の差が見えない形で出ていたようだ。地面に激突する寸前にも自然に受身を取っていたらしい。おかげで致命傷は避けた。
アンデッドナイトを見ると、複数の冒険者を同時に相手にしている。俺の直ぐ横に倒された冒険者が転がっていた。
「はい、治療完了。あまり無理はしないで!」
エルルに背中をポンと叩かれた。俺は立ち上がる。
「私の精神力もそろそろ限界。これ以上は怪我の治療も難しくなる」
エルルの表情を見ると、大分疲れが見て取れた。
なら、ここで戦況を好転させないとジリ貧になる。俺は意を決し立ち上がる。懐から魔水晶を取り出した。
(よく考えると、同じ詠唱を唱えるだけで良いとは聞いたが、それ以上の使い方を聞いていなかったな。どうやって狙い定めて放つんだろう)
俺はボウガンに矢を番えずに魔水晶を持ちながら構えた。そんな俺の姿を見つけたアンデッドナイトが再度チャージ攻撃の構えを取った。と、その俺の前にダブルモヒカンの男が立ちはだかる。同じ冒険者ギルドのグルドフだった。
「何か一発に賭けるつもりかい。俺が乗ったぜ!」
グルドフは俺を見てにっ、と笑った。・・・いかつい男のスマイルだが、今はどこか頼もしい。グルドフは雄たけびを上げてアンデッドナイトにグレートアックスで切りかかった。
大振りのグレートアックスの攻撃を、アンデッドナイトは馬で飛び避ける。
・・・今ならグルドフが応戦してくれているので狙う隙がある。
この魔法の矢を外せばこの場の劣勢を覆せないかもしれない・・・。俺は覚悟を決めた。
俺は見えない矢が番えてあるイメージでボウガンの弦を引いた。その時、ゆらゆらと黒い影が自らの身を覆う。
「詠唱が必要なんだったな。『我、炎を御する者』」
俺はアンデッドナイトを狙うようにボウガンを持つ。両手から黒いオーラがゆらゆらと発せられる。・・・来ている。何らかの力が来ている。
「『我が意に答え、我が敵を撃て!』」
照準は狙い違わずアンデッドナイトを捉え続けている。両の手の黒いオーラははっきりと眼で見てわかるように発せられる。と、魔法の詠唱をしたことで、炎の矢が手中に現れる。
ドガッ! と言う音と共にグルドフがランスで弾き飛ばされた。アンデッドナイトが俺のほうに向き直る。一歩遅かったな、喰らえ!
「『ファイアアロー!』」
俺の手から発せられた炎の矢はたちまち丸太のような太さの矢となる。その矢には黒いオーラがとぐろを巻くように絡まっていた。
一瞬、その魔法の矢を見たアンデッドナイトが明らかに狼狽していたのがわかった。
その一瞬がやつの命取りとなった。動きが硬直したところに、ズガガガガッ! と魔法の矢が直撃した。
クリティカルヒット!
とっておきの魔法攻撃がアンデッドナイトを直撃した。アンデッドナイトは馬から弾かれごろごろと転げまわって行った。マジックアイテムを使った強烈な一撃がアンデッドナイトを一撃で沈めた。
アンデッドナイトは起き上がってこない。・・・やがてぼろぼろと身体が崩れ落ちていった。
「やったのか?」と、誰かが叫んだ。やがて前線から歓声が上がる。
アンデッドナイトの馬が倒れて動かなくなったのを確認し、俺はゴーストの方を振り返った。




