夜間戦闘
―共同墓地へと続く街の通り―
既に日は落ちて、辺りは完全に真っ暗だった。その上霧まで出ていて視界は悪かった。
松明を持った男達がバリケードを張っている。
「街への侵入を許すな!」現場のリーダー格の男が叫ぶ。荷馬車を横転させて緊急のバリケードとして用いた。板を打ち付けてバリケードの強度を上げる。
俺達はその様子を後方で見ていた。
「どうやらここは防戦を張って迎え撃つつもりのようだな」
俺はひとしきり様子を伺ってから感想を述べた。
「被害を出さない事が重要なようだ。近隣の家の者達は既に避難したらしい」
カルナは近所の家の様子を見ながら言った。所々の家はまだ明かりはついたままだった。よほど急いで避難したのだろう。
「共同墓地は区画を大きな壁で仕切られていて、出入り可能なのはここ南口と北口の二箇所だけ。北口には別の冒険者ギルドが既に配置済みのようだ」
俺は先輩冒険者から聞いた情報を伝えた。
「私達はここの持ち場を守り抜けば良い訳ね?」
エルルは緊張した面持ちだ。場の雰囲気自体がぴりぴりしているせいもあるが、どうやらそれだけではないようだ。
「何だ、エルル。アンデッド相手に緊張しているのか?」
「そんなわけないじゃない。元は聖山のあったふもとの町にアンデッドの大群なんて押し寄せられたんだから、今回の件は何が何でも引き下がるわけには行かない」
そういえば鉱山の遺跡は聖堂と呼ばれているのだった。なら、ザーラムの街はそのお膝元ってわけだ。
「俺とチムチムは第一陣の射撃隊に入る。エルルは後方の治療班。カルナはバリケードを突破された後の切り込み隊。みんな今回はばらばらに行動するが大丈夫か?」
「適材適所。今回はギルド全体で協力体制をとるから仕方ないね。みんな、怪我したら直ぐに私のところに来るように!」
エルルが念を押した。現場にはかなりの人数の冒険者が居るので、探すのも一苦労しそうだ。
今回の戦いは防衛線を守り抜く為の陣地陣形構築済み。敵味方入り混じれての乱戦になるときにはかなり旗色悪い状況と言える。
「みんな、無事でまた会おう」
「シシトウ殿もな。射撃隊とはいえ先鋒に立つ部隊。気をつけて」
別れ際にカルナが告げる。俺達は持ち場に付く為に一旦は離れ離れになった。
俺はチムチムとバリケード近くに陣取る。バリケードの裏に木箱を積んで狙撃台を作る。
高台から周りの様子を伺うと、防衛網の最前線は緊張感に包まれていた。
バリケードから覗く共同墓地への道は一本道。外郭を大きなレンガの壁で囲まれている為、今あるバリケードで出入り口を封鎖すれば問題はない。
問題の場所は広大な共同墓地のカタコンベだった。多数のアンデッドが現れた。
「すぐにわかって、よかった。遅れていたら、被害が広がった」
「そうだなぁ。墓守が始めに気が付いたらしいんだが、墓守は生きた心地がしなかったろうなぁ」
共同墓地内で生活する墓守は、今は当然避難していた。命からがら逃げて来たのだ。
「遠見の者がそろそろやってくるとよー!」と、遠くから声が聞こえてきた。使い魔か何かで様子を伺っているのだろう。
その声に辺りが静まり返る。皆、暗闇の向こう側の墓地の方角を凝視している。
墓地側の通りは殆ど明かりが無いので何も見えない。
と、暗闇の向こう側で何かが動いたような気がした。俺の視力は職業補正で強化されているらしく、視力は限りなく良くなっていた。多少なら暗視も効く。
「おい、来たぞ!」「あぁ、十,二十・・・いや、もっといるぞ」等と、先鋒射撃部隊のハンター達からざわめきが聴こえてきた。
Battle Encounter! 「アンデッドの群れ」
暗闇の中、赤く輝く双眸。それがゆらりゆらりと近づいてきている。おびただしい数だ。
ゾンビの目だった。落ち窪んだ眼孔の奥は鈍い赤色の光を怪しく放っていた。
「ゾンビを銃撃するゲームならやった事あるが・・・」
と、俺はゾンビゲームを思い浮かべ、ゾンビに掴まれて噛み付かれそうになっているモブキャラの光景を思い出していた。
「あ、そっか。墓地の死体には限りがある。防衛線で数を削りきってしまえば勝てるんだ」
と、ゲームのことを考えていたところ、俺は唐突に冒険者ギルド達の作戦の勝利条件を理解した。だから出入り口を封鎖して防衛戦を行うのだ。ゾンビ映画のように無制限にゾンビが沸いて出てくるわけではなかった。
この状況で一番に恐れるべきは敵味方入り乱れての乱戦。
と、その時、「その通り」と近くの冒険者が答えた、
「この状況では無理に元凶を暴こうとせず、せめて朝が来るまでは持ちこたえて自分達に有利な状況を待つのさ!」
同じ冒険者ギルドの先輩狩人だった。同じ先鋒射撃部隊の構成の大半が飛び道具を得手にするものや魔法使い達だった。
「じゃあ、俺達の仕事は日が昇るまでこの場を維持することなんですね?」
「そう、俺達の腕の見せどころよ!」
冒険者達の士気は高い。徐々に近づいてくる死霊の群れを目の前にしても、ものともしていない。




