深夜の依頼
―冒険者ギルド ゼカイア―
「で、休みの日に鉱山で仕事をしていたってわけ?」
エルルがさも信じられないと言った表情で告げる。まぁ、当然だろう。自分でも今日はやりすぎたかなと思わなくも無い。
「ほら、俺の出発点は鉱山ギルドだったわけだしよ。顔でも出しておこうかと思ってな」
「ほう、シシトウ殿は顔が広いのだな」
「どうだか! もうわけわかんない!」
エルルは呆れ顔だ。
「そうだ、チムチム。この魔水晶を採掘してきたんだ。良かったらこれに魔力を込めてよ」
俺はチムチムに魔水晶を手渡した。
「これは、上質な魔水晶! なんの魔法、込める?」
「ん? 選べるのか? ならファイアアローを頼む」
「わかった。・・・我、炎を御する者。我が意に答え、我が敵を撃て! ファイアアロー!」
チムチムが大きな声で魔法を詠唱しながら魔水晶を握る。赤い閃光が煌いたかと思うと、魔水晶が鈍い輝きを放ち、やがてもとの状態へと元に戻った。
「これでよし。これでシシトウ、同じ詠唱、唱える。ファイアアロー、使える。威力、使い手の魔力、依存」
俺はチムチムから魔水晶を受け取った。まだぬくもりがある。・・・ファイアアローではなくチムチムの体温かもしれないが。
「チムチム、ありがとう! 大事に使わせてもらうよ!」
買えば数千Gの魔水晶。発掘したならただ同然。とはいえ、次からは道具屋で探してみようかと思わなくも無い。所持金は結構余裕がある。
「次の冒険の準備? シシトウもついにマジックアイテムではあるけれど、魔法を使うのね」
「ルーンハンターと呼んでくれ!」
「ほらほらぁ。他力本願じゃなくて地力で使えるようになってね!」
尚、魔術はナレッジスキルであり、ある程度の勉強が必要なスキル。チムチムじゃないが、俺も勉強漬けになるのは避けたかった。
「その石。使い捨て。一回きり」
「なんだ。何度も使えるんじゃないのか」
それでも十分な気はするが、少々残念だった。
「あ、シシトウ殿、詠唱の内容は覚えているのか?」
「あ、忘れてた。さっきのチムチムの魔法詠唱をメモしておこう」
「一字一句、間違えないように」
騒がしいギルド内にあっても、負けないぐらいに騒がしいパーティ。いつの間にか俺達パーティも冒険者ギルドの雰囲気に馴染んでいた。
と、その時であった。
バン! と勢いよく冒険者ギルドの羽扉が開かれた。駆け込んできたのは一人の男。
「伝令だ。だれか、この冒険者ギルドの職員はいるか?」
駆け込んできた伝令の男は息も絶え絶えに言葉を述べた。どうやらここまで走ってきたようだ。よほど急な用件なのだろう。
「何だろ、珍しいな。こんな時間にクエストの依頼かな」
「確かに始めて見るわね。夕方以降に駆け込んでくるような人」
と、俺とエルルが話し合っていると、ギルドの受付嬢のお姉さんが伝令の男に取り次いだ。受付嬢は奥の部屋に伝令を案内する。しばらくすると店内はまた元の賑やかさに戻り始めた。
が、奥の部屋からの受付嬢の大きな声で店内は静まり返る。
「えぇーっ!? 緊急事態ですか?」
騒がしい冒険者ギルド内になっても尚響く受付嬢の声。元々騒がしいギルド内で冒険者を大声で呼ぶ事も多いので、よく通る声をしていた。
「なんだろ、なんかあったのか?」「夜間依頼なんて数年ぶりだぜ」なんて声がギルド内から上がってきた。どうやら皆が伝令の男の話に興味を持ち始めた。
しばらくして伝令の男が置くの部屋から出てきて、また慌ただしく外へ駆け出していった。
しばらくして受付嬢が奥の部屋から現れる。手には一枚の紙を持っていた。
受付嬢はいつものフロント口に立つと、すぅーっと息を吸った。
「みなさーん。おしずかにー!」
それは先ほどよりも店内に良く通る大きな声だった。その声にギルド内の喧騒が収まる。
「先ほど街より緊急性の高いクエストが発令されました。これは個人受諾形式のクエストではなく、ギルド全体への依頼となります!」
受付嬢の言葉に、誰かが息を呑むのがわかった。どうやら受諾形式が異なる事は大きな違いのようだった。場に緊張感が満ちるのがわかった。
「場所は共同墓地。大規模なアンデッドの群れが押し寄せてきているようです。手の空いている冒険者も、そうでない冒険者も一丸となってこれを撃退してください!」
受付嬢の言葉に冒険者ギルド内がどよめく。
「アンデッドだって?」「大規模と言われてもどのくらいだ?」「ギルドへの発令だ。街そのものの危機とみてもよいのではないか」「俺、アンデッドと戦った事無いんだ・・・」など、様々な声が聞こえてきた。
「シシトウ殿。これは恐らく国家の一大事である。私としてはなんとしてもこの出来事を治めたいのだが・・・」
カルナがやる気を出している。彼女はどうも国に対する忠誠心が高いようだ。
「シシトウ、アンデッドは私達神職にある者達にとって宿敵と同じようなもの。これは聖戦よ」
エルルもやる気を出している。彼女は使命感から来るもののようだ。
「チムチム、頑張る」
チムチムはいつもどおりだった。
他の冒険者達は準備をはじめ、気の早い連中は既に出立した後だった。
「俺達も行くか!」
ギルド一丸となってのクエストとなると、俺も初めてだったのでドキドキしていた。
長い長い夜の始まりであった事など、この時点では知る由も無い。
Guild Quest Set! 「共同墓地のアンデッドを殲滅せよ!!」 Get Ready? …Go!




