なつかしのバイト
―掘っ立て小屋―
昨日はいつまで飲んでいたのか記憶に無い。年齢詐称の必要は無いが、それほどなれていないお酒を沢山飲んで頭痛がした。二日酔いは人生初の体験だった。
「うぉー、これがあの二日酔いと言うやつか・・・」
ナイトテーブルの水差しから水を飲む。部屋の中を見回すと、みんな出掛けているようだった。
「もう昼間か。あー、今日はどうやって過ごそう」
くらくらする頭を抑えながらベッドから起き上がる。歩き回るには少々大変だが、動いていたほうが回復するかもしれない。と、掘っ立て小屋を出た。
太陽が真上にある。ちょうどお昼時だったのかもしれないが、まだ何も食べる気は起きなかった。
「んー、今日は何をしよう」
街をぶらぶら歩き始めるが、特に行く当ても無い。と、昨日ふと鉱山のことを思い出したので、以前世話になった鉱山ギルドでも顔を出してくるかと思い、足を向けた。
―鉱山通り ドロクロド―
相変わらず鉱夫募集中の張り紙がそこかしこに張ってある。
そういえば、最初に訪れた鉱山ギルドの日給は2,000Gだった。この間に駆け出し冒険者向けのクエストを受けて、狩り競争で得たのも2,000Gだった。同じ金額でも軽い所得格差を感じた。一方は鉱山でも危険な坑道の仕事。もう一方は、駆け出しの初心者冒険者が訓練も兼ねて行うクエスト。どちらもそれなりの危険はあることを考えても冒険者のほうは実入りがいい可能性。まぁ、冒険者は命がけの仕事でもあるので、これくらいの所得の差はあってもおかしくは無かった。
初めてのときに訪れた鉱山ギルドに足を運んだ。
見慣れたごつい男がいた。
「おっ、あんときのラッキーボーイじゃねーか! 久しぶりじゃねーの!」
「あっ、覚えていてくださったんですか!」
どうやら俺の事を覚えていてくれた事に驚いたが、良く考えると当然かもしれなかった。
「当たり前よ! 聖水晶なんてあれから誰も発掘できていねーからよ」
もしかしたらあの謎の黒いオーラで壊してしまったかもしれなかった水晶を思い出す。
「あー、あれですか。遺跡みたいなところにありましたから・・・」
「そうよ。あそこは危険だから既に封鎖してしまったが、惜しかったなぁ」
聖堂ではなく遺跡。いずれはあの場も調査したほうが良さそうな気もしたが、封鎖されてしまったのならば、うかつには触れないほうが良さそうだった。
「で、今日はどうするんだい?」
と、先輩の鉱夫に尋ねられた。顔を出したは良いが、どうするとまでは決めていなかった。俺はしばらく考える。特にやる事もないので暇だった。せっかく『採掘の基礎スキル』があるのだから、どうせなら使えるときに使っておこう。
「久しぶりに鉱山に行きたくなりまして」
「仕事の志願かい。いいぜ。道具なら以前のやつが貸し出し箱に入れてある。持って行きな!」
エルルに見つかったら、それこそワーカーホリックと言われそうだが、鉱山でバイトでもしていこうと思った。
二日酔いの醒ましにも運動は良さそうだ。
Quest Set! 「鉱山で採掘せよ!」 Get Ready? …Go!
―ザーラムで一番危険な鉱山 グラナ・ガント―
見覚えのある鉱山。そこにつるはしを持った冒険者。つまり俺だ。
「よっしゃぁ! 俺のつるはしがうなるぜ!」
まずはそこらへんをガッコンガッコンとつるはしで掘る。魔水晶は魔力を増強させる効果や保持する力があると聞く。冒険の備品として持っておくのも良さそうだ。・・・この先の冒険で役立つものを探そうというわけだから、いよいよプライベートな時間も仕事のことを考えている男になってしまったようだ。
「たしかにこれじゃあ、ワーカーホリックって言われるよなぁ」
つるはしを振り下ろしながら俺は笑った。小さい紫色の水晶がぽろぽろと出てくる。
「おっ、さっそく飯二食分をゲット!」
小さいかけら一つが飯一食分。始めに採掘のスキルをラーニングする際に、そんな換算をしながら魔水晶を貰ったから覚えていた。
「おっ、兄ちゃん。若いねぇ。飯の種分で稼ぎの勘定かい。新人のときはみんなそうするもんさ」
気がついたら老人の鉱夫が俺のそばにいた。
「おじいさんはベテランなんですか?」
「そうとも。時期引退するがね。・・・ふぅむ、鉱夫みたいな風には見えないが、兄ちゃんは鉱夫になるためにザーラムに来たのかい?」
「え? あー、いや。気がついたら一人で生きていかなきゃいけなかったもんで、とにかく何でもやろうと思って鉱山へ」
俺は初日のことを思い出して話した。
「若いのに苦労するもんだ! よし、引退する前にワシの採掘スキルの極意を教えてやろう! 坑道を作るだけではなく、塹壕を掘ったり建築の基礎工事もできるようになる優れものだ!」
老人の鉱夫が俺に新たなる鉱夫のスキルを教えてくれた。脳内に『採掘、削岩の中級スキル習得』と出てきた。どうやら採掘の基礎スキルがランクアップしたようだ。
「ありがとうございます!」
「良いって事よ。頑張りなよ、若いの」
そういうと、老人の鉱夫は手を振って去っていった。
「思いもがけず、鉱夫としてランクアップしちまったなぁ」
鉱山で採掘も可能な狩人なんて、この町には俺一人ぐらいだろう。そんな事を思いながら、坑道を掘り進んだ。
ガッコンガッコン掘り進んでしばらくしたら見覚えのある場所に出てきた。
地面が崩れてエルルのいた遺跡に通じていた場所だ。
「あっ、ここ懐かしいなぁ」
さすがに出入り禁止の張り紙が付いた板が打ち付けてあり、通行は不可能となっていた。
板の隙間から奥を覗くが、明かりが無いので先は見えなかった。耳を済ませると遠くから魔物の叫び声のようなものが聞こえた。
「うわ、さっさと退散しよう・・・」
たまの休みにいくらなんでも魔物とまでは遭遇したくない。とはいえ、いつかは探索したい場所ではある。
その後は一般の坑道に戻って魔水晶を掘る事に専念した。
Quest Clear!! Result.
・価値の低い魔水晶(100G換算)×4
・魔水晶のかけら(300G換算)×2
・魔水晶(1000G換算)×1
その日の稼ぎは一般の平均よりは少ないらしいが、それでも俺には上出来だった。とくに魔水晶の1000G換算の塊は魔力を保持しておけるらしいので取っておいた。他のかけらなどは売却し、800Gの収入。・・・これで今日はみんなに飯でもおごるか・・・なんて事を考えた。
そしてその日は上機嫌で帰路に付いた。




