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ギルドでのひととき

―冒険者ギルド ゼカイア―

 夕方の食事時。その日はまだ長い休暇の中の一日だった。と言うのも、纏まったお金が手に入り、少し休暇を取ろうと言う話になったからだ。

 前回の魔神討伐後、一週間ほどは自由行動にしようと言う事だった。カルナと狩りの競争をしたのがちょうど3日目。今日は5日めの休日となる。

 休みの日ではあるが、食事はいつもの酒場で取った。冒険者ギルドは冒険者の衣(装備屋)食(酒場)住(宿屋)などを斡旋したり直接提供を行ったりする。なじみの店として利用したほうがギルド側にも都合が良い為、食事も極力は冒険者ギルドを利用した。

 夕方の喧騒の中で料理を手に取り酒を飲む。


「一週間も休みがあると、流石にやる事ないなぁ」


 カルナと狩りに出掛けた日以外は掘っ立て小屋でだらだら過ごしたり、街中をバウエルと散歩するくらいで、他にやる事はなかった。


「シシトウ、職業病?」


 冒険者稼業とはスリルを求めてなる者も多い。当然、危険と変化に富んだ生活となるため退屈する事はない。結果として生活の安寧を得ても、それを退屈に感じてしまうようになる事もある。


「それは違うと思うがよ。それならチムチムは何して過ごしているんだよ」

「チムチムは故郷に錦を飾る為、日々魔法の勉強をしているのでしょう?」


 エルルがチムチムに尋ねた。


「うっ! 急に頭痛が・・・」


 チムチムが急に頭を抱えながら返答拒否を行った。


「もしかしてお前・・・上級魔法がつかえないんじゃ無くて、単純に勉強したくないだけなんじゃ・・・」


 とたんにチムチムが挙動不審になった。


「・・・お前・・・故郷に期待されてたんじゃないのかよ・・・」


 チムチムは頭痛がする振りをしたまま聴こえない振りをした。


「たとえやる事がないとしても、次から次にクエストを受け続けていたら気が休まらないでしょ。たまには息抜きも必要です」

「エルル殿の言うとおりだな。聞けば休みなしでいつもクエストに出ていたと言うじゃないか。流石に身が持たないと私も思うな」


 カルナもエルルに同意した。なるほど。確かに最初の頃は生活費の維持にどれくらいかかるのかもわからなかった為、仕方なしに立て続けにクエストを受けていた事もある。


「んー、冒険に出ているほうが面白いせいか、じっとしているのが苦手になっちまったよ」

「あー、これはワーカーホリックの症状が出てますねぇ」


 エルルは俺を見ながら、哀れんだ目をしてそう言った。

 労働時間に応じて給料が支払われる固定時間制度でもなければフレックス制度でもなく、成果を評価される限りない裁量労働制度の労働現場であるので、常日頃の時間も仕事の準備期間のようなもの。必然的にワーカーホリックのような状態にはなると思う。


「お前らはよく平気だな」

「そこはメリハリ。自分できちんと区切りをつけなきゃ。迷えるシシトウよ、あなたを治療する神聖魔法はないわ!」


 ワーカーホリックの症状までをも治せる神聖魔法があるのなら、ぜひとも見てみたいものだった。


「よぅ、お前ら。この間は大戦果を上げたって言うじゃねえか!」


 全身刀傷だらけの先輩冒険者が話しかけてきた。


「えぇ、偶然洞窟の仕掛けを解いちゃって、そこで遭遇した魔神を何とか倒せました」


 俺はそのときの状況をかいつまんで説明した。


「たいしたものだぜ! あの魔神は海運業に大打撃を与えていた魔物でな。あの魔神の討伐はこの街の悲願のひとつでもあったんだ。これが騎士団所属なら勲章ものだぜ」


「ありがとうございます。まぁ、運が良かっただけですよ」


 俺は軽く謙遜して見せた。実際に黒いオーラがなければやられていた。あれが何なのかはいまだにわからない。


「いいんだぜ! お前達は俺達ギルドの顔みてぇなもんだ! もっと堂々としていてくれよ! じゃあな」


 全身刀傷だらけの男は上機嫌で去って行った。


「実際問題、魔神討伐の一番の功労者はシシトウ殿であろう。随分と謙虚なものだ」


 謙虚と言うよりはなにやら怪しげな、原因不明の力頼みだったのだから目立つ事を極力控えていただけだった。


「(今後も同じ活躍を望まれても大変だからよ)一市民として、一冒険者として当然の事をしたまでですと、控えめにしているのさ」

「一冒険者が地域悲願の魔神討伐を果たしちゃったら大変でしょうが」


 エルルがすかさずツッコミをいれてきた。


「帝国へ多大な貢献をしたんだ。私ならもっと誇らしげにしてしまうだろうが、シシトウ殿を見習う事にしよう」


 カルナはどうやら感動しているようだ。まぁ、そんな人徳のなせる業とかそういうんじゃないんですがね。ほんと。


「なんにしてもだな。俺達って有名になったのか」

「それはそうだろう。聞けば重討伐指定の魔神だったというじゃないか。あのような魔物を討伐できて、私としては鼻が高いのだがな。街を上げての祝宴を催してもいいくらいの功労だぞ」


 カルナもそのように言うのなら、よほどの功績を上げたようだ。俺としては思いもがけず討伐してしまったので、かえって恐縮なんだが。何と言うか精神的に落ち着かない賞賛を得ている気がする。

 それもあって街をぶらぶらしているのも気が引けるのだろう。なにせ顔を見られるなり英雄扱いされるのだから。


「ザーラム、鉱山の街。輸出、大事。これからますます、発展する」

「へぇ、この街はチムチムの町でも知られた場所なのか。交易の邪魔をしていた魔物を倒せて良かったなぁ」


 そういえば、この世界に来た時にまずお世話になったのは鉱山ギルドだったんだっけ。


「これからは頻繁に輸送船の護衛などの仕事が増えるでしょうね。それもこれも海上封鎖をしようとしていた魔物の一角を討伐できたから」


 なるほど。それなら街を上げての祝宴もありえる。


「それで俺達は一躍街の英雄様ってわけか」

「そう言う事。冒険者ギルドにもその手の仕事が沢山来るでしょうから、このギルドでの私達の立場もかなりよくなったのでは? 私としては市井しせいの皆様のお役に立てて何よりだけれどね。私の神様は商売繁盛の神様ではないけれど、生活の安寧、安泰をつかさどる一面はあるから」


 エルルも上機嫌だがチムチムも上機嫌だ。


「チムチムも、もしかして故郷への土産話が出来た感じか?」

「チムチム、英雄のいる、パーティにいる。サリアリにも、自慢できる」


 チムチムがガッツポーズした。これで帰郷しても勉強が嫌で魔法習得はまだほとんどですってのは、そっちのほうがきついと思うんだが、彼女としてはどうなのだろうか。

 人間控えめが一番。俺はなんとなくそう思った。なにより、あの黒いオーラの話題に言及すると大変だ。慎重にもなるというもの。


「こんなときぐらいは羽目外して飲もうか!」


 俺は功労者の実感が無かったが、みんなそれぞれの理由で上機嫌なので、あわせることにした。

 夜の酒場に注文が飛び交う。酒の注文を追加で沢山入れたから、給仕のお姉さんが大忙しだった。

 馬鹿でかいローストビーフに山盛りのサラダ。具の沢山入ったスープ。そして色々なお酒。贅を尽くした料理の数々を愉しんだ。


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