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剣士の憂鬱

「なんだぁ? 今度は雷か?」


 俺はそう言いながら空を見上げるが、特に雷光などは見えない。と、山の斜面側を見たら、ごろごろと大きな岩が転がってきていた。


「うわっ! 今度こそ魔物の方か!?」


 俺の声にカルナが慌てて身構える。


「シシトウ殿は私の後ろに!」


 俺は慌ててカルナの後ろに廻る。山における落石事故の際は隊列を斜面から谷側へと一列に並ぶと良いらしい。


「私が合図を出す。そちらのほうに避けてくれ!」

「わかった!」


 カルナが転がってくる岩を見切って、「右だ!」「左っ!」と指示をくれるので、カルナの声と動きに合わせて俺も反復横飛びのように動いた。

 ゴロゴロゴロ! と大きな音と共にそれまで自分達が居た場所を岩がいくつも転がっていく。


「危なかったなぁ!」


 俺は谷の方面へとごろごろと転がっていく岩を見ながら安堵した。と、がこっと近場で動きが止まった岩がある。


「貰った!」


 カルナがそういうと、近くで動きが止まった岩に剣を叩き込む。

 ばこっ! と言う音と共に岩が真っ二つに割れた。良く見ると、岩には目と口があり、まるで生き物のようだった。


「あっ、しまった!」

「一体目は私が頂きだな!」


 転がってきた岩は間違いなく標的のローリングロックだったようだ。カルナに先制を許した。


「急な天候不順に気を取られてしまった。まったく、ついてないな」

「この手の不運は日常茶飯事さ」


 と、カルナの合図で右に左に避けながら、転がり行く魔物を視界の端で追う。

 少し降った所で本物の岩に激突して動きが止まった魔物を見つける。


「ん、よし。そこだっ!」


 俺はすかさず狙いを定めて岩を撃った。

 ズガッ! と言う音と共に矢が岩の魔物に突き立ち、あっという間にローリングロックは割れて砕けた。


「なんだ。始めの攻撃さえしのげば雑魚だな」


 そう言ってカルナのほうを振り向いたら、カルナは二体目のローリングロックを叩き割っていたところだった。


「駆け出しの冒険者の特訓に良く使われる魔物だと聞く」


 と言いながら、カルナは三体目のローリングロックに剣を叩き込んでいた。俺も近くで動きを止めた岩を探しながらボウガンで撃ち抜いていく。


「二体目・・・良し、当たりっ! 三体目・・・あれ、本物の岩だった」


 ローリングロックが転がってくる際に、本物の岩に当たって落石となるケースもあるようだ。どうやら俺は魔物と間違えて本物の岩を撃ち抜いたようだった。

 と、調子よく次々と魔物退治を始めたところ、ぱらぱらと雨が降って来た。それは間もなく土砂降りの雨となる。


「うわぁ、これはきつい。なぁ、カルナ。どこかで雨宿りしないか?」

「賛成だ。この天気なら直ぐにまた晴れるかもしれない。そうしよう」


 転がり落ちてくるローリングロックを避けながら、雨宿りできる場所を探した。

 雨で視界が悪くなっている状態で、何とか雨宿りを出来そうな場所を探す。俺の視野に大きな岩石の下にくぼみが見えた。

軽く雨宿りできそうなスペースがある。そしてそこは巨石の影である為、ローリングロックも襲ってこれなそうだった。

 カルナと共に俺は巨石の下に滑り込んだ。予想通り、岩の下までは雨は届かない。ローリングロックの攻撃も止んだ。


 俺は濡れた服を絞り乾かそうとする。


「少し寒いな。お、そこに枯れ枝があるのか。焚き火をしよう」


 巨石に下に乾燥した枯れ枝があった。わずかばかりではあるが焚き火の薪に出来そうだった。

 俺は早速枝に火をつける。ぱちぱちと枯れた枝が焼けて爆ぜる音がする。

 俺とカルナは焚き火で温まる。


「ちょうどよい休憩時間だな。雨が上がるまではじっとしていたほうが良さそうだ」


 そう言うカルナは鎧を脱がずにそのまま焚き火で服を乾かした。

 ゴウゴウと土砂降りの雨が山の斜面を打ちつける。斜面を見ると、雨水が集まって小さな小川のようになっていた。


「中々晴れそうに無いな」

「そのようだ・・・せっかくの機会だ。シシトウ殿には私の生い立ちの話を少しして置こう」


 焚き火で温まりながら会話を始めた。


「私はこの国のとあるお方の下に生まれたが、訳あって表舞台には出る事は叶わなかった」

「やはりカルナはいいとこのお嬢様なんだ?」

「・・・その認識で間違いは無いが、生まれは万人に望まれたものでもなかったのでな。裕福ではあっても針の筵のような世界だった」


 俺は父親に当たる人物を『とあるお方』と言ったカルナの物言いに、どこか距離があるように感じた。


「・・・そうなのか。それでいよいよ街から離れて暮らす事に」


 それは俺達が始めに彼女の後見人から受けたクエストの話だった。


「その通り。私の後見人がザーラムで隠遁暮らしをする事を進めた。帝都に居たままではどうなるかもしれなかったからな。だから、私は本名を剥奪され、唯一あのお方より賜った剣のみを携えてザーラムへ行く事を許された。この先、私は真の名も剣の流派もこの剣の本当の名をひけらかす事も許されない」


 それは随分と厳しい処遇のように思えた。


「カルナはそれで納得しているのか?」

「私はそれで行動の自由を許されるのならば安いものだと思っている。だからお前達にも感謝している。私のような素性のわからぬ者もそばに置いていてくれるのだから」


 それは前衛職が居なかったパーティの事情も多々あったが、彼女の腕を見込んでのものでもある。そして事情を知っていたら知っていたで、エルルもチムチムも反対するとは思えなかった。


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