アクシデント
俺はカルナがお嬢様と呼ばれた事で、彼女の身分をなんとなく思い出した。彼女は腰に帯剣していたが、今は剣を壁に立てかけていた。その剣の柄の紋章が削られている。
「ん? あぁ、この剣が気になるか。これはさるお方より頂いた宝剣。今は訳あって私が所持しているが、この世に二振りとない優れものよ。私にはなんともったいない事か」
俺の視線に気がついてカルナが答えた。
「ところで、先ほど御者に『いつもの事だ』と答えていたけれど、どんな意味ですか?」
俺はカルナが諦めたようにそう言っていたので尋ねた。
「あれか。あれが偶然にしか起こらないであろう出来事であっても不運のこの身。不幸な偶然の出来事ほど私が原因でそうなったのではないかとそう思うのだ」
聞けば彼女は生まれつき運が非常に悪く、周囲ごと度々危険にさらす事も珍しくは無かったらしい。俺もエルルもチムチムも半信半疑でしか聞いていなかった。
それは彼女の側に居る事によって、これでもかと再認識させられる事になるのだが。
しばらくして御者がまた小窓を開けてきた。
「もうしわけございません、お嬢様。土砂崩れによって、この先の道が通れない様子。少々荒れた道を通りますがよろしいでしょうか?」
「かまわん。いつもの事だ」
カルナは腕組みしてそう答えた。
馬車がごとごとと進んでいく。多少道が平坦でなくなったのもあり、乗り心地が少々悪くなった。
どうやら当初の一本道は倒木で使えなくなったので、林の道を行こうとして土砂崩れで使えなくなり、森の中の道を行くようだった。
と、森へ入ろうとした時の事。
「皆様方、盗賊でございます!」
御者が叫んだ。
心の準備をしていなかった事もあって俺達は驚いた。
「よし、貴公ら。私も出るぞ!」
カルナが宝剣を手に携えて馬車を飛び出した。俺達も慌てて後に続く。
―名も無き森の入り口―
森へ続く道の入り口で馬車が止まる。
進行方向には5人の盗賊が立ちはだかっていた。
Battle Encounter! 「盗賊×5」
動物の毛皮などで作った鎧を着込んだ男達がみなショートソードやロングソードを抜き放ち、周りを囲んでいた。
こちらはカルナが先頭に立っていた。
「盗賊風情に見せるようなものではないが、冥土の土産に持っていくが良い。我が剣、そして我が剣技、名乗る事は許されぬが、もとより貴様らに名乗るほど安い剣ではないわ!」
カルナは剣を抜き放ち、右に左にくるくると回転させながら前口上を述べた。彼女の持つ剣の刀身から淡い光が輝く。
「・・・これはブレイブ・パフォーマンス!」
エルルがそう小さい声でささやいたのが聴こえた。
後ほどカルナ自身から詳しく聞く事になるが、物理職が使うアーツと言うものの一つのようだ。演武を行いながら相手を挑発し、敵の意識をひきつけて囮になる技らしい。後衛を守るために使うのが一般的なとても献身的なアーツだった。
3人がカルナを取り囲む。残る2人が後衛の俺達のほうへと向かってきた。
「貴公ら、残る者達は任せた!」
集団戦の火蓋が切って落とされた。この状況下での最善は・・・俺はチムチムと目配せしあう。
「これでも食らいやがれ!」
俺は即座に一人の盗賊に矢を放つ。もちろん狙いを外すなんて真似はしない。無意識に急所は外して右肩と左足に当てた。矢に貫かれた盗賊は武器を取り落としてその場にしゃがみこんだ。
「やったぜ!」
「逆境にありて、尚尽きぬ、燃える闘志よ、我が敵を焼き尽くせ、ファイヤアロー!」
降り注ぐ雨などモノともしない極大な炎の矢がもう一人の盗賊に襲い掛かる。
・・・不運なのは狙われた盗賊だろうか。明らかに大ダメージを負って戦闘不能となったようだ。
残るはカルナがひきつけた3人・・・は彼女の風のように軽やかですばやい剣技であっという間に、ばったばったと薙ぎ倒されていた。明らかにレベルの違いを感じた。
カシャン、とカルナが剣を鞘に収めた。
「盗賊と遭遇するは我が不運。だが、私は自らの不運を己の力で退けてきた。今回は貴様ら盗賊の不運であったな?」
カルナは倒れた盗賊らを見下ろしながら勝ち誇った。
Victory! Result 「ショートソード×2、ロングソード×3、獣の皮鎧×5」
行きがけの駄賃ではないが、討伐しても報奨金が出る保証は無かったので、盗賊たちの身ぐるみをはいで装備を取り上げた。
そして全員縛り上げて馬車へ放り込んだ。
「こんなやつらでも討伐すれば少しはこのあたりも平和になる。それはひいてはあのお方の為でもあるならば、私はいかなる苦難もものともしない」
カルナは盗賊たちへ向けてそう言った。それは果たして誰に向けた言葉であっただろうか。
気絶(一人はやけどで重傷だった)を乗せて、馬車はザーラムの街を目指す。
「誰も怪我しなくて良かったわね。私の神聖魔法はこんなやつらの為にあるわけじゃないと言いたかったけれど、治しておいたわよ」
エルルの神聖魔法のおかげで特に重症患者含め、盗賊たちの怪我は致命傷とはならずにすんだ。盗賊とはいえ人間相手に温情をかける。さすがに聖職者だ。
「そうか。エルル殿はプリーストか」
本当はハイがつくほうだが黙っていた。それも、死者さえ蘇生するほどの。
「シシトウ殿はハンターで、チムチム殿はウィッチか。・・・ふむ」
カルナはなにか考え事を始めた。
ごとごと走る馬車。気がついたら外は晴れ始めていた。
しばらくして馬車は森を抜けて、遠くに見慣れた街の風景が見える場所に来ていた。
「(いろいろ遭ったけれど)何事も無くてよかったな」
俺は誰にとも無く呟いた。




