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カルパサッティーナ

―帝都の豪邸―

 それはザーラムの豪邸よりさらに立派な装飾の施された大きな館だった。敷地の中には大きな庭園や噴水もある。傍目にもかなりの富豪が住んでいるのでは? と思えるような屋敷だった。


「お館様にお目通りしてきます。あなた方はこちらでお待ちを」


 御者はそういうと馬車を降りて館の中へと入って行った。


「私達はどこまでも事情はわからないようにされているのね。まぁ、館の主と面識をもてないのは残念だけれど仕方ないわね」

「あくまでも雇われの人間ってスタンスでいいのかな」

「理解が早いわね。そのほうが雇用主から好まれるでしょうね」


 体面の為で雇われているならば、臨時でも問題はないだろう。ならば今回の仕事で上の方とコネクションを持つのは難しそうだった。

 一時間ほど後・・・。

 馬車の後部がガシャリと開けられる。俺達は馬車から降りた。

 執事と幾人かのメイドさんが出迎えてくれた。その先頭に立つのはアップシニヨンのロングヘアーの白銀の鎧を着た、見た目麗しい女性だった。

 その白銀の鎧を着た先頭の女性が周りの使用人達を労う。


「皆の者、長らく世話になった」


 使用人達が深々と礼をする。


「そんな、お嬢様。私達にはもったいないお言葉・・・」


 使用人達を指示していた老紳士の執事が深々と礼をする。


「いや、かまわん。私はもうここには戻ってこれないだろうが、私はお前達のことを決して忘れん・・・」


 使用人達は目に涙を浮かべ、各々が別れを惜しんでいる。

 と、白銀の鎧を着た女性はくるりと振り向き、俺達のほうを見た。


「あなた方が私の護衛か。私はカルパサッティーナ。よろしく頼む」


 カルパサッティーナが軽く一礼をする。俺達もみな名を名乗り一礼を返す。

その間にメイド達が彼女の荷物らしきものを馬車へと積み込んだ。

 やがて御者が現れた。


「今からならば、日が暮れる頃にはザーラムに着くでしょう。皆様方はその間の護衛を頼みます」


 御者はそういうと御者台に座った。カルパサッティーナが馬車へ乗り込む。俺達も後に続いた。

 元来た道を帰る。時間はまだ正午を過ぎたくらいと言ったところだった。今日は早朝にザーラムを出た事を考えれば日帰りで行って帰って来れそうだった。だから、行きは何事も無かったこともあって、帰りも楽勝だろうと俺は考えていた。そう。俺は甘かった。あまつさえ現実で死亡事故に遭い異世界転生した俺がいるのに、これで何事も無く終わってクエストの賃金だけ貰い丸儲け、何てことになるはずが無かった。そして俺以上のハードラックの持ち主が居ると知っていたら、帰り道こそ全力で警戒していたはずだった。

 帝都を出るまで、カルパサッティーナは終始無言でただ座っていた。彼女はどこか全身から重苦しい雰囲気を漂わせていた。


―ザーラムの南街道―

 曇り空の元、一本の道を走る馬車。

 行きと同じように帰りも馬車の中で揺られていた。

 行きと異なるのは馬車の中が無言だったからだ。馬車の中にはカルパサッティーナが居る。護衛対象が居る間ははっきりと任務時間だと言う意識はあった。

 護衛対象が無言のままなので、必然俺達も無言になった。

 気がついたら外は雨がぱらぱらと降り始めている。

 と、ゴロゴロゴロ! と雷の音が聞こえてきた。


「あれぇ、今日はずっと青空のままだと思ったのに、雨が降ってきそうだぜ」


 俺は無意識に沈黙を破った。あからさまな雷の音に驚いてしまったからだ。


「今の音はどこかに雷が落ちた音だよね」


 エルルも馬車窓から外を見ながら言った。

 馬が雷に驚いたのか、気がついたときには馬車が止まっていた。


「この季節に雷とは珍しいな」


 カルパサッティーナも口を開いた。どうやら全く会話をしてくれないわけではなさそうだった。


「カルパサッティーナさんはザーラムへ来た事は?」


 俺は思い切って彼女に聞いてみた。


「いや、ない。私のことは・・・そうだな。これからはカルナと呼んで欲しい。貴公らとは今回限りの間柄かもしれないが、同じ町に住む事になるのだから、少しあの街の話でも聞いておくか」


 彼女はそう言った。俺もエルルもチムチムもザーラムの住民ではないので詳しくは答えられ無いかも、と思いもしたが。


「ねぇ、カルパサッティーナさんは何て言ったの?」


 エルルがそう俺に尋ねた。


「おや、そちらの女性は古代語で会話をされるのか?」


 カルナがものめずらしげに古代語で聞いてきた。


「うん? えぇ、そうです。私の日常語でして」


 エルルが少々驚きつつもそうカルナへと返事を返した。


「カルナさんは古代語も話されるんですか」


 俺は少々敬語気味でカルナへと返事した。


「あぁ、私とは敬語を用いなくてもいい。そういうシシトウ殿も古代語で話されるではないか。古代語は魔術師達の基本言語でもあり、貴族達には教養の為の言語でもある。当然私も古代語は少々嗜んでいる身」


 彼女の話しぶりから察するに、俺が疑問系的な返事を返したのは少々無礼だったのかもしれない。が、謝ろうとしたらかえって彼女が『遠慮は要らない』と返してきた。

 と、御者が小窓を開けて話しかけてきた。


「もうしわけございません、お嬢様。先ほどの落雷によって木が倒れ、この先の道が通れなくなっております。少々遠回りいたします」


 平坦な一本道は倒木で通れなくなっていて、林を遠回りしていく形となった。


「かまわん。いつもの事だ」


 御者がカルナの言葉を受け、また元の席へと戻って行った。


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