貴族からの依頼
―ザーラムの南街道―
青空の下、一本の道を走る馬車。
その日は馬車の中で揺られていた。と言っても、俺達の馬車が完成するのはまだまだ先だ。その日乗っていた馬車はクエストの都合で乗った馬車だった。
俺達はとある豪邸で要人警護の依頼を受けた。それはザーラムの遥か南の帝都からの護衛だった。
護衛対象の詳細は聞かされていない。何もかもが極秘だった。依頼のきな臭さは俄然高くなり、話を聞いた時点で既にクエストを受諾するかしないかの選択肢はなくなっていた。
ただ、帝都からザーラムまでの間、要人を護送する馬車に乗り警護を頼みたい・・・と。
聞けば、特に護衛が必要な状況にあるだとか刺客を向けられているだとかそんな事はないという。だが、『念の為』護衛に当たって欲しいと言う内容だった。
「聞けば聞くほど怪しい依頼だったよなぁ」
俺は馬車の中で御者に聞かれないことを確認したうえで周りに洩らした。
「極秘の要人警護、だからあまり公にはされたくないんでしょ。私の時代にもよくある話。要人がお貴族様なのは間違いなさそうだけれど、詮索しないほうが身の安全よ。知られたくは無いから情報開示をしていないのだから」
エルルが真剣な表情でそう語る。語る当人もそのお貴族様のようなものなので、依頼人の事情とやらは鑑みるようだった。
「だってよぉ、『何も危険はありません』て言うのに『護衛をお願いいたします』だぞ?」
俺はなんとなく気乗りしない理由を仲間に告げる。チムチムは黙って話を聞いている。
「貴族ってのはね、面子や体面も大事なの。遠出の際に大勢の付き人をつけたりするのも世間体の為でもあり、家柄、家格の誇示でもあるの。護衛というのもそういった形骸化した風習の名残で依頼している事もあるのかも」
古代の時代に既にそんな話が形骸化しているのに、その名残を現代でもやっているのなら問題なんじゃあないかと思いつつ、なんとなく説得力のある話に俺は納得しかけていた。
「・・・であるならば、極秘での依頼と言うのは気になる話なんだけどね」
と、エルルはやはり気になる点を付け足した。
「考えても、仕方ない。今、休む」
チムチムは思考放棄してくつろいでいた。
「考えてもわからないのは確かなんだし、俺もチムチムを見習うかぁ」
俺は馬車の席でゆっくり背伸びする。遠出とはいっても馬車の中で揺られているだけなので、これだけでもお金がもらえるのなら楽なものだった。
今回のクエスト。特に道中で何も無くても賃金保証はある。なんとも美味しいクエストだった。この点だけ見れば貴族の面子の為の人員と言われても納得するだろう。
前回の事もあり、出来る限り安全なクエストをしたかった。そもそもが冒険者稼業と言うギャンブラーな業界から脱却するのが一番だと考える。しかし、その為に翻訳出版を生業にしようと画策したが、この世界にはコピー機のような便利なものは無いので、出版物は手書きの写本だった。出版で稼ごうと考えたらかなりの労力を費やす。短い夢だったと落胆した。よって、今回の楽して儲けられるかも、はありがたいクエストだった。
―帝都グランフェルム―
大草原沿いにさらに南下した先に大きな町が見えてきた。大きな丘の上には巨大な城があり、この地方で一番大きな町であることを示していた。
「ここが帝都グランフェルム・・・」
俺は馬車の窓から外の景色を眺めた。炭鉱の町ザーラム以外の街を見るのは初めてだった。石造りの町並み。大きな門。活気ある市場。人通りの多い大通り。どれをとってもザーラムより遥かに活気があった。
「ほぇー、私の居た時代にもここまでの町並みはなかったよ」
「チムチムも、こんな大きな町、知らない」
エルルもチムチムも感心している。
俺達を乗せた馬車はどんどん進む。目的地は聞かされていない。このまま黙って乗っているしかなかった。
「やっぱり馬車があると便利ね」
エルルがぽそっと呟いた。
徒歩なら大草原まで半日。それが馬車なら半日足らずで街まで着いた。途中の街道もほぼ何も無く、殆ど疲れも無いままで長距離の移動が可能となる。荷物も多めに持てる。今後この世界を旅するならば、必ず必要になる予感がある。
「馬車かぁ。RPGらしくなってきたじゃねーの! 船を買えれば冒険も中盤かなぁ」
となれば、飛行船とかの類も欲しくなると言うものだった。
「なにそれ。中盤とか何基準?」
「いやなに。こっちの話さ!」
乗り物があれば通商ギルドに所属して交易を行えるようにもなる。それならそれで冒険の幅が出来るし、もっと世界中を冒険するのも楽になる。
俺は先の事を考えながら期待に胸を膨らました。
「まずは、今日の、お仕事」
チムチムがぴしゃりと言った。確かに今日は今日のクエストがある。まずはそれを無事に終わらせなくては。明日以降のことはそれからだ。
そうこうしている間にも馬車は進む。そのうち馬車は一軒の立派な館の敷地へと入った。




