砂漠の死闘
「この先、サンドリザード、出る話。注意、する」
今回の作戦もチムチムの単体魔法頼みだった。一撃の威力ならそこらの魔法使いなど比較にはならないらしい。
俺が遠くから矢をかけ追い込むなり、囮になって引き寄せるなりを実行する。この辺りは的となる魔物の知性と攻撃性頼みだったが、無鉄砲な作戦じゃないだけ遥かにましだ。
まずはサンドリザードを見つけ出すしかない。今回は砂漠に近い気候の荒地と言う事で、バウエルはお留守番だった。いつもの冒険者ギルドに預かっていてもらっている。この分なら大丈夫だったかもしれないが、ともかく今日はみんなで索敵を行う。
「どうする。今回も荷下ろしをして野営地を作ってから行動するか?」
俺は動きやすいように荷物を軽くしておきたかった。後が楽なように岩場の影でもいいのでテントを張ってしまいたい。
「そうしておきましょうか」
一時間ほどかけて荒地の岩場にその日の拠点を作る。大き目の岩の天辺に旗を立て、遠方からでも直ぐ見つけられるように目印を立てた。
その後、大きな岩だらけの荒地を進む。
「そういえば商隊が襲われて危険なレベルの魔物なんだよな」
「依頼人の話ではそうだったわね」
「商隊が襲われて危険を感じるって、どんな魔物なんだろうな」
俺はとても重要な点に疑問を感じていたのかもしれなかった。
「どんなって・・・どうなんでしょう!」
エルルも答えられなかったようだ。
と、チムチムが何かに気がついたようだ。が、どこか青ざめている。
「どうしたチムチム、何か見つけたか?」
チムチムが遥か右前方を指差した。そこには遠めにもトカゲらしきものがいるとわかる姿が見えた。
「おー、あれがサンドリザードか。・・・どれくらい離れているんだろう。・・・あれ、遠近法の問題かな。やたら大きく見えるんだが・・・」
それは俺でも見えるくらいに巨体を誇るとかげだった。象よりも大きいのではないだろうか?
「・・・群生ではないみたいね。そこまではいいけど、本当にあれを相手にするの?」
エルルが念を押すように確認をしてきた。
「・・・思っていたよりも大きいな」
弓矢で象を倒せると思えるだろうか? マンモス狩りをしていた石器時代ぐらいでも困難なんじゃないだろうか? こう言葉にすると、もしかしたらいけるかもって思えそうでなんだが、こちらは魔法の力がある。
「・・・チムチム、仕留められるか、自信ない」
チムチムが慎重に標的と自らの力量を測って答えた。
「うーん。足の速さはどうなんだろうな。だめそうなら逃げる方向で、一度仕掛けてみるか?」
遠路はるばる来たのだから、やばそうなら逃げようの方向で一度挑戦してみようと思った。
「無理は禁物。大変そうならクエストは辞退しましょう」
エルルも条件付でなら問題なさそうだ。
「チムチム、がんばる」
チムチムがぐっと拳を掲げながらアピールした。
Battle Encounter! 「サンドリザード」
遠方に見える巨体はこちらの接近には全く意に介さない。とかげは悠然と歩いている。
「魔法の射程まで近づくか?」
こちらから先制攻撃が可能そうだった。それなら一気に畳み掛けるつもりで仕掛けたほうが良い。初手にて一撃必殺なら楽な相手だろう。いけたらの話だが。
「100メートル。近づければ、確実に、当てる」
魔法の必要射程はわかった。最大威力の射程のようなので、もちろん近ければ近いほど良いようだが、相手のことがよくわからないので、100メートルから魔法で狙撃する事になった。
じりじりと気配を殺しながら標的に近づく。
戦いで先制を取ることの重要性を身にしみて感じた。エルルやチムチムが戦う相手の知性を気にかけていたのもよくわかった。こちらの世界の住人の大事な価値観のようだ。
サンドリザードが人間より遥かに知性が高いと言う竜種だった場合、先に気付かれて先制攻撃を受ける事もあるのだろう。
「あのとかげ、どうやら気が付いていないみたいだな」
「油断は禁物。商隊が襲われるくらいなんだから、かなり獰猛な性格のはず」
エルルの見立ては正しかった。あいつらは動くものを見ると餌とみなして襲い掛かってくる。一番の問題は馬も狙われると言う事だった。この問題については後で重大な出来事に繋がる。
岩と岩の間に隠れるようにして進む。なるべく相手の背後から近づく為に、遠回りなどをしながら接近を試みた。
サンドリザードの巨体がだんだん近くになるにつれて、殆ど動かない標的の様子をみて、何とかなるかもと思いもしていた。
標的との距離を徐々に縮める。予定の距離まで残り後わずか。
「一つ聞いておくけど、一撃で倒せなかった場合の予定はどうする?」
エルルが作戦行動の予定を確認する。
「えーと、俺が弓で応戦する間に第二射とか?」
「それなら、次の魔法撃つ、一分、必要」
一分なら何とかなりそうだった。
「良し、それで行こう」
俺は反対する理由が見当たらなかったので、早速矢を手に取り弓に番える。
サンドリザードまであと少しの距離。にじり寄る。
「いまだ!」
俺の合図と共にチムチムが詠唱を始める。
「凍てつく、大気よ、無慈悲の刃、振り下ろせ。アイスアロー!」
チムチムのアイスアローがサンドリザードめがけて飛び交う!
アイスアローはサンドリザードの後ろ足に直撃した。
「やったか!」
サンドリザードの後ろ足が氷漬けになっている。
「あれなら足止めもかねられる。次で決められれば・・・」
エルルがそう言いかけた時だった。
がきっ! という氷の砕ける大きな音と共にサンドリザードが動き始めた。そして攻撃してきた相手を探し始める。・・・射線が引いてあるので、当然相手からはこちらは丸見えだ。
・・・サンドリザードに見つかった。
これまで同様にのそのそ動くのかと思いきや、サンドリザードは俊敏な動きで迫ってきた。地を這うように、だがその動きは非常にすばやい。
「何て早さだ!」
俺は慌てて矢を放つ。が、ただの木の矢では有効打には程遠い。
サンドリザードは匍匐するようにぐんぐん近づいてくる。明らかにこちらを狙っていた。
「まずい、逃げろ!」
俺はみんなにそう言い放った。エルルもチムチムも一斉に退却を始める。
3人がサンドリザードを背にして逃げる。しかし、相手のほうが圧倒的に足は速い。商隊の馬を狙うと言う事は、馬と同じかそれ以上の足の速さと言う事だった。砂漠や岩だらけの荒地ではサンドリザードに地の利があった。俗に言う地形効果は圧倒的にサンドリザードに有利に働いている。
ごつごつした岩だらけの間を縫うように逃げているのに、サンドリザードはこちらを見失わなかった。単純に視覚にだけ頼っているわけではなさそうだ。
このままでは追いつかれる・・・。
「くっ!」
俺は一人敵を見据えて振り返る。そして振り返りざまに次々矢を放つ。
少しでも時間を稼げれば二人は逃げられる。そうすれば逆転の手も見つかろう。
「くそっ、こいつ、とまれっ!」
俺は一心不乱に矢を放ち続けた。どんどん接近するサンドリザード。
眼前に迫るサンドリザードの巨体。
それが記憶にある最後の俺の景色だった。




