砂漠の冒険
街から西へ続く街道。地平線が見えそうな草原に延びる一本の道。整備された街道には魔物や盗賊の類は現れないので平和そのものだった。
オーダーメイドの馬車は現在製造中のため、雑用を卒業したばかりではあるが、俺が兼用した。往復三日分の荷物を持つ。
「あぁー、なぜ恵体の冒険者が多いのか、わかった気がするよ」
俺は思わずそう呟いた。専属の雑用が居なければ体力のある前衛職が荷物持ちも行う。ただでさえ力仕事なのに、さらに体力を酷使する状況に置かれるのだから。
休憩を挟みながらではあっても、それなりに疲れる役割だった。そんなときに役立つ重要なアイテムの薬草。『冒険者必携!』と広告に謳われるだけの事はある。
「もうすぐ、荒地」
チムチムが遠方を見ながらそう伝えてきた。どうやら目的地までは、障害となるようなものも危険も何も無い安全な旅路のようだ。
「このまま魔物が出ず、何事も無い順調な旅なら良いんだけどなぁ」
「魔物の討伐クエストに来ておいて、何事も無くはないんじゃないの?」
俺のぼやきにエルルのツッコミが入る。ごもっともではあるが。
「そういえば、サンドリザードってどんな魔物なんだ?」
「砂漠に生息するおおとかげ、とかつて文献で見た程度。私は実物を見た事無いわ」
エルルの言葉にチムチムも「見た事、聞いたこと、無い」と語る。当然俺も知らない。
「なんだ。誰も知らないのか。まぁ、俺も名前すら聞いたことは・・・」
ゲームで名前を見かけた事があるような無いような。ありそうでないかもしれない。そんな絶妙なコースを突いてくる魔物の名前だった。
「・・・名前くらいは見た事あるかもしれないが、実物は流石に見たこと無いよ」
おおとかげと聞いて、俺はコモドドラゴンのようなものを思い浮かべていた。
パーティの誰もが知らない魔物。今までにもいないわけではなかった。街の近くで見かけたうごめく草と呼んでいたものはアンブッシュグラスという魔物だったし、最近見かけた狼も正式な学術名が存在するらしい。
サンドリザードについての話題で会話をしながらしばらく歩く。
やがて遥かなる草原を抜けると、ごつごつとした岩だらけの荒地へと入った。
「一気に草木がなくなったな。空気も乾燥してきているようだ。喉が渇いてきた」
俺はチムチムに出してもらった氷で水を飲んでいた。念の為に煮沸してから飲んでいる。日本人は海外旅行で真水に注意するように言われていた事を覚えていたからだ。
そのせいもあってか、こちらの世界に来てから水に絡んで体調を崩した事はない。人間、いろんなところで学べる事があるもんだと感心した。現実の世界で見聞きして知った事は、こちら側でも通用するものが多いのだから。
「希望進路に探検家とでも書けそうだよ」
俺はそんな事をふと思った。そうだ。俺は学校の修学旅行でギリシャへ来ていたのだ。気がついたら大変な事になってしまったが。生きていく為に躍起になっていた間に、いつの間にか順応していた。
「シシトウ、本格的に、探検家、なる?」
そういえばチムチムには探険家に向いているのでは? と言われていたんだった。便利な謎の翻訳能力が身に付いているのだから、これを特技として有効活用しないてはなさそうだ。文章の翻訳も可能だ。・・・まてよ、危険に身をさらさずとも、この付近とは異なる言語の海外の書物を翻訳して売れば儲かるのでは・・・。
俺は水飲み休憩中に壮大な人生プランを思い描いていた。労せずして稼げるのでは、と言うその一点において試さずにはいられない。
「どうしたのシシトウ。珍しくシリアスな表情をして」
志の方向性はともあれ、自身の生活に直結したサクセスストーリーを妄想するに当たって、にやけ面になりそうな内容ではなく、どう商売に出来そうかを考えていた事が良かったようだ。
「いや、ちょっと考え事さ」
旅先でのふとした考え事レベルではないが、これは真剣に検討したほうが良い内容だ。
俺は輝く太陽を見上げ、自身の成功を想像して拳をぐっと握った。
「やれやれ・・・帰ってから忙しくなりそうだぜ・・・」
俺はそう力強く格好をつけて言った。
「どうしたの急に?」
エルルが心配して・・・ないな。胡散臭そうに俺を見ている。変に格好をつけたような言い回しをした事を怪しんでいるようだった。
「あぁ、人生について哲学していたところさ・・・」
俺はそう答えた。台詞に意味は無い。ただ言ってみただけだ。妄想は既に大成功を収め、莫大な富を手に入れたシーンに差し掛かっていた。
「砂漠の熱にやられ、半妄想状態で呆けるにはまだまだこれからでしょ」
エルルには砂漠の熱でやられたものかと思われているようだ。気温はまだまだ余裕なんだがな。あ、そんなツッコミだったのかな。
「・・・まだまだ気温は大丈夫だろうよ。と言っても、本格的な砂漠になったら大変そうだな」
今後の人生プランはともかく、まずは目の前の事に集中しよう。俺は息を整え、荒地へ入る準備を始めた。




