旅立ちの前に
「狩ったもの、食べる。自然の掟。チムチム、頑張る」
チムチムの目が燃えている。彼女はどうやら狩猟民族のようだった。
「チムチムは狩りが好きなのか?」
「チムチムの部族、魔法使いの部族。戦える者。狩りする。成人にしか無理。度胸ある。大事。大物倒す。部族の誉れ」
チムチムは握りこぶしをぐっと握る。その背は益々燃えている。
「そういえば、チムチムはどんな魔法を使えるんだ?」
俺は何の気無しにチムチムに尋ねた。
「チムチム、『詠唱魔法の基礎スキル』を持つ。魔法の基礎、アロー、使う。範囲魔法、苦手。チムチム、新しいこと覚える、苦手。後、『魔道具の知恵の基礎スキル』を持っている」
チムチムが少々申し訳なさそうに言う。
「俺はチムチムがすごいと思うよ。俺は雑用だからなぁ」
普通の高校生だったのだから、何か特別な力などいきなり使えたりしない。ハデス・・・あの神様、何か特別な力をくれたらいいのに。
「チムチム、族長に、いつも怒られる。勉強苦手。新しい、覚える、むずかしい」
「チムチムってさ。魔力かなり高いよね。アローであれだけの威力を出せるんだもの」
エルルがチムチムの放ったファイヤアローの話題を出した。
先日、反社会的運送業を営む船員一名が火達磨になったところだった。
「あれってかなりの威力だったのか!」
俺はいまさらながらに驚いた。
「本来は矢みたいに細いものなのよ! 殆ど火球みたいな大きさだったじゃない!」
思い起こせば、もはや空飛ぶ丸太のような太さの火の塊だった。
「ここだけの話、チムチムって私が居た時代にも同じような部族が居たかも。超強力な魔法を使う部族の一団。聞いたことがある。たぶん、体に魔法を補助する為の文様を描いているかも」
彼女と出会った時に見かけた体のタトゥー、どうやら意味があるもののようだ。
「そういえば、エルルは何のスキルを持っているんだ?」
俺はずっと聞いていなかった大事なことを今更ながらに聞いた。
「私? 『神聖魔法の上位スキル』と『神学の上位スキル』。他、雑学的なこと色々」
色々と言う中にも色々あるだろうが、あえて尋ねることはやめた。自分自身はコモンスキルしかない。
「シシトウ、どんなスキル、ある?」
「俺か?『採掘』『狩り』『料理』の基礎スキルだ」
「生存、高める目的。優れた雑用」
「・・・どこでも生きていけそうなスキル構成ね」
俺は二人から慰めともお褒め預かっているともわからない評価を得た。趣味スキルで動物会話を覚えたいが、もう少し実用的な雑用を目指したほうがいいのだろうか?
・・・そういえば、スキルには含まれないが、俺は謎の翻訳能力を得ていた。このパーティははたから見れば古代語で会話しているのか。どんな風に見られているんだろうか。
後付の翻訳能力を除けば、それこそ村人向けのスキルしかない。平凡な人生を歩む予定だったのだから当然だと思う。
ふーむ。エルルは人生ゲームをガチプレイしている勢力と思えなくもない。チムチムはパラメータ一点特化だがその他で苦労している勢力のように思える。
全パラメータ平均振りのような俺はどのようなスタイルが良いのだろう。
「大丈夫。みんなでそれぞれが特技を活かせばなんとかなるよ」
ガチ勢エルルがフォローしてくれたので、話は綺麗に纏まった。
「そう」
「じゃあ、早速出発しようぜ!」
気力良し、パーティ間のコミュニケーション良好。後は物資の準備だけ。
Quest Set! 「クレイジーバッファローを退治せよ!」 Get Ready? ………Go!
―ザーラムの南 大草原へと至る道―
大草原へ向かう道路を歩く。町外れまでは石畳の道路だったが、そこから先は馬車の轍が残るのみの道路だ。もっとも、ただの轍であっても道に迷わない為の確かな道しるべ。
そこで早速雑用の真価が発揮された。旅の間の日用品や食料などは雑用が一手に運ぶ。これだけでもパーティメンバーは大助かりだ。
荷物を背負い歩くだけでも負荷はすごい。
「冒険がこんなに大変だ何て思いもしなかった・・・」
「馬か馬車を買う? どちらもかなり値が張るけれど。だれかは乗馬スキルが必要にもなるし、馬の移動可能な範囲のクエストに限られるって制限もあるね」
馬車付きで馬を買うと5万G。既に市場はリサーチ済みだった。流石に生活にも商売にも使えるだけあって高価だ。
「まだ大丈夫」
とはいえ、馬車もまた大所帯での長距離の旅という雰囲気がたまらない。欲しいのはやまやまだ。所持金はあるが、生活費が枯渇しないリスクさえ解消できれば買ってしまいたい。なにせ幌付き馬車なら家代わりにもなる。
目的の大草原までは地図で図る上では約20キロメートルといったところだ。正確な測量技術があるのかはわからないが、地図の細かさを見る限りではという見積もりだった。
その20キロメートルの旅で必要となる物。初めての長旅だから、何が必要かがわからない。




