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異世界へとんじゃった

「お前はこう言っていたな。異世界とか行ってみてーよな? 面白言う事を言うやつだ」

 俺はまたしてもハデスが何を言っているのかわからなかった。が、言葉に聞き覚えがある。確か、修学旅行中に言った言葉だ。

「お前は冥府と異世界、行くならどちらを望む?」

 これまたすごい質問が来た。冥府と異世界と来たか。これもアトラクションの一環かな?

「それなら異世界しかないっしょ? 新たな人生を全く違う世界で歩めるなんて夢のようだ!」

 俺はためらいも無かった。

「随分軽い返事だな」

「てーか、こんな感じの異世界転生パターンなら普通はきれいな女神様とか天使様が異世界行きを尋ねたりするもんじゃないの?」

 俺の言葉にハデスが軽く笑った。

「あの世に行く際の普通の話しをするのか? まるで何度も見てきたかのように!」

「あれ、なんか俺変な事言ったかな」

「冥府といえども地獄のような場所ばかりでもない。天国のような場所もあるのだが、お前はあえて異世界へ行くと言うのだな」

 あえて天国、何てキーワードを出されると俺も判断が揺れる。

「え、天国? それも捨てがたいなぁ」

 うーん、と俺は一人うなる。

「それで異世界のアウラ・ノヴァ行きを望むのだから面白い。足掻いてみろ。貴様の生き様、踊る様、俺様を退屈させなければ褒美をやろう」

 なんだか俺の異世界行きが決まったような感じだ。

「はいはい、一つ質もーん!」

 俺は挙手してハデスに問いかける。

「なんだ。言ってみろ」

「異世界行きに関して、なにか望む姿だとかすごい超能力だとか、はたまたなんだかすごいマジックアイテムみたいなものは貰えるんですか?」

「ない。一切無い」

 ハデスがきっぱりと断言した。なんだか取り付く島もなさそうだ。

「ただで生き返れるのだ。それに勝るものがあろうか」

 自分が死んだのを前提にするのなら、確かに破格の待遇のようにも思えなくも無い。ここでご機嫌を損ねられるようなほうが問題だろう。…なんだろ、俺。まるで本当のやり取りをしているみたいに話をしている。現実感は無いのに。

「ですよねー!」

 中々に丁寧な観光イベントだなぁ。俺もその気になっちまったよ。なら、最後まで付き合うか。

「ではではー、自分のこちらの持ち物は持っていけるんですか?」

「今お前が身につけているものだけなら可能だ。獅子堂 空無。お前がお前として生きた記憶と人格もな」

 ん、俺の名前は知っていたんだ。受付か何かでプロフィールでも渡したのかな。

「さいですか。それだけでも十分っすわ」

「お前は度胸のあるやつだ。俺様に向かって何かくれなどと、ぬけぬけといえるような者はこの2千年あまりは居なかった」

「へへーっ、光栄の至りにございます」

 俺はカロンのように恭しく一礼をする。

「獅子堂 空無。行くがいい。お前の行き先はその道だ」

 ハデスがびしっと指差す道は、先ほど誰もが行かなかった道だ。俺は指差された方へと歩く。その道も他と同じく真っ暗闇だ。

「…あのー、真っ暗で前が見えないんですけど」

「気にするな。迷わず進め。人生とて、未来が見えずとも前に歩くではないか」

 さり気にかっこいい事でも言っているつもりだろうか。まぁ、乗っておこう。そういう教育的なアトラクションかもしれない。

 俺はどんどん前へ歩いてゆく。不思議と躓くものもぶつかる物も一切ない。

 そうするとどんどんうっすらと周りが明るくなってゆく。どんどん周りが白くなってゆく。道があっているのだろうか。そんな気はするが、外にでも繋がっているのだろうか。俺はそんなことを考えながら気楽に歩き続けた。

 さっと一際強い光の中を潜り抜け、気がつくと西洋風の町並みの中に出た。

「ん、日差しがこんな強かったっけかな」

 俺はさっと手をかざして目から太陽光をさえぎった。

「んー、ここはギリシャのどこの街なんだろう。みんなはどこに居るんだろう」

 と、そのときだった。

「おい、兄ちゃん。どいてくれよ。道端のど真ん中で邪魔だよ」

「おっと、失礼。…ん、日本語がわかる人? ちょっと待ってください。聞きたい事が」

「何だ、俺は急いでいるんだ。手短に頼む」

「すみません、ここはギリシャのなんていう町なんですか?」

「ギリシャ? どこのなんだいそいつは? ここは炭鉱の町、ザーラム」

 俺はふと耳を疑う言葉を聴いた。炭鉱の町、と。ギリシャには今でもあるのだろうか。

「あれ、この世界って日本語通じるんだ」

 俺は混乱していて、会話は見当違いにして正しい疑問を口にした。

「何言っているんだい。お前さんはどこの田舎町から来たんだ? 流れ者か? 冒険者志望ならしらねーが、炭鉱の鉱夫希望なら歓迎するぜ」

「あ、いや、お構いなく!」

 俺はあわててそそくさと相手の男から離れた。なにか聞きなれない単語を次々と日本語で聞いている。相手の男の姿は明らかに日本人じゃないのだが。

 ふと、ハデスの言葉を思い出す。異世界行き、と。ハデスはギリシャ神話の神。なら、あそこまでならギリシャ? 俺は後を引き返そうと後ろを振り返る。

 なにもない。ただ、見知らぬ町がずっと続くだけだ。


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