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魔法使いの女の子

―冒険者ギルド ゼカイア―


 ある日、クエスト探しに出掛けた日の事。俺達は自分らがクリア可能なクエストを探しにギルドへ立ち寄っていた。

ちょうどよい難易度は無いか探したが、後衛職+非戦闘員+犬でもこなせそうなクエストが見当たらなかった。

 圧倒的な火力、攻撃力不足により、討伐クエストというだけで辞退しなければいけない有様だった。


「なぁ、エルル。ハイプリーストって、攻撃魔法とかないの?」

「他の宗教ならあることはあるけれど、私の宗教は不殺生アヒンサーをモットーとする宗教だから、攻撃魔法はありません!」


 胸張って言われちゃったよ。


「攻撃魔法は無い代わりに、基本みんな回復や蘇生魔法などは得意としているよ?」


 蘇生? 死んでも大丈夫って事か?


「あ、それってもしかしてすごいことなんじゃないのか?」

「そうそう、もっと私の宗教を讃えることね! 巷で冒険者の蘇生を行う神官職の大半はうちの宗教の者なんだから」


 俺はふと大事なことを思い出した。


「あれ、エルルは古代の人だけど、現代でもその宗教はあるのか?」


 俺の言葉に沈黙が訪れる。足元に居たバウエルが俺の言葉に呼応するように「ワン!」と吼えた。


「・・・え、・・・もしかしてないの?」

「一体どれくらい前かは知らないけれど、遺失してしまっていてもおかしくないんじゃないか? 既に廃れている可能性はあるだろうよ」

「ぇええええ! 当時は三大宗教といわれるくらいの大派閥の宗教だったんだよぉ?」

「街中で自分の宗教のシンボルとか聖印とかを見かけたことは?」


 エルルがしばらく考え込んだ。


「・・・ない! 全く無い! あぁ、何て事なの!」


 蘇生魔法の所持の判明と、その希少性が高いと言う事がわかったことはともかく、アタッカー不在のパーティであることは解決していない。


「蘇生魔法を所持している事を条件とするようなクエストは存在しないなぁ。どうする? 今日は引き上げるか?」


 俺はクエストボードの張り紙を見ながら、自分らが行えそうなクエストが存在しないことを確認した。尚、採取系のクエストはあるが、道中で遭遇する魔物のことも考慮されて、どれもそれなりの難易度設定が見積もられている。


「そうね。無理にクエストを受諾して失敗するよりはそうしましょう」


 俺達は冒険者ギルドを後にすることにした。


―ザーラムの海岸通り―

冒険者ギルドからの帰り道、いつもとは違う道を通って帰った。


「この世界にも帆船はあるんだなぁ」


 俺は海沿いの船を見ながら語る。海に面した通り沿いに、港に停泊する大勢の船舶が見えた。


「海外からも巡礼にくる者は多く居たから。ここは元々入り江の町。港を作るには向いた地形みたい」


 鉱山も近くに有るため、輸出関連も盛んそうだ。通称ギルドのクエストの中に、積荷の護衛がいくつもあったが、海を行くものは海賊関連が相手か何かなのだろう。


「すこし見て行ってもいいか? 帆船って、間近で見るのは初めてでさ」


 俺はファンタジーな光景に慣れたつもりで居たが、やはり目新しいものを見つけると興奮する。ゲームでは中盤くらいに登場となる船。俺も船を所持できる日は来るのだろうか。


―ザーラムの港―

ザーラムは入り江の海岸沿いの入り口に位置する。内湾は波が穏やかである為、港とするには格好の場所だった。潮風の香りがする町並み。赤いレンガの建物の間を通って進むと、太陽光を反射してきらきら輝く海が見えた。

 桟橋のあるあたりに、いくつもの大型船が停泊している。


「随分大きな船になったものね」


 エルルがふとそんなことを呟いた。

 船が大型化しているならば、航路が長くなり航海術も発達しているかもしれない。ならば、この世界の広さはそれなりにありそうだ。

 と、俺達が船を眺めていたときのことだった。桟橋のほうから喧騒が聞こえた。


「なんだろう。揉め事かな。行ってみよう!」


 エルルが興味深そうに喧騒の方角を眺めていた。俺も暇なこともあって賛成した。

 喧騒の周りには人だかりが出来ていた。野次馬が集まっているようだった。

 停泊場の桟橋の上で、大きな三角帽を被った褐色肌の魔法使いみたいな女の子が、ガラの悪い船員のような男達と揉めている。


「どうして、チムチムの杖がない。あれ、大事なもの。無くす、困る」


 たどたどしく語る女の子は何かを探しているようだった。


「だから俺らじゃわからねえって言っているんだよ。何度言ったらわかるぅ?」


 船員は皆どこか人相が悪く、それで居てニヤニヤと笑っていた。


「あの杖、この世に二つとない、ルビーを埋め込んだ、一品物。あれないと、チムチム、魔法使えない。困る」


 魔法使いの女の子は一生懸命に何かを懇願している。


「オラオラ、お前らもとっとと帰った帰った。当船はこの港にて終着。折り返しのために、俺らは準備が忙しいんだ。邪魔していないでとっとと帰れ」


 ガラの悪い船員達は、周囲の船客や野次馬達に散るように促す。


「チムチム、このまま帰る、だめ!」


 魔法使いの女の子は船員に掴みかかろうとしたが、突き飛ばされて尻餅をついた。女の子は割と露出度の高い格好で、太ももの辺りのタトゥーがあらわになった。

 周りの野次馬達は魔法使いの女の子に同情的な視線を向けながら、皆散り散りに去ってった。船員達も停泊中の船に戻って行った。


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