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エルルとの絆が+1された

「ありがとう。これ、貰っておくね」


 気に入ってもらえた様で良かったと思った。

 やがてテーブルの中央に大皿で様々な料理が並ぶ。


「ささっ、まずは料理を食べようか」


 俺は軽い照れくささをごまかせて良かった。本当に今日は冒険者ギルドでなくて良かったと思う。またいつものやたらとごつくいかつい先輩方に何か言われるかもしれなかったのだから。


「よう、雑用の兄ちゃんじゃねえか。HAHA!」


 安堵したのも束の間。ツーブロックヘアのマッスルな大男が笑いながら話しかけてきた。


「良いねぇ、冒険者たるもの、常々悔いの内容に生きること。豪勢な宴会は良好なパーティを築き上げる必要手段。グッドだぜ!」


 ツーブロックヘアの男はその場を立ち去った。よくよく考えると、冒険者ギルドに近いのだから、知り合いが歩いていてもおかしくなかった。


「あー、気の良い先輩率が高いギルドでよかった」


 俺はそんな風に思った。なんだかわからないがアドバイザー率が高い。

 料理を手に取りながら、俺は自分のことをエルルに話した。といっても、ハデスのことは伏せた。ハデスの名は俺の世界でも色々な扱いの名前だったのだから。こちらの世界でどのような立ち位置かわかるまでは伏せておこうと思う。


「すると、シシトウは異世界から来た人って事?」

「そういうこと。どうやって戻れるのかもわからない」


 尚、元の世界で自分がどうなったのかは伏せておいた。


「へぇ、初めて見た。向こう側の世界から来た人」


 彼女は興味深そうに俺の顔を見る。


「やっぱり俺みたいなのは珍しいのか?」

「聞いたこと無いからね。・・・あーでもそのことは黙っていた方がいいかも」

「なぜだ?」

「向こう側の世界の情報を知りたがるでしょ。とくに為政者が。今の時代はどうか知らないけど、情報としては希少だもの。場合によっては独占しようと幽閉されるかも」


 そこまでは思い至らなかった。


「そこまでするのか?」

「そういう人も居るかもって言う事。政治の場は一枚岩じゃないから、様々な思惑で人は動く。特に異世界見聞録・紀行録とかは王家に献上されることもあるくらい。あなたの世界でもなかった?」


 俺は何とか思い出そうとした。大航海時代に色々あった話ぐらいしか思い出せなかった。


「・・・あったかもなぁ」

「そう言う事だから、基本的には人には話さない方がいいってこと」

「わかった。この件はそうする」

「・・・そうするとシシトウはこの世界のことはほとんどわからない?」

「そういうこと。俺にこの世界の常識とか問われてもわからないからな!」

「あー、似た境遇の者同士なわけね。これは苦労しそうだわ」


 エルルがふーっとため息をついた。


「それ、俺がずっと抱えていた悩みな」

「お互い様! ・・・そうすると、私も過去の時代の人間だって事は伏せておいた方がいい話なんだ」

 ふと、エルルが真顔になった。

「ん、・・・あー、そうなるな。俺と同じ理由で」

「さすがに自分の置かれた状況は楽観していたわ。だけど気をつけようね」


 エルルが慌てて周囲を見回した。自分達の話しを聞かれていないか気にしたようだ。だが杞憂だった。料理屋での喧騒の中、どこの誰とも知れない者達の会話に聞き耳を立てているものは居なかった。


「そうなんだ。ところで、シシトウは古代語で話しているの?」

「えっ?」


 考えた事もなかった。周りの人達は俺達の会話を全く意識していない。

「大丈夫みたいだ。俺達の言葉をわかるやつはいなさそう」

「シシトウ、実は博学なのね。・・・で、シシトウはこれからどうするわけ?」


 俺は目的が無いことに気がついた。


「イヤー、特に無いかなぁ」


 ふと、ハデスの言葉を思い出した。あいつを退屈させないとは何をすればよいのか。


「しいてあげれば、生活費を稼ぐこと?」

「なんか現実的ーな目標ね」

「え? 現状を考えると、そうなるだろう」

「なるなる」


 エルルはあっさり肯定した。


「だからシシトウが最初に優先しようとしたことを理解した。右も左もわからない状態で、同じく右も左もわからない私を連れて優先したこと。すなわち生活基盤の確保」

「お、正解! よくわかったな!」

「目的がはっきりしている人の行動は理解できるもの。で、あのワンちゃんはその一環で?」

「そういうこと。俺の世界での逸話を思い出してさ。薬草を犬の嗅覚で探せないかなと」

「なるほどー。動機は理解しているから何も言わないけど、犬で薬草探しってすごい発想ね」

「そうかな? いやーバウエルが思っていた以上に賢い犬でよかったよ」


 俺は後でバウエルにもっと豪華な生肉でも買ってやろうと思った。


「なんにしてもさ、バウエルともどもよろしくな」


 俺はテーブルの上で、エルルと固く握手した。

 前途は多難かもしれないが、きっと上手くやれる、俺はそんな風に考えていた。


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