戦果
いきなり戦闘が始まった。俺は初めての実戦であり、初めてのパーティ戦でもある。そしていきなり判明した。そう、アタッカー不在のパーティと言う問題が。
「雑用、怪我をしても私が回復する。さぁ、突撃よ!」
エルルがワンドを片手に、びしっと敵を指差し突撃指令。
「それ、怪我しても痛いのは痛いんだろ?」
俺は流石にためらう。
「大丈夫、どんな大怪我もたちどころに治して見せる!この大神官を信じなさーい!」
大怪我前提の話をされても困る。…俺はふと入り口の狩人から学んだスキルを思い出した。弓と矢がある。俺はおもむろに矢筒から矢を取り出し、弓に番える。
「閃いた! これなら距離をとって戦える!」
俺は矢を放った。初めて撃った矢は狙い違わずうごめく植物の幹に突き刺さる。
「よし、これならいける! あいつは植物だ。その場からは動けないだろう」
「あ、ほんとだ! 頑張れ雑用!」
二本、三本と矢を放つと、草はやがてくたりとうなだれて動かなくなった。
Victory! Result 「伸縮性の高い蔓×3」
初勝利。もしかしたらぎりぎり無害な魔物だったかもしれない。相手の名前がわからないのだから判断しようが無い。戦利品として、ゴムのように伸び縮みする蔓を何本か刈り取った。
「あー、これは服の腰紐とかに良く使われる材質の紐だ」
エルルが俺の手にある蔓を覗き込む。
「ん、これって生活用品になるのか?」
それなら店で売れそうだ。後ほど店で鑑定してもらおうと、背負い袋の中に仕舞いこんだ。
「ともあれ、何事も無くてよかったね」
「弓の扱いを習っておいてよかったな。そうじゃなきゃやばかった」
俺は矢を回収しながらエルルに応えた。
「油断していたわけじゃないけど、ここは町中じゃないんだし、気をつけて進みましょうか。危険な植物はいるようだから」
「道端に採取対象の薬草があるかもしれないし、な。だいぶ歩いた気がしたけど、この森ってそんな広かったっけ?」
「そんなに広くは無いから、そろそろどこかしらに自生している薬草があってもいいはず」
俺達は辺りを探し回る。俺は背負い袋から採取対象の薬草の残り(食材)を取り出した。
「こんなの、一見するとただの草だからわからないよな」
「んー、なんだろ。あちらの方角は色とりどりの怪しげな花が咲いてる」
エルルが指出した方角はただの茂みではなかった。…なにか甘い香りがしている。
「薬草はあんな花は付いていないだろう…お、花畑の先にあるのって、この薬草じゃないか?」
赤や紫の花々の先に生えているのは、紛れも無く探している薬草だった。俺は薬草の方角へと踏み込んだ。
「しかしすごい香りだな。…うぐぅ!?」
自分の腰ぐらいはある花々を押し分けて進もうとしたら、とたんに体がしびれ始めた。
「なんか、くらくらする…」
俺は動けなくなってその場にうつぶせに倒れた。だんだん呼吸が浅くなる。
「うっ、この花、もしかして猛毒?」
エルルがあからさまに嫌そうな表情で辺りの花々を見た。
「あのー、すみません。助けてください…」
俺は脚をずるずると引っ張ってもらい、花畑から助けられた。
「この程度の毒なら…キュアポイズン!」
エルルがワンドを振りかざすと、たちまち俺は体の不調が治った。
「あー助かった、ありがとうございます。エルル様」
「私にかかればこんなことぐらい・・・もっと私を崇めなさい、讃えなさい!」
エルルが腰に手を当て、得意げな表情をしている。んー、まぁいいか。
体の調子が完全に治るまで休息して考えたが、どうしても毒草が邪魔になった。
「さて、どうやってあそこの薬草を採ろうか」
「んー、私が解毒するから、あなたは突撃?」
疑問系での提案なだけ、遠慮と言うものは感じられたが…。
「無理無理無理無理! 10秒で体に不調が出たから!」
全力で辞退する作戦だった。
「たぶんあれ、あんな場所に生えているから町のほかの人達は迂回していたんじゃないかな。そうでなければ、あんな大量に群生している薬草を放置しないよね」
エルルが毒草の先の薬草を見ながら、そんなことを呟いた。
「もしかしたら、採取が簡単な場所では中々見つからないか」
「そう言う事。だから、逆に言えばあれはチャンス」
俺はしばし考える。花々に直接触れたらだめなようだ。休息中も甘い香りはしていたが、特に体への変化は無い。ならば…。
「木の枝で毒草を押し倒していこう。触れなければ大丈夫なようだから」
「じゃ、私はここで待機しているね。毒にやられたら救助するから」
「あー、やっぱそうなります?」
…俺はエルルが離れて待機している間、延々と毒草を木の棒で押しのけて道を作った。時折毒にやられては解毒してもらうの繰り返し。中々に大変なルーチンの作業だが、時間をかければ道を作れた。
3時間後…、ようやく道を切り開いた。
「これで簡単なクエストか…重労働だった…」
背負い袋に入れてきた採取用の皮袋を取り出す。自生していた薬草を採取するのもまた重労働だった。薬草採取自体が肉体労働だったなんて、やってみるまでわからなかった。
帰り道はもと来た道を引き返すだけなので楽だった。町に辿り着き道具屋へ駆け込んだ。薬草キロ単価千Gなり。伸縮性の高い蔓、一本20G。
Quest Clear!! Result.
・3千60G獲得
「なぁ、エルル。俺、鉱山で働きたい」
それが俺のクエスト後の感想だった。なるほど、町の主力産業になるだけのことはあるんだな、と。
俺は一週間分の食い扶持を得られた安堵をしながら、宿への帰路を歩く。
明日はどうしようか。そんなことを考える余裕が出てきたの、は夕飯の後になってだった。