第8話 海賊狩り
今日もいい天気だ。宇宙に天気も糞もあるものか、たまーに起きる磁気嵐とかに巻き込まれると、レーダーやセンサー類が全部役立たずになるので、そういう日には出かけないようにしよう。ちなみに今日は晴れだ。海賊狩りにはもってこい。
さて、今俺は奇襲のためにデブリに隠れて狙撃体勢を取って、機会をうかがっている。こそこそとしてネズミみたいだって? それはいい、だって俺の仕事だし。怖いのは相手にバレていないかだ。狙撃するつもりが、逆にこっちが狙撃されたなんて話はちょいと笑えない。俺が死んだら娘は誰が育てるのか。エクスカリバーか。
「なあ、まだ撃っちゃだめか?」
デブリの間に見える敵機へ照準を合わせながら、相棒に尋ねる。
『まだですね。合図を待って、同時攻撃しようという話でしたから』
「肝心の味方は? いい加減に配置についてもいい頃だろう」
『それは不明です。海賊のチャンネルに割り込んで通信を拾ってみますか? もしかしたらバレてやられてるかもしれません』
「ははは、そんな馬鹿な」
そんな馬鹿な、と思いたい。本当にそう思いたい。人数オーバーになるからとリリィを外したのは間違いだったな。
「まあ、やってみてくれ」
『了解……接続開始。完了。掴まってゲロちゃったみたいです。探し回ってますね』
「そんな馬鹿な」
『音声識別した結果、相手の数は、通信に接続しているのが六人。これが現実です』
「……依頼放り出して逃げてもいいか」
『問題が二つあります。まず一つ、無事に帰れるか。二つ、依頼放棄は傭兵としての信頼度を大きく落とします。今後の仕事に支障が出るでしょう。働かなくても食べていけるだけの貯金はありますけど』
こっちは一人、相手は六人。いつだって神なんて信じちゃいないが、仮に居るなら呪われろ馬鹿野郎。
「……生き残れるよう頑張るか」
『幸いこちらの居場所は割れていません。奇襲で何人か仕留めて撤退しましょう。依頼放棄にはならないはずです』
それだけで生き残れるなら苦労しない。運が味方してくれることを祈ろう……神様は敵だから、誰に祈ればいいんだか。自分の腕に。
「よし。ヤルか」
あれこれと考えてばかりいても何も変わらない。現状を打破するために行動するべきだ。全力を尽くして、それで駄目ならあきらめよう。そうしよう。
「火器ロック解除。ECM(電子妨害)起動」
位置取りは完璧。相手の死角となる頭上に陣取っている。奇襲にはもってこいだ。
『解除完了』
トリガーを引く。TLS(戦術レーザーシステム)照射。敵機の頭のてっぺんからケツまで一本穴が空いて沈黙。二人で固まっていた敵が一人になって、片割れは慌ててその場から離れていく。それを狙い撃つ、コアをぶちぬいた。
『冷却、再発射まで五秒』
熱源索敵されないかヒヤヒヤしつつ、それまで待機。残敵は四人。
残りをどうやって狩るかを考えている間に、冷却が完了。
『敵発見。マークします』
戦闘支援AIたるエクスカリバーの本領発揮だ。デブリはよく電波を反射する、そのままだとレーダー反応が多すぎてどれが敵だかわからないが、それを多様な情報から識別し、隠れている相手を見事見つけ出した。とりあえず一機マークアップしてくれたので、無慈悲に照射。これで三機目。残りは三人。
残りの敵位置は不明。相手から補足されているかどうかも不明。数の不利から下手に動けない。自分から位置を知らせるのは自殺行為だ。なら、下手に動くよりも待ちに徹した方がいい?
『レーダー波探知。位置がバレました』
「ECMの効果は?」
『効果なし。真っすぐこちらへ向かってきます。ECCM(対妨害装置)または戦闘支援AIを使用している可能性』
「それは困るな」
画面に移動する点が四つと、その他障害物を示す動かない点がたくさん。
「デコイとサテライト散布」
デコイを撒いて、機雷も撒いて。ひっかかてくれたらよし。引っかからなければ諦める。
もうすこし他のやり方を身に着けるべき頃合かもしれない。正面からの撃ち合いなんて、したくはないがしなくちゃならない時もあるんだし。というか今がその時だ。
光学迷彩、高いが買っておけばよかった。
「レーザーライフル冷却停止、パージ。五分後に自爆させる」
『よろしいのですか。高級品ですが』
「武器は金で買えるが、命は買えん」
武器は敵を殺すためのもの。何のために殺すかといえば、戦場で自分の身を守るためだ。
で、敵に狙われているこの状況下。レーザーライフルは発射直後で、比較的大きな熱源となっている。熱源を抱えてウロウロしするのは、せっかくまき散らしたデコイも意味がない。お盆にクリスマスの飾りを纏ってダンスするようなもんだ。大いに目立つ。
だから、釣り餌に使う。熱源にまっすぐ突撃するバカは機雷に食われて死ぬだろう。
「こっそり動くぞ。ゴミと誤認されるくらい、こっそりな」
足場にしていたデブリを軽く蹴ってゆっくり後退する。間違っても前進してはいけない。
前進すると美少女に群がる触手のように機雷が寄ってたかって、最終的に爆死する。
「もう一匹撃破。飛んで陽に入る宙の虫、か」
ちょうどデコイの反応と熱源に対し馬鹿正直に寄って来たアホが一人餌食になった。機体の手足にワイヤーが絡みついて、巻き取られた機雷が衝突、爆発。破片で周囲の機雷も誘爆し、その破片がまた他の機雷を巻き込んで誘爆……その中心にいる敵が生き残るのは不可能。
『無理にことわざにする必要はないかと』
「少しは感動に浸らせてくれ」
といってもそんな暇はない。機雷原に足を突っ込んだとわかれば相手の動きは極めて鈍る。そこを逃す手はない。
予備に持ってきた大型の実弾ライフルを構えて、予測射線と敵を重ねて、発射。反動は大型デブリに足をつけて殺す……敵は、頭が吹っ飛んであたふたしている。よしもう一発入れておこう。ズドン、と相手のコアに穴が空いて、そのまま爆散した。
「これで何人?」
「五人です」
「残り一人。いけるんじゃないか?」
『非推奨。相手の損害は大きく、今撤退すれば成功する可能性は高いです。しかし、こちらが殲滅の意志を示せばあちらも必死に抵抗するでしょう。増援を送られる可能性もあります』
エクスカリバーの言うとおりだ。欲張りの末路というのは相場が決まっている。
ここは退くべきだ。追って来るなら戦わなくちゃならんが……まあそれはその時考えよう。
「撤収しよう。全サテライト自爆」
『了解』
ばら撒いていた機雷を自爆させて、進路を確保する。隠密のために切っていたブースターを点火すると、機体がグンと加速。
機雷にひるんだ残敵の近くをすり抜けて、そのままデブリ帯から脱出する。
『チェリー(高速機動ユニット)展開』
背負った大型ロケット、のようなものを手に持って、そのまましがみつくような体勢になる。
後ろから追ってはくるが、点火には間に合いそうだ。
『点火三秒前、二、一』
点火。機体はさらに加速する。
敵の反応をどんどん引き離して前進する。
本当は三人でやるところを、一人でこれだけの戦果を出せば、依頼主も満足してくれるだろう。満足してもらえなくても金はもらう。だって俺悪くないし。残り二人が馬鹿だったのが悪いんだし。