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宙の人  作者: からす
第二章 親子で傭兵業
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第7話 晴れ時々飯

「ごはんにしますか。お風呂にしますか。それとも……わ・た・し?」

「寒い冗談が言えるようになるとは。大した成長ぶりだな。エクスカリバー。まず飯だ」


 エプロン一枚のみを身に纏う美女。その中身は長年付きあっている自己学習型の人工知能の成れの果て。どうしてこうなった、という思いが湧いてしかたがない。ちなみにガワはソフトスキンの義体だ。ダッチワイフの代わりにも使える。買うとめっちゃ高いけど、そういう風には使ってない。

 長年付き合った相棒だぞ、勃つわけがない。


「失礼しました。二人分ご用意させていただいておりますので、どうぞお召し上がりください」

「メニューは。鶏肉のハーブ焼き、キャベツのスープ、ハゲットのチーズ乗せ。あとは付け合わせが何品かございます」

「贅沢だな。本物の肉なんて久々だ」

「正確に言うなら、鶏肉風培養肉です」

「期待させてそれか」

「味がわかるほど普段いいもの食べてないでしょ」

「……まぁ、そうだな」


 義理の娘からの指摘がぐさりと刺さる。「仕事道具を買うのに金はケチるな。ただし他のところは存分にケチれ」この仕事を始めた時に、今は亡き先輩から教えられた言葉だ。結果、我が家の食卓には安価な合成食品が多く並ぶことになっている。

 義理の娘は五年前までは所謂上流階級の家庭で過ごしていたからか、普段の食事がマズイマズイと不満を垂らしている。仕方ないだろう、貯金はあっても自由に使える金はそんなに多くないのだ。何かあったときには大金が吹っ飛ぶのだし。


「言い返さないんですか。ご主人様。惨めですね」

「お前はちょっと充電してこい」

「バッテリー残量は十分ですが、ご命令とあらば」


 エクスカリバーを追い払って、食卓に座る。会話はほぼない。年頃の女子、血のつながっていない娘と何を話せばいいのかもわからない。カチャカチャと食器のこすれる音だけが静寂を乱す。

 合成肉を切り分けているところで、ふと話のタネが浮かび上がってきた。一度手を止めて、目線を上げて娘を見つめる。

 一見しただけでは、普段と何ら変わらない。あまり美味しそうには食べていない。


「リリィ」


 リリィ。元の名前がリリアン・マイヤースだったので、縮めてリリィと名をつけた。本人も元から愛称でそう呼ばれていたらしい。可憐な花の名前は、彼女にぴたりとあっている。近々誕生日プレゼントに真っ赤な百合のエンブレムを贈ろうと思っているのは内緒だ。

 これからも彼女が戦い続けるのでなければ、無用のものとなるだろうが。


「……なに」

「お前は確か、今日が初めての戦闘だったな」


 一瞬こちらを向いて、何事もなかったようにまた料理を突きだす。あまり気のりはしないが、しかし聞かねばなるまい。


「遭遇した敵は有人機だった」


 ガレージで、彼女の口から、敵を撃墜したと、この耳で確かに聞いた。宇宙空間で敵を撃墜することの意味は、薬でトリップしてない限りわかるはずだ。


「この仕事を続ける限り、これから先何度だって同じことがある」


 宇宙港内での作業なら誰にでもできるし、五年前のテロのような例外が起きなければ、安全な仕事だ。その分給料も低いが。

 一方で、宇宙港の外での仕事、デブリの撤去や船の護衛は誰にでも、ということはない。一定以上の操縦技能……戦闘ができるレベルの人間でなければすぐに死ぬ。

 ただその分給料はいい。それに彼女の本当の父が残した遺産だって多く残っているし、余裕で一人くらい養える。


「無理に手伝わなくていい。学校に行きたいなら、行ってもいいんだぞ」


 今の時代、教育機関としての学校は形骸化して久しい。少し昔、脳と電子機器を安全に接続する技術の登場により、電子保存されたあらゆる知識が脳に直接叩き込めるようになった。

 おかげで何年も椅子に座り机にかじりついて勉強する、非効率極まる学習形態は時代遅れとなり、今では歴史の保存として僅かのみが経営されている。入学者は……ビジネスとして成り立つ程度にはいるらしい。


「五年前。罪のない人が何人目の前で死んだと思う?」


 それは他人がやったことだ。お前がやったことじゃない。と言ったところで、彼女の中ではハッキリとした答えが出ているのだろう。それはきっと揺るがない。

 無理にでも止めておけばよかったなぁ。もう遅いか。


「そうだな」

「そのために色々買ってもらったんだから、頑張らなくちゃ」


 浮かべた表情は、笑顔。取り繕っているようには見えないから、本心なのだろう。


「お前がそれでいいなら、それでいい」


 無理をされて死なれては、せっかくの投資が水の泡になる。それならいっそ、愛玩人形のように扱って使いつぶした方が遥かにマシだろう。体は既に成熟してきているのだ、そういう用途にも十分実用に耐える。彼女は求められれば受け入れるだろう。

もちろんそんなことをするつもりはない。そういうのはフェアな関係でするもんだ。


「心配しなくても大丈夫。悪党をぶっ殺せば、その分罪のない人が苦しまずに済むんだから。これは間違いなく、いいことだよ」

「そうか」

「あ、投資の返済方法は体でもいい? お義父さんには世話になってるし。いいよ?」

「馬鹿言うな。全くどこで教育を間違えたかね……」

ママ(エクスカリバー)がこうしたらいいって」

「おいポンコツ! フォーマットされたくないなら教育方針を修正しろ」


 奥で充電モードに入っている相棒に怒鳴って、ため息一つ。機械に情操教育を任せたのは失敗だったか? 流行りと聞いたんだが。


「ま、今日はゆっくり休め。次の仕事はまだ決まってないが、明日くるとも限らない」

「お父さんは?」

「お前の後に、シャワー浴びて寝る」

「うん、おやすみなさい」


 料理を食べ終えたら、汚れを軽く洗いで食器洗い機に放り込んで。デスクにどっしり座り込んで次の仕事を探す。ああ、子供を持つってのは大変だなぁ。全く面倒な仕事を押し付けられたもんだ。


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