第6話 ろくでなしと駆け出し傭兵
UTC:18:30 宇宙に昼夜はないので、時間というのは飯を食う時間、寝る時間の目安でしかない。
前に食ったのは、12時を過ぎたころだったので、そろそろ食ってもいい頃だろう。
カロリーフレンドと書かれたパッケージから合成食糧を引っ張り出して頬張る。もそもそとしていて、噛むたびにギュッギュと歯の間で固まる変な食感。味もあまり美味しくないが、こんなものでも栄養価は一級品なので、宇宙食の歴史の中で長く愛されている。俺は正直好きじゃない。
あの子がもう少し腕が立つようになれば、このマズイ飯がもう少しランクアップすることになる。節約しなくて済むからな、と。飯に口の中の水分が吸われてしまったので、水筒に手を伸ばす。
どうせ食べるなら、美味しい飯が食いたいなぁ……と、五年前にも思ったような。
『そっちへ三匹逃げ込んだよ』
パックを浮かべてストローで吸いながら、トリガーを握る。レーザーライフルの安全装置を解除。目標は未だ姿を見せない。だが僚機とのデータリンクのおかげで位置は常にわかるので、ゆっくりと機を待つことにする。
「デブリ帯だとやっぱり狙いにくいな」
さっきから機械の手足がチラチラとは見えているんだが、肝心のコアは遮蔽物の陰に隠れて見えない。あと少しずれてくれたらいいのに……まあいいか。たぶん抜けるだろう。
「マーク。よし」
胴体が隠れている位置をターゲットする。出力の設定値は最大、照射は五秒が安全圏内。それ以上の連続照射は帰投後に緊急メンテが必要になるので、原則禁止。と説明書には書いてあったので、それ以内に収まることを願う。
「発射」
レーザー故に反動はない。だが目標は赤熱し、穴を作る。その向こう側に居た海賊の機体にも同様に穴が空く。深い青色、空宙迷彩塗装の機体は間もなく宙を漂いだした。
一機撃破。すぐにもう一機に攻撃……することはできない。レーザーライフルには冷却時間がある。クールタイムを短縮して連発できるのだが、携帯用は小型だ。そのくせ高級品だから無理に使って壊しては赤字になってしまう。というわけで。
「サテライト散布」
安価な使い捨て機雷をばら撒いて、尻尾を巻いて逃げる。相手が考えなしの馬鹿なら網に真っすぐ突っ込んで自爆してくれるはず。
三秒後、後方サブカメラで爆発四散したのを確認した。どうやら考えなしの馬鹿だったらしい。しかし爆発は一個だけ、もう一匹は機雷ゾーンには突っ込まず、遠くからこちらに長い筒を向けている。ロックオンアラート、ミサイルだ、まずいと思ったら、発射されてしまった。着弾前にデコイを散布、加圧下から真空になり、急激に膨らんだアルミバルーンが射線を遮る。その後ろでブーストを最小限使ってデブリに身を隠す。
ミサイルが着弾。破片でデコイバルーンがすべて割られた。敵の動きは……ランダム。こちらを見失って探している状態か。レーザーライフルの冷却が終わったし、デブリの影から影へ。相手の死角に潜るように移動して、狙いどきを探す。
「よし獲った」
敵の進路にレーザーを置くように発射。命中。豆腐をピンと張ったワイヤーに落としたように、敵機体は二つに別れた後爆散した。
「他に敵は?」
『一機……撃墜! これで全部!』
「損害報告」
『被弾なし! 損傷なし!』
「よし。帰るぞ」
僚機の損耗なし。大変嬉しい返事を聞き遂げたら、機雷の自爆コードを入力して帰路につく。捨てたゴミはちゃんと処分しましょう、誰かがうっかり引っかかって爆死したら怒られるからな。
――第四十五番宇宙港。つい先月、民間に開放されたばかりの宇宙における人類の生活拠点。マンションと宇宙開拓の最前線基地を兼ねている。
辺境ではあるが、資材の出入りは非常に多い。そのため輸送艦を狙い、資材をかすめ取ろうと企む輩が大勢湧いてくる。それらをまとめて海賊と呼ぶ。そんな奴らから航行の安全を守るためにパトロールし、見つけ次第叩いて潰すのが、俺たちの仕事だ。ちなみに潰したらボーナスが出る。
今日も一仕事終えて、ドックに二機そろって帰還する。使い込まれた煤まみれ、傷まみれの機体と。まだ使い込まれた感の薄い、かといって新品と言うには薄汚れている機体だ。前者が俺の。後者が……
「パトロールだけのつもりだったが、思わぬボーナスが入ったな」
「今日のご飯は少し贅沢にしようよ」
「そうだな」
ヘルメットを脱いで、コックピットから降りた。もう一機からも片目に義眼をインプラントした少女が下りてきて隣に浮かぶ。
「ところで、お前何機落とした?」
「二機。譲ってあげたの。感謝してよ」
「やっぱ手を抜いてたか。俺ももう歳なんだから楽させてくれ、というか引退させてくれ。もう一人でやっていけんだろ」
「人の遺産で抗老化手術受けといて何言ってんの」
「失礼な。手術に使ったのは自分で稼いだ金だ」
コイツを預かってから五年。訓練を初めて三年。そして初の実戦投入。今日の動きを見るに、もう少し実践に慣れさせれば、独り立ちしても十分にやっていける。投資の成果が出たと思うと感慨深いと同時に、こうなる前に止められなかったことに心が痛む。
「本当は娘にこんな物騒な仕事をさせるべきじゃないんだけどなぁ……」
血のつながりもないし、押し付けられた役割ではあるが、社会的には親と子の関係なのだ。本当は学校に通わせて、当たり前の青春を送らせてやるべきなのだ……が。
「いい。私が自分から手伝いがしたいって希望したんだから」
本人がそれを望まない。
どぎつい訓練でしごき倒して何度も泣かせて。義眼を介し脳と機体をリンクさせる実験で喉から血が出るほどゲロを吐かせて。中古のシェルを買い与えて、実戦形式の訓練で障害物に叩きつけたり模擬弾当てたりして嘔吐&失禁&失神のコンボを何度も経験させて。
これを一般的に虐待と呼ぶ。そうまでして諦めさせようとしたのに、なぜか諦めないので仕方なく投資したということにしている。一体こいつの不屈の精神はどこから湧いてくるのか。
「じゃあもう少し働け」
「それは嫌。私はお父さんが頑張ってる姿が好きだから。楽はさせたくないの」
「お前を育てるだけで十分苦労してるよ」
まあ、それはともかく。今日の飯は何にしようか。やはり贅沢に、合成じゃない肉でも……いかんな。あぶく銭が入るとすぐに使いたくなるのは悪い癖だ。合成肉も本物も、味はそう大きく変わらないだろう。
「もう一台くらい義体を買ったら?」
「お前の義眼とシェルで結構持っていかれたからな。余裕はあんまりない」
「ひどい、余裕がないのは父さんの金遣いが荒いせいでしょ。私のせいにしないで」
「嘘は言ってない。お前への投資総額聞いてみるか? 多分ひっくり返るぞ」
比較的新型の多目的宇宙服と、保険適用外の戦闘用義眼と。両者をつなぐための調整と。食費やその他雑支出。子供一人を育てることがどれだけ大変かを、独身なのに痛いほど理解できた……多分まっとうに育てるなら二人。節約すれば三人は育てられるだけの金額だったのだが。
まあ、溶かした分はこれから回収してくれるだろう……娘を戦わせるのは全く不本意だが、彼女がそうしたいと言うのだから、そうさせよう。