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宙の人  作者: からす
第二章 親子で傭兵業
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第19話 ろくでなしの友

 前回は傭兵の損なところを一つ言い忘れていた。それも、一番デカイヤツだ。あまりに当たり前すぎて忘れていたが、傭兵ってのはぶっ殺して金をもらう最低な仕事だ。ぶっ殺した奴がいくら悪党でも、家族か親戚か友人か恋人か……まあ一人くらいは縁がある。完全に誰とも縁が繋がっていない奴は珍しい。

縁が繋がっていれば、死人に思うこともあるだろう。自業自得だと理解してくれる賢い人ばかりなら苦労しないのだが、残念ながら世の中そうでもなく。傭兵への逆恨みによる報復ということも、稀ではあるがなくはない。長くやっていれば一度や二度は経験する。実際これが逆恨みによるものだとすれば、なんと三度目となる。


「とはいえ。あそこまでガチの手口は初めてだな」


 出力を強化して、三原則の一、『人間に危害を加えてはならない』を解除したアンドロイドに病室を襲撃させ、失敗したら爆弾を起爆。高価なアンドロイドのハード、ソフト両方に改造を施して、それを使い捨て……これまで見聞きしたどの案件とも異なる。復讐を考える馬鹿がそんな大金と技術の必要な手口を選ぶとは考えられない。


「……あっ(察し)」

「どうされました」


 港に停泊させている自宅で、ようやく答えに気付いた。やはりゆっくり


「襲撃犯のアタリがついた」

「聞かせていただいても」

「前回の襲撃犯とモトが同じ」

「なるほど興味深い。ところでご主人様、二度あることは三度ある、という言葉をご存知ですか」

「もちろん知ってる。港を出よう。場所が割れてたら次が来る」

「オイオイ、今度はどこへ行くんだ」

「ここ以外のどこか。ゲイリーも来るか?」

「いいや。残念だが、その予定はキャンセルしてもらおうか」

「……なんだって?」


 出航のためのコンソールを開く手を止め、椅子ごと後ろを向く。

 親友と思っていた相手に銃を向けられていた。


「両手を上げろ。エクスカリバーもシャットダウンしろ。三秒以内にやらないと頭に穴が空くぞ」

「エクスカリバー、シャットダウン。十分後に再起動」

「了解しました」

「……それで、どういうことだ?」


 言われた通り、手を挙げて。ついでに足も組んで。状況は明らかに最悪、腹立たしいので態度を隠さずに全身から発する。


「ついさっき、お前の名前が討伐名簿に載った」

「なるほど。これが次の手か。動きが速いことで……一応罪状を聞かせてもらおうかな?」

「盗品の売買と殺人」

「おいおい。この業界なら誰でもやってることだろう? それとも袖の下が足りなかったか?」

「バッチリ既定の割合を収めてたな。毎度毎度、しっかり守る奴は珍しい」

「背中から撃たない理由は? どうせ生死問わずなんだろ」


 組んだ足を下ろして、頭の後ろで手を組んで。背もたれに体重を預ける。


「まあそうだが。親友がワケもわからずに死ぬのもかわいそうだと思ってな」

「ベッドの上じゃ死ねないと思ってたが、戦場でも病室でもなく、まさか金に目がくらんだ友人に殺されるとは。こんなジョークがあるとはなぁ……」

「バックアップは万全か?」

「毎朝取ってるよ。殺すならそっちも壊しとけよ」

「いや、バックアップは壊さない」


 ……なるほどそういうこと。こいつなりの友人への思いやりか。


「それで遺言はあるか?」

「じゃあ三つ」

「欲張りだな」

「命と引き換えなら安いだろ。一つ。バックアップ用ボディの代金はクッソ高いんだからな、後で払えよ」

「嫌と言ったら?」

「分割払いも可。二つ目。やるならシャワールームで頼む。三つ目、後の掃除はキッチリやれ」

「オーケー。じゃあおやすみ」


 その後はシャワールームまで連れていかれて、銃声。痛みはなかった。銃弾が、頭にめり込んで。弾けて、消えた。





 バチィ、と電気ショックで強制的に目覚めを与えられる。


「……さむっ」


 冷凍庫に裸で放り込まれた気分。いや実際裸だし、周りからは冷気が皮膚を突き刺すし。なんでこんなとこに?


「おはようございますご主人様」


 エクスカリバーにホットタオルをかけられて、それに包まって暖を取る。あったかい……生き返る……


「バックアップが正常に稼働しているかどうかのチェックをさせていただきます」

「……バックアップ?」


 こめかみを揉んで、記憶を掘り出す。最後の記憶は……病室から逃げ出して、自宅に戻って。そこが最後。そこから先で何かあった。


「いくつか質問をさせていただきます。まず、あなたの名前は」

「カール・バーナード。娘の名前はリリィ。お前の名前はエクスカリバー。仕事は傭兵で年齢不詳のイケオジだ」

「調子は良好ですね。安心しました。では最期の状況をお伝えします、討伐名簿にご主人様の名前が乗ったため、ご友人であるゲイリー氏がご主人様を射殺しました。ちなみに彼は現在遺言に従いシャワールームを掃除中です」

「オッケーありがとう。ちょっとシャワー浴びて体あっためるついでにアイツぶっ殺してくる」

「私もそれを推奨します」


 冷凍保存ポットから出て、床に立つ。記憶の肉体と実際の肉体の差のせいで少しふらつく。慣れたらマシになることを期待しつつ、シャワールームに向かう。中からザァザァと水滴の落ちる音がするので、中に居るのは間違いない。


「ようクソ野郎! さっきはよくもやってくれたなぶっ殺してやる!」


 シャワールームの扉を開いて中へ突入。血をブラシでこすり落としている糞野郎を右手でぶん殴る。


 ぺちん。


「……えい!」


 ぺちん。ぺちん。悲しいことに、鬱陶しそうな顔をされただけだった。こう、「ドゴォ!」って殴ったら「バーン!」って壁に吹っ飛んで、そのまま死ぬまでデンプシーロールするつもりだったのに、やりたいことに体がついていかない。やべえ、恥ずかしくて死にたい。


「あー、起きたか。すまんかった」

「悪いと思うなら今すぐ死ね。死んで詫びろ。宇宙空間に生身で身投げして真空で窒息死しろ」

「謝ったんだから許せよ」

「ごめんで済むなら傭兵の仕事はねえんだよバーカ! くそが、ブラシすら重い! どんだけ貧弱なんだこの体はよぉ! 大金払ってバックアップがこれかよ畜生め!」

「元気そうで何よりだ……」

「エクスカリバー、こいつを殴れ!」

「できません。このボディには三原則でロックがかかっています」

「役立たず!」

「お義父さーん!!」


 カオスな状況にさらに拍車をかけるべく、四人目が乱入してくる。声に反応して振り返ると、かわいいかわいい我が娘が、開けたままの扉から勢いよく飛び込んできた。受け止め……いやこの体じゃ無理。

 最初から避ける判断をしていれば間に合ったが、一度受け止める体勢を取ってそこからじゃもう無理。大質量の衝突に耐えられず、あえなく浴室の床に背中からダイブする。めっちゃ痛い。


「ごふっ」

「生きてた! 生き返ってくれた! よかった!! ホントによかった!!」

「うれしいのはわかったからちょっと退いて……重……しぬ……」


 貧弱すぎる体は、骨折こそしなかったものの、娘の体重を押しのけることすら叶わなかった。マジで重い。


「ごめんなさい……」

「あと今俺全裸だからな! 離れろ、頼むから……」


 20歳くらいのボディだからな! リリィとは年の離れた兄弟あるいは恋人に見えないこともないが、中身は俺のままだから。30をとっくに過ぎたオッサンだからな、くっつかれるとひどい誤解を招く。

 あとエクスカリバーが見てる。


「しかしいいところに来た。ちょっとこいつ殴っといて。100発ほど」

「え、いいの?」

「もちろん。俺が服を着てくるまでボコボコにしといて」

「ちょっと待てよ!? 俺何か悪いことした!? ……したわ」


 わかってるならいい。おとなしく殴られて死ね。


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