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宙の人  作者: からす
第二章 親子で傭兵業
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第17話 ゲイリーお兄さんのスパルタ教育

「さて、リリィちゃん。悪いけどおぢさんは君のお父さんみたいに優しくない。スパルタでいくけど恨まないでね。恨むなら自分の未熟さと、選択だ」


 今日の出撃はリリィちゃん一人。彼女の選択は、傭兵家業を続けるというもので。それならば、と色々聞いたのだが。これまで完全に一人で出撃、というのは経験したことがないようで。今日は初めての単独出撃だ。

やはり親というのは血がつながっていなくても甘やかしてしまうものなのだろうな。


「もし君が撃墜されても助けない。手助けもしない。本来傭兵というのはそういうものだ」

『ハイ』

「それから一つ助言だ。万一、撃墜されて生き残って、敵に捕まりそうになったら。その時は自分で頭を撃って死ぬことだ」

『……ハイ』


 彼女は賢くはないが、馬鹿ではないと聞いている。海賊の殲滅に失敗して捕まったらどうなるかなんて、言わなくてもわかるだろう。


「もし怖くて自分で死ねないって時には、言ってくれたら介錯してあげよう」


 それが精いっぱいのやさしさだ。


「……お世話になることがないよう、気を付けます」

「オーケー。じゃあ行ってらっしゃい」


 俺が知る限りでは、カールは派手な戦果こそないが、経験だけなら傭兵連中の中で上位に入る。運だけで生き残れるほど甘い世界ではないだけに、経験=実力で結ばれる。単純な腕だけでなく、判断力、思考、いろいろなものをひっくるめ、実力があると評価する。

 そんなアイツが金と時間を費やして育てたのなら、相応の腕があってもいいはず。しかし前回の戦いを見る限りでは、正直期待外れもいいところだ。あの程度の無人機相手に逃げ回るのが精いっぱいとは。

 アイツは「足りないのは経験」と言っていたが、果たしてそれだけか? 純粋に適性がないのではないか?

 疑問を抱きながらも、敵の海賊が潜むアステロイドベルトへ向かう少女の機体を見送る。


「エクスカリバー。データ同期開始」


 友から借りたAIで、彼女の機体の全データを受信する。今回のミッションを通し問題を炙りだして、終わった後に生きていれば指摘する。死んでも自分の選んだ道だ。後悔はしないだろう。


…………


 岩の隙間を飛ぶ。機体の全方位の映像が義眼から視神経を通して脳へと入力される……小惑星に仕掛けられたタレットの反応範囲を避けて。隙間を埋めるように設置されたサテライトのワイヤーの隙間を潜って、ゆっくりと奥へと進む。

 海賊は自分たちの道を最低二本用意している。正面入り口と、裏の非常口。その道を通れば早く目的地に着くけど、そんなことは馬鹿でもやらない。

正面から玄関をノックして、「こんにちは。いい天気ですね、今日はあなた方を殺しに来ました」なんて言う殺し屋がどこに居るんだか。

 だからこうして警戒網を潜ってコッソリ侵入する。


「見えました」


 敵の数は五。先日の戦いを思えば、この数相手に単独で挑みたくはない。追い回されて、背中を狙われる恐怖。ゾっとする。でも、行かないことには仕事は果たせない。私は、役立たずと言われたくはない。


「……一人でやるんですよね」

『そうだ。やれ』


 スパルタ、という言葉に嘘はない。ゲイリーさんの機体はアステロイドベルトの外から全く動かない。当然、支援はしてくれない。


『リリィ様。引き返すなら今しかありませんよ』

『ただしそれは引退宣言と取らせてもらう』

「……」


 引退……私がこの道を選んだ理由は二つある。

 一つは、私の命を拾ってくれたお義父さんの役に立ちたい。恩を返したいと思ったから。

 もう一つは、罪のない人を傷つけて儲ける悪党が許せないから。あの日、多くの罪のない人が死んだ。私のお父さんも。悪党を殺せば、私のような心に傷を負う人がそれだけ減るのだから。

 でも、自分が死ぬのはすごく怖い……なんてワガママだろう。私は子供だ。でも、ワガママは、子供の特権だ。Muzukasiikotohakangaenai


「私、行くよ!」


 お義父さんの役に立ちたい。悪い奴らをぶっ倒して、人を助けて、お義父さんに褒められたい。

 そのためには、こんなところで立ち止まってちゃダメなんだ。



迷いを振り切って、突撃。固まっているところ飛び込みへショットガンを浴びせる。近距離から放たれた粘着榴弾の粒が張り付いて、炸裂。一つ一つの威力は小さいけれど、大量に浴びればその衝撃は巨大なものとなって、機体を破壊する。目を離して、あらかじめ狙いをつけておいた次へ反転、撃つ。

 上下左右、360度全周が私の視界。


 残る三機が戦利品らしき物資を投げ捨てて動き出す。


『テメエ何者だ!』


 無線が入る。無視して一番手近にいる敵へ向かう。正面と上下、挟み込むように敵が散開し始めた。

 正面に居るのは散弾、上下はマシンガン。いずれも厄介な武器だけど、直撃しなければ一発二発で動けなくなるようなモノではない。頑張って避ける。


 正面からの散弾が円状に広がって襲い来る。上下からも回避を制限するためにわざとバラけた射撃と、自機を狙う二種類の弾幕が押し寄せる。銃口の角度から射撃の予測線が表示され、サーチライトのように線が私を追う。

 その中からエクスカリバーが回避のためのルートを表示してくれ、それに沿って前進、下降、ロール、減速加速。接敵。

 逃げ始めた敵の進路を呼んで、足を止める一射、仕留める一射の計二発。着弾確認、撃破。

 後ろから迫る弾を、機体を上下に振って避ける。

 五人中三人を一息で食えたのは大きい。被弾もしてないし、相手の数の利を大きく削れた……これなら……


『コントロールもらいます』

「!?」


 衝撃、機体から警告。脚部破損、機動力低下などの情報が脳に直接送り込まれる。

 機体方向で示すなら、後方斜め下。全天を見通す視界の中に、新たな熱源が一つ現れた。

 大型の砲を構えた敵。見つからないように巧妙に偽装していた。

 ……驚きよりも、怒りが勝った。隠れて不意打ちを当ててきた卑怯な敵にではなく。油断して危うく撃墜されるところだった、自分の愚かさに。

 でもそれを抑え込む。第二射の狙いを付けさせないために、その方向へショットガンを連打。次をもらったら撃墜される。


「サテライト散布、ジャマー起動! 逃げるよエクスカリバー!」

『了解です』


 背負った大型ロケットを点火。強烈な加速に歯を食いしばって耐え、海賊の通路を使い、背中に何発か受けながらも戦闘宙域からの離脱に成功した。




「赤点!」

「しゅーん……」


 母艦であるマイホームに帰り着くと、さっそくお説教です。戦いで疲れているのにこれは辛い。でも仕方ない。自分の未熟さが招いた結果なのだし。ちなみに追撃してきた三機はトーマスさんが仕留めてくれました。


「戦場で気を緩めるなんてどんだけ初心者なの。死にたいの? なあ死にたいの? 回避が間に合ったのは運がよかったけど、伏兵なんてよく気を付けてりゃわかんだろ。お前の義眼は意味あんの? ファッションなの? どう見ても相手格下だったし、親父なら軽く全滅させてたぞ。ホントにアイツに鍛えてもらった? 鍛えてもらってそれならお前向いてないからやめたら?」


 ……お説教というか。延々呆れからの罵倒です。辛いです。泣きそう。


「だが一つだけ褒めるところがある」

「……ふぇ?」

「引き際の見極めはよかった。よく動揺を抑え込んで退却の判断を下した。脅威度から抑え込むべき相手を判断して反撃し、第二射を封じた。それだけは褒めてやる」

「あ、ありがとうございます」

「だが俺やお前の親父なら最初の一発で仕留めてた。相手の腕が悪くてよかったな」


 ……運がよかった。そう、助かったのは、運がよかったから。でも幸運は何度も微笑んではくれない。今回限り。


「ま、向いてる向いてないは訓練でどうにかなる。生き残れたなら反省して次に同じ手を食わないために努力しろ」

「はい……」


 自分の甘さを痛感させられた。せっかくの体を活かしきれていないことが悔しくて歯噛みする。でも、この悔しさも命あってこそのもの。幸い私にはまだ次がある。それには感謝しなくては。


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