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宙の人  作者: からす
第二章 親子で傭兵業
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第16話 入院

 痛みとは防御反応である。というのは、知識として知っている。痛みとは、まだ生きている証だと考えれば、そう悪い気はしない。


 そんなわけがない。


「フーッ……フーッ……」


 耐えがたい痛みは、時として命を奪う選択に走らせる。防御反応のくせに本末転倒、なんという欠陥システムだ。

 その欠陥を補うために、人類は膨大なリソースをつぎ込んできた。その集大成によって、多くの人が救われてきた。そして、俺もたった今救われている。

 痛まないところがない、全身に焼けた針を刺され続けるような苦しみから、ほんのわずかな時間で解き放たれた。

 怪我がなくなったわけではないので無茶はできないんだが……輸送艦の医療班の診断では、少しの間絶対安静だ。


「お疲れさん。あんなバケモノじみた動きする奴によく勝ったもんだ」

「……遊ばれてたよ。だが……相手が本気なら、勝てなかった」

「遊び? 回収した機体は無人機だったぞ……そんな無駄なことをするもんか?」

「動きを読まれた上で、トレースされてた」


 麻酔で靄のかかった思考でもはっきりわかる。そして記憶は鮮烈に思い出せる。あれは遊びだ。遊びでなければ何だというのか。勝ちを拾えたのは幸運だった。


「……お前ほどのやつが、か」

「俺もまだまだだと思い知らされたよ」

「しかし妙な話だ。通信記録を見たが、あれが有人機でなけりゃ……エクスカリバーみたいなAI搭載機だな。まだ実験段階と聞いていたが」

『開発会社を調べたいところなのですが、データが物理的に破損しています。おそらく情報漏洩防止のための措置かと』

「回収した機体には、ロゴも何にも描いてねえ。どこ産だかわかんねえな。どこの企業の型でもない」


 それは残念だ。製造企業調べて警察に突き出してやろうと思ってたのに。


「命があるだけマシと思えよ」

「そうだな……」


 あれだけの猛者を相手にして生き残れたのは。しかし、無人機なら、動きを学習してくるはず。今回の敵を退けたからには、また襲いに来る可能性は高い。一度勝利を収めたなら評価も上方修正されているはず。次は本気で来るだろう……果たして、再会したときに勝てるだろうか。


「それと、リリィちゃんが心配してたぞ」

「……そうだ。リリィは無事か?」

「戦闘負荷に耐えかねて寝てる」


 軟弱な、とは言うまい。傭兵とはいえ、まだ子供なのだし。


「鍛えが足りないんじゃないのか」

「足りないのは鍛えじゃなくて、経験だろう」


 必要な能力は与えた。戦闘の負荷も、実機を用いた訓練中は耐えていた。考えられる理由としてはPTSD。殺すことは頭にあったが、逆に殺されることは考えてなかったんだろう。

これまでの実戦は格下ばかりだったから、初めて追い込まれて、ストレスが許容量を超えた。


「起きたら話をする必要があるな」


 これを機に、もう戦いたくないと言質を引き出せば……この生臭い仕事から抜け出せる。 顔はいいからアイドルとかやらせてみたら、受けるんじゃないだろうか。なんちゃって。


「もう親子そろって引退したら? お前もその怪我じゃ続投は厳しいだろうし、あの子もまだ若い。引き返せるうちに引き返させるべきじゃないか」


 友人の珍しく真剣な表情に、こちらもふさわしい態度で受け止める。


「あいつはともかく。俺はまだ引退しねえよ」

「まだ? じゃあいつまで続ける」

「連中が諦めるか、死ぬまで」


 放っておいてくれればこっちだって忘れるものを、わざわざ向こうから掘り返しに来るんだ。それならやり返すしかないだろう。ついでに過去の恨みも晴らせて一石二鳥だ。


「正義の味方気取りか?」

「悪党をぶっ殺して回って弱い人たちを助ける。子供のころはそんなのに憧れたねえ。残念ながら、これはただの私怨だよ」

「企業相手に個人が勝てるとでも」

「別にそこまでは考えてない。何らかの形でケジメを付けさせたいとは思ってる。でもまずはケガの治療に専念だな」


 再生加速療法によって、重傷を負っていても部位欠損でなければ比較的素早く治療が終わる。それでも最低一か月は安静が必要。その間は無収入

それどころか入院&治療費で出費ばかりが嵩むというわけだ。他の仕事なら保険があるだろうが、傭兵なので生命保険には入れません。死亡率が高いからしょうがないね。


「リリィはどうするかな……」


 あいつは戦闘の負荷で寝込んでるだけで、ケガはしてない。それなら働ける。本人にその意思があるのなら。


「ゲイリー。もしあいつがまだ働きたいようなら、一時お前に預ける。鍛えてやってくれ。ただし手を出したら殺す」

「親ばかだねえ。しばらく見ないうちにすっかり父親の顔だ」

「父親か……恋人も居ないのにな」

「いっそリリィちゃんに頼んだら?」

「馬鹿言え。いくら歳が離れてると思ってる」

「いいじゃん歳の差婚。流行ってるよ」

「それでも無理だ」


 訓練中散々ゲロやら大小の失禁を処理してたからな。剥いたらきっと思い出して、勃つどころじゃないと思う。……なるほど、これが親の気持ちか(多分違う)


「ふーん。恋人の代わりに相棒じゃだめなの? ガワは美人だが」

「あ? 無理」

「傷つきますね」

「傷つく心なんてないだろ」

「その通り。ジョークです」

「お前の相棒はユーモアがあっていいなぁ。人格データコピーしてくれない?」

「やらんぞ」

「ケチー」


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