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宙の人  作者: からす
第二章 親子で傭兵業
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第15話 因縁のろくでなし(後編)

  あの日のことを思い出さない日は……ないこともないが。それでも忘れることは絶対にない。

 俺はいつも悪党をぶっ殺しちゃいるが、それは相手が糞野郎だから許されることであって、善良な市民を手にかけることはない。そんな善良な市民様の側から見れば、俺も、俺が殺してる連中もどんぐりの背比べだろうが、奴らと違って、無差別な襲撃を許さぬ最低限の良心と正義感は備えてる。

 で、許さないならどうするかって? もちろん。


「生かしちゃおけねえ」


 テロの片棒をかつがせてくれた礼をしてやる。死人のことはどうでもいい。汚名をおっ被せてくれたことだけは許さん。その一念で敵に向かう。


 敵もこちらに気付いたか、測距用レーザーが照射され、次いでロックオンアラートが鳴り。


『ミサイル発射。回避してください』

「対戦闘機用なら近接信管だ。破片を防げば問題ない」


 近くに撃破された味方機(デブリ)があったので、ワイヤーアンカー発射。手繰り寄せて盾にする。コックピットは潰れてるから、死んだか脱出したか。自分のせいで云々と、後で悩まずに済むのはありがたい。正面に構えて突撃を続行。

 数秒もせず着弾。盾にしていたデブリが穴だらけにされ、末端が細切れになり、破片が自機の装甲表面を叩く。しかし貫けてはこない。


「機体ダメージは」

『軽微です』


 関節への負担も思っていたより軽く済んだ。まだまだ余裕ありだぞ糞野郎。

 ミサイルへの礼と、果たし状の代わりに銃弾をプレゼント。照準アシストを受けた弾は敵に向かって一直線に飛翔し、よけられた。ああ、この距離で当たるとは思ってなかったとも。


「だからもう一丁行くぞ!」


 十分に速度が乗った状態で、ワイヤーを解いて、盾にしていたデブリを蹴り飛ばし、タンクに銃弾をぶち込む。目の前で爆発。そして細切れになり飛び散った機体は、こちらの被撃墜を装うと同時に、大粒の散弾として機能する。当たればただでは済まない、当然相手は避けるだろう。加害範囲から逃げ出す、その瞬間を撃ち落としてやる……とライフルを構える。


「速いっ! だが」


 回避するのは見えた、銃口をトレース、発射。はずれ。


「当てろよへたくそ」

『自分で弾道計算してみては?』


 しかし、おかげで相手は果たし状を受け取ってくれたようだ。ズームした映像の中で、敵のカメラがこちらを向いたのが見える。


「聞こえるか糞野郎! 五年前の恨みを晴らさせてもらうぜ!」

『ああ君か。あの時取り逃したのは』


 ……返事があった。有人機か、それともAIか。どっちであれヤることは変わらない。

 呼びかけに反応するように、敵が急角度で曲がり、こちらへ向かってくる。

 進路上に置くように弾を放つ。しかしわずかに機体を傾けて回避。距離は見る間に縮まっていく。


『さっきの声、聴いていたよ。単機で落とすつもりかね?』


 返事はしない。反撃に放たれる弾幕がそれをする暇を与えてくれない。敵の武装はマシンガン。民間フレームを改造した愛機の装甲は、数発分しか持たない。

だからエクスカリバーにランダムに回避機動を取らせる。だというに敵の弾は至近をかすめていく。近づくほどに弾は精度を上げて襲い来る。しかも最悪なことに、こちらの弾は掠りもしない。

暴れる機体に揺さぶられながら。エクスカリバーと相手の次の動きを計算に入れて照準を操作、反撃。脳みそが冷える、意識を研ぎ澄ます。落とされる前に落とすために。


 そして、奇しくも互いに同じタイミングでリロードに入った。距離を詰めるチャンス、と機動を直線にした。相手もそうすると。ヘッドオン。交差までにリロードは……ギリギリ間に合うか間に合わないか。だが継続。相手はリロードを中断して、腕に光るものを見せた。格闘戦用レーザーブレード。当たるとまずいが、当たらなければどうということはない。

 交差の直前、リロードは完了。機体をロールさせて、敵の正面から外れながら、サテライトを一個敵の目の前に置いていく。


「かかったな間抜け!」と言おうとしたが、ワイヤーを切り払われたのが機体後方、サブカメラの映像で見えた。脚部スラスターを噴射して半回転、進行方向そのまま、機体の向きだけを反転し、銃口を向ける。

 そして、相手も全く同じことをしていた。ついでに言うなら、敵の方が一手早かった。


『操縦替わります』

「ぬぅぅぁああぁぁ!」


 被弾の衝撃に脳みそがシェイクされる。追い打ちをかけるように、エクスカリバーの緊急操作が入り、上下に激しく揺さぶられた。だが、おかげでそのまま撃墜という展開は避けられた。敵の銃弾は未だこちらをトレースしている、曳光弾が一瞬前まで居た空間を走っていく。

 悔しいが、認めるしかない。自分の腕を過信していた。そして相手を過小評価していた。考えうる中で最悪のパターン、傭兵が戦場で死ぬ理由ワースト1位。

 歯を食いしばり、眼を見開き、酸素で肺を満たし、離れ行く意識の手綱をしっかりと握る。


「被害報告!」

『左腕破損、コアがわずかに削られました』

「上々! 武器はまだ使えるな、巻き返すぞ!」

『Yes,Sir』


 果たして。自分より格上を相手にする機会は、これまで何度あっただろう。俺の相手するロクデナシ共の大半は、軍にも入らず、フリーランスとして成り上がることもできずにドロップアウトした連中。当然技量は下の下、よくてせいぜい中の下。そんな連中を狩る俺の技量は如何ほどか。中の上、くらいと思っておこう。少なくとも今相手してるあの糞野郎よりは劣る。

なるほど、本当の格上とガチでやるのはこれが初めてか。気を締めて殺そう。


「一発で殺し損ねたことを後悔させてやる」


 シャンデル(斜め前宙がえり)、進行方向180度反転、ペダルを踏みこんで急加速。燃料の残りは気にしない。節約して勝てる相手じゃない。加速度に視界が赤く染まるが気にしない。体を気遣って勝てる相手じゃない。


 追ってくる敵と、再度ヘッドオン。すれ違いながら発砲、命中せず。再度反転……せず、そのまま直進。


「ほら、ケツ見せてやるから追ってこい……!」


 白兵戦から機動戦(ドッグファイト)へ。敵の機体性能がどれほどのモノかは知らないが、小細工するならこれしかない。

 

「食いついた!」


 敵機が加速、離れていくばかりだった距離が、徐々に縮まる。敵の方が加速性能が上、ということはわかった。しばらくして敵の射程圏内に収まると同時に、回避機動、曳光弾が真横を通り抜ける。距離があり、しっかり速度があって、かつ冷静になれば安定して避けられる……距離は徐々に詰められつつあるが、問題ない。


 ロール、直進機動、鋭角機動の三種の動きを組み合わせて、ひたすら避ける。弾切れになるまで撃ってくれればいいが、その前に集中が切れそうだ。


『敵、加速!』

「いいぞ、回避(ブレイク)! ブレイク!」


 噴射ノズルの角度を変えて、急角度でカーブ。敵の弾は当たらない。敵との距離がまた縮まる。減速、加速を織り交ぜて、敵の後ろを取ろうとするが、なかなかとらせてくれない。野郎同士の醜いケツの取り合いは、二匹の蛇が絡み合うような螺旋を描く。小手先の技を弄してはいるものの、旋回半径は相手の方が小さい。動きの冴えもあちらが勝る。

追って追われて、撃って撃たれて。命中弾は互いにないが、こちらは損傷個所が戦闘機動の負荷に耐え切れず徐々に無事な部分を蝕んでいる。

 このままずるずると長引けば自壊しかねない。だが、焦って賭けに出ればそこで死ぬ。弾が切れてもリロードできないから死ぬ。チャンスを待っていても死ぬ……ならば作るしかないが、それこそ賭けだ。

 性能も劣る、技量も劣る。なら残る勝ち筋は賭けしかないか。やってやる。


 減速しながらロール&サテライトを円状に散布、敵機が真後ろに迫り、弾丸がケツを叩く、が撃墜には至らない。


「逆噴射ァ! ア゛ア゛ァ゛ァ゛!」


 ブースターを斜め下前方向へ、スロットルを全開にして噴射。後方へ機体を吹っ飛ばす。

サテライトが進路を限定、回避する空間を制限。目論見通り、敵をオーバーシュートさせることに成功した。代償は……全身を襲う激痛。苛烈な加速度に肉体が耐えられていない。

 あとは、お礼の弾が足りるかどうか。丸出しのケツにライフルを放つ。マガジンの弾を全部吐き出させる。 

 高G下。体の骨がいくつか折れていても、指は動く。エクスカリバーが意を汲んで照準を補正してくれる。


 これで外したら恨む。


1、外れ。2、掠る。3、命中、4! 5! 6!


 命中個所はブースター、脚部。ラッキー7、最後の一発は、コアをぶち抜いた。それだけは見えた。それからは、視界が真っ黒になって。何も見えなくなった。口の中から血の味がする。骨だけじゃなく内臓も痛めたか……


『警告・機体に重度の損傷。システムに異常発生』

「船には、戻れるか……」

『自力航行は不可。船をこちらに寄せます。お嬢様に迎えに来てもらってはいかがでしょう』

「まだ介護が必要な歳じゃねえよ……ゲイリーに頼んでくれ」

『了解』

『お義父さん大丈夫!? 無事!?』

「あぁ……大丈夫……じゃないな。ちょっと死にそう。ごふっ」

『待ってて! すぐに行くから!』

「いいよ。ゲイリーがもうすぐ来る……」

『じゃ、じゃあ私どうすればいい!?』

「……エクスカリバー。適当に相手しといてくれ……あと麻酔をくれるか……体中痛くてかなわん」


 痛みさえ感じない、って状態よりは万倍ましなんだろうが。これはキツイ。


『無茶した代償です。それに痛みは生命反応の証、船に戻るまで我慢してください』


 あぁ。優しい相棒をもって幸せだねぇ俺は。クソが。


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