第14話 因縁のろくでなし
『戦闘エリア、射程圏内に入ります』
「ようし、もうひと働きするか」
花火の派手さは、大型艦が健在だったときよりも劣るが。範囲はそれよりも広く、まばらだ。その花火として散っているのは敵か味方か。まあ味方でも最悪、娘と友人でさえなければいい。
多くのレーダー反応の中から、一機ずつ周波数を検索。ヒット、幸いにもどちらも生存している。今のところは、だが。一先ず安心。
「しかし見ずらいな。ズームしてくれ。あと色相反転も」
「了解」
真っ黒だった宇宙が反転し、真っ白になる。その中を小さな黒点、敵味方、残骸などが飛び回っている。蠅のようだ。のんきな感想を抱きながら、ズームで敵味方を判別する。同じ武装・外見をしているのが敵、それ以外が味方。IFF(敵味方識別)くらい事前に設定しておくべきだったな。
反応から見つけ出した二人の機体の状態を見る。両機ともケツに三機ほどくっつかれていて、回避に専念しているのがリリィ。反撃し、一機落としてはまた追加で狙われているのがゲイリー。機体性能は同じ、ソフトウェアはリリィの方が上のはず。それでもこのざまなのは、経験の差かね。先に援護するのはリリィに決定。ゲイリーは放っておいても自分でなんとかするだろう。
距離は結構あるが、しかしこういう場面でこそレーザーライフルが輝く。光学兵器だけに。
「リリィ、援護してやるからさっさと逃げろ」
『ッ、はい!』
『俺は!?』
「大丈夫。お前ならやれる」
『鬼ぃ! もう弾がやべえの! 助けて!』
「はいはい、後でな。エクスカリバー、照準任せた。撃ってくれ」
『了解』
ライフルから光条が放たれる。リリィを追う無人シェルがノータイムで切断され、慣性のまま明後日の方向へ吹っ飛んでいく。
『クールタイム、3,2,1、発射』
もう一機。距離5000mほどだが、ナイススナイプ。金をかけてアップグレードした甲斐があったな。あとは、高い金を払って仕入れた武器も。
実弾ではできないアウトレンジ攻撃。光速とは弾速の暴力。対レーザー装甲持ちには無力だが、今回の敵はそうではなかったと。まさしく幸運。
残り一体はリリィが反転、反撃、撃墜。
『ありがとうお義父さん!』
「ケガはないか」
『ちょっと被弾したけど、修理すれば問題ないよ!』
「結構結構。死ななきゃ安い。さてゲイリー、助けてやろう。いくら払う」
『金取るのかよ!』
「冗談だ。やってくれ、エクスカリバー」
追加でもう一機。五機落とせばエースというが、これまで撃墜したのは一体何機になるかね。となると俺はすっかりエースパイロットだ。軍人じゃないから名乗ったところでいい的にしかならんな。
残る二機は自分の得物で落とした。
『ヒィー、助かった。今ので弾切れだ』
「損害は?」
『なし!』
「結構結構。自慢のイチモツは今日もさえてるな」
三本目の足、と呼ばれるのは特注のライフルが由来となっている。それ以外に武器はなく、それだけで十分なのだと本人は言う。実際、ライフル一本で被弾なし、というのはすさまじい。AIの補助ありとはいえ、恐るべき腕だ。味方でよかったよ。
「活躍の場を見られずに残念だよ」
『だろう? 娘さんを俺にくれてもいいんだぜ』
「本人に聞け」
『嫌です』
「だとよ」
『マジかー……げ、また追加が来やがった。一体何機居やがるんだこいつら』
『残り二十機です。頑張ってください』
『クソがー!』
「娘の教育に悪い。汚い言葉を使わんでくれ」
しかし本当に多いな。他の傭兵たちも黙って落とされるわけはないだろうに。一体何機積んでたのやら。
『数は減りつつあります。現宙域で戦闘中の方々が奮闘すれば、全機撃墜も不可能ではないでしょう』
「殲滅が目的じゃない。生きて帰ることが目的だ」
とは言うが、殲滅しなくちゃ帰らせてくれないならそうする他ない。
戦闘エリアに接近。離脱していくリリィとゲイリーとすれ違い、それを追う無人機の進路上にサテライトをぶちまける。蜘蛛の巣のように広がった網に自分から突っ込み、巻き取られた爆弾に叩き落される。
遠くから見ていてわかったが、こいつら数こそ多いが動きは単調だ。網を張れば簡単にやれる。
『助かったぜ、今ならお前に抱かれてもいい』
「男のケツに興味はねえよ。ここは任せてさっさと退け」
『そういうのなんて言うか知ってるか? 死亡フラグ』
「死ぬつもりもねえよ」
とは言うが、反応のいくつかがこちらに向かっているのを見ると胃が痛む。こいつら全部を一人で足止めするとなると……なかなか難しく思えるな。生身で大気圏突入とどっちが生還率が高いだろう。
『お義父さん、死なないでね』
「よーしパパ頑張っちゃうぞー」
ライフルのバッテリー残量はあと三回分。全部撃ったら実弾に切り替えよう。デコイは五個。ぽんぽんと放出して、盾にする。
サテライトはあと一回撒いたら使い切り。撤退のために残しておこう。
残る敵は十五機。また減って、十二機。味方もなかなか頑張ってるじゃないか。で、こっちに来てるのは……五機。
「レーザーの安全装置を解除。クールタイムなしで撃て。壊れても構わん」
『ウィルコ』
エクスカリバーの正確な射撃、無人機は三機落とされる。これが有人機なら狙われないように複雑な軌道を取るんだろうが、こいつら学習しないのか単調な動きのままだから的打ちだ。
『オーバーヒート。使用不可です』
「弾切れだろう。問題ない。ユーハブコントロール、回避は任せた」
実弾は弾速があるから、当てるための演算負荷が大きい。回避と並列処理だと遅れが出て被弾するかもしれない。だから自分で使う。
敵の銃口がこちらに向く、それをロールで回避し、その最中に自分で腕を操作して照準を敵に向ける。進路と速度、こちらの弾速を合わせて考えて、当たる位置に弾を放つ。反動で跳ねる機体を、エクスカリバーがブーストで打ち消した。
偏差射撃。30mm砲弾が命中して、また新たなデブリが生まれる。もう一丁。
「……思ったよりチョロイなこいつら」
こんなに弱いと兵器としてどうなんだ。今時非武装の輸送艦なんてほぼないし……母艦の用途から考えるに、敵艦に突っ込んで中にぶちまけて乗員を虐殺するための代物か?
あいや、それとも俺たちが強すぎるのかね。
『警告、ボギーワン出現。警戒してください』
「……真打登場か。こいつらは前座だったってわけだ」
雑兵を大量投入して消耗させたところを、精鋭で仕留めるつもりか。無人機ならではの運用だな。人間でやったら非難殺到だ、考えた奴は性格悪すぎるだろ。
『拡大します。識別完了』
砕け散ったコンテナ。血と肉片漂う、焼け焦げた港。死体だらけの廊下。死にたくなるほどの罪悪感。今は、ここは、あの日のあの場所ではない。だが、一瞬そこに居るのだと錯覚するほど鮮烈かつ強烈なフラッシュバック。
クソが。全部あのクソのせいだ。あのクソさえ居なければ、俺はこんな吐きそうな気分にはならなかったはずだ。
「なあ、エクスカリバー」
『戦闘は非推奨です』
「まだ何も言ってないだろう」
『あなたの考えていることくらいわかります。港の警備部隊が一機で壊滅させられたことを計算に含めると、勝率はかなり低いですよ』
「奴は殺す。必ず殺す。刺し違えてでも殺す。なに、バックアップは取ってあるし、シェルも新しいのを買えばいい」
『相手は無人機かもしれません』
「それがどうした。俺がそうしたいからそうするんだ。そうしなきゃ気が済まん。操縦権限移譲。やるぞ」
『了解。最大限サポートします。遺言は?』
「オープンチャンネルで邪魔した奴はぶっ殺すって放送しとけ」
『バックアップの起動準備をしておきました。あなたが死んだら起動します。心置きなく戦ってください』
「よっしゃ行くぞォォアァア! 野郎ぶっ殺してやラアァアァ!!」
アクセルをベタ踏みに。急激なGに歯を食いしばり、アッチがコッチに向かってくる前に迎えに行く。他の誰にも渡さない、あいつは俺の獲物、俺だけの獲物。
自分の罪は自分で清算しなきゃナァ!!