第13話 宝箱の中身
「着艦任せる。バッテリーと冷却材、推進剤の補充も」
『アイ・ハブ・コントロール。バイタルが乱れています。休憩が必要です』
「ご心配どうも。まだ向こうに人がいるのに一人だけ休むわけにはいかん、水を一杯飲んだら戻る」
『非推奨。と言っても戻るのでしょうね。あなたは』
「もちろん。大事な娘のためだからな」
コックピットモニターに表示された、ハッチとの距離を示す大小のひし形二つと。角度のズレを示す十字が二つ。機体が上下に揺れて、細かな回転で十字が合うように調整。ぴたりと重なったら、少しだけ加速。ひし形があと少しで重なるところで、ハッチが開く。
ハッチの中にはネットが張られており、機体を優しく受け止める。
「完璧な着艦だ。褒めてやる」
『ありがとうございます』
機体が停止したらコックピットを開いて、ハッチの中に出る。コックピットの外側にはエクスカリバーの義体が待機していて、水の入ったボトルを渡してくれた。
「ありがとう」
『どういたしまして』
予備バッテリーと冷却材、実弾ライフルのマガジンが入ったそれぞれのコンテナを機体の方へ優しく投げて。エクスカリバーの義体が受け止める。それから推進剤補給用のホースを壁から引っ張って、機体のバックパックに接続。給油を開始する。満タンになるまで二分。その間にバッテリーと冷却材、弾丸の補給だ。
「マガジンを機体に付けてくれ」
『了解しました』
実弾の方はエクスカリバーに頼んで、レーザーライフルの方に取り掛かる。冷却材循環パイプのバルブを閉めて、液体窒素の入ったタンクを外し、新しいものに付け替えたら、バルブを開くのを忘れない。
バッテリーも同じように交換したら、丁度推進剤の補給が終了。巻き取りスイッチを押して格納し、空のマガジンやら冷却材やらはそこらに散らかしたままコックピットに潜り込む。
「じゃあ片付けよろしく」
『了解。ユー・ハブ・コントロール』
「アイ・ハブ・コントロール。出るぞ、義体を退けておけ」
スラスター点火、機体をもう一度宙の中へ放り出す。閉じていた通信のチャンネルを開いて、大物のそばで待機している仲間に声をかける。
「補給完了。そちらに戻る、異常はないか」
『んーとな。ちょっとやべーぞ』
「何がやばい。中からバケモノでも出てきたか?」
『まずこの船だが、無人だ』
「ほう」
繊細な機械にこんな乱暴な使い方をする船を操縦させるとは。ますます設計者の正気を疑ってしまう。人を乗せていてもこんな使い方はすべきじゃないが。
『そんでこの船だがな。輸送船……いや空母と言った方が適切か』
「ほうほう……ほう?」
ちょっと訳が分からない。なに、衝角突撃して無人機ばらまくの? 中身衝撃でぶっ壊れないの? たぶん実験機なんだろうな。
『中に無人シェルと戦闘機がギッシリ詰まってる。対艦ミサイルで射出口が壊れたが、アステロイドベルトで空いた穴からボロボロ出てきてる』
「リリィ、ゲイリー、お前ら二人は俺の船で収容するから撤退しろ。狙撃で支援する。エクスカリバー聞いたな、収容準備。収容したらすぐに逃げられるよう準備しておけ」
『了解しました』
『デコイとサテライト全部ばらまくぞ、今日は大盤振る舞いだ。はは、請求書が怖いねえ』
『お金と命どっちが大切ですか! 逃げますよ!』
あの衝撃で壊れてないなら、敵は相当頑丈なんだろう。狙撃で支援と言っても、支援になるかどうか。まあ、しないよりはマシだろう。多分。幸い有人デコイはたっぷりある。彼らが時間を稼いでいる内に撤退を進めてもらおう。
さて、何人生きて戻れるかな。