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宙の人  作者: からす
第二章 親子で傭兵業
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第12話 花火を見るろくでなし

 大昔。我らが母星である地球が、まだ人間たちの唯一の住処であったころ。地球に住む人たちは祝い事に限らず色々な催しごとのある度に、花火、というものを打ち上げていたらしい。

 コロニーや宇宙港では空気が汚れるので禁止されているので、実際に見たことはないが、空に火の花を咲かせ、散らす芸術。今、俺の目に映っている光景は、目的は違えども、花火そのものだった。

 巨体に見合わない高速度でシェルの群れに突っ込んでは、打ち上げ花火の尾のようなレーザーをばら撒き、炸裂する砲弾やミサイルで暖色の花弁を大量に散らして。それらが(ソラ)を埋め尽くしていた。

圧倒的な火力。火の雨の中で、回避もむなしく焼き殺される虫けらのように、同業者たちが一人ずつ散っていく。勇敢な犠牲者たちに敬意を表しながら、ヒゲを一本ずつ毛抜で抜いていくように、レーザーで砲台を一つずつ狙撃で潰していく。いくつ生えてるのかわからないほどだ。

 ただ努力の甲斐あって、輸送船は無事に戦域を離脱。すでにレーダーの探知範囲外へと逃れたようだ。


「おっと」


 デコイがレーザーに貫かれて破裂した。自分に当たらなくてよかったとヒヤヒヤしながら、また新しいデコイカプセルを放つ。

高気圧で圧縮されたバルーン入りカプセルだ。真空中に放り出されると、気圧差で急激に膨れ上がり、機体と同じくらいのサイズのバルーンになる。タダではないが、命よりは安い。


「リリィ、ゲイリー、生きてるか」


 他の同業者連中はどうでもいいが、この二人にだけは生きていてもらわないと困る。リリィは大事な娘だし、ゲイリーには聞かなきゃならんことがある。まぁ、死んでたら死んでたで諦めるけど。


『生きてるよ。かっこつけたこと言ったはいいが、近づくどころじゃねえなこいつは』

「デコイがなくなったらお前が頑張れ。リリィはどうだ」

『なんとか無事!』

「無理はするな。生き延びるために逃げてんだ、死んだら元も子もない」

『はーい』


さて、あとは護衛対象から撤退許可が出るか、このデカブツがぶっ壊れるかすれば逃げら

るんだが。


『傭兵達へ。これより対艦ミサイルを発射する。うっかり当たるなよ』


 ただの輸送艦がなぜそんな物騒な物を積んでいるかというと、やはり自衛用。最近はどこも物騒だからな、仕方ない。

 とりあえず撤退許可はまだ出ない。射線に入らないようにだけ気を付けて、ちまちまと砲台を潰して、内部へのダメージを蓄積させていく。本当はケツを狙って足を潰したいんだが、超高温の炎に耐えるブースターにレーザーを当てたところで圧倒的に火力不足。ダメージはなし。実弾を叩きこむために追いかけようにも相手のスピードは恐ろしく早い。とても追いつけやしない。


 だが、遠距離から最大限加速して突入するミサイルならどうだ?


『3・2・1、着弾』


 一条の光が飛び込んで、光った。衝撃波で空間が歪み、巨体がブレる。進路が強制的にズラされて、航路を外れてすぐ横にある小惑星帯に頭から突っ込んだ。船体の横を大質量の石があっという間にボコボコにして、露出している砲台があっという間に石に押しつぶされて壊れていく。


「ちまちま潰してたのが馬鹿らしくなるな」


 しかし、それも十分に時間を稼いだ結果撃てたのであって。俺たちの努力と犠牲は無駄ではなかったのだ。


『側面に着弾しましたが、弾頭が装甲を貫通できていません』

『二発目は撃てないぞ。対艦ミサイルは高級品なんだ』


 相対速度いくらでぶつかったのか知らんが、相当な衝撃のはず。当たったのがマイホームの船だったら跡形も残らず消し飛んでいただろうに。一体どんな装甲してるんだか、一体どこの馬鹿がこんなもの作ったんだか。それはスクラップにしたあとで解体すればわかるか。


「やってないのか。じゃあもうひと頑張りだな」

『はい。しかしダメージは大きいかと。砲台の数は見ての通り。動きも鈍くなっています。足を狙いましょう』

「よし、それでいこう」


 そうすれば殴り放題。火砲が使えないし機動力も低い。そんなデカブツは堅いだけの的。勝ち目が出てきたな。

 デコイをワイヤーで牽引して盾にして、ECMを撒きながら。小惑星も避けながら、敵艦(船と呼んでいいのかどうかはわからんが)後方へ。俺が先頭で、同業者たちもついてくる。回り込むと、先ほどまでは太陽のように煌々と輝いていたブースターは、せいぜい大火事程度の火となっていた。この巨大な舩を動かすには、明らかに出力が不足している。


「とはいえ、その欠陥のおかげで命拾いできたんだがな」


 大口径のライフルで、ケツの穴に徹甲弾をネジ込んでやるのだ。

 艦船を潰すにはあまりにも火力不足で、分厚い装甲でおおわれたバイタルパートなどはとてもじゃないが貫通なんて望めない。しかしデリケートな推進装置に対して撃つのならこれでも十分。


「発射」


 ドン、と機体が反動で後退するのを、姿勢制御スラスタで抑える。着弾、貫通。内部で燃料に誘爆……はしてくれなかったが、メインブースターに穴が空けば全力機動は無理だろう。弾倉が空になるまで撃ち続けるとしよう。その頃には相手も動けなくなってくれているはずだ。

 健在な同業者たちも加わって、さっきまで散々撃たれたお礼を渡してくれる。大量の曳光弾が丸いエンジンに殺到して、あっという間に穴だらけにしていく。


 持ってきた弾は何発だったか、味方の弾も尽きた頃合い。補助推進装置などは全部潰してしまったので、あとはただの棺桶だ。誰かが穴の空いた外殻から中に入り込み、大した武装もない……あったところで、さっきのミサイル着弾で大半がくたばっているであろう搭乗員にトドメを刺して終わるのだろう。哀れなことだ、しかし同情はしないぞ。襲ってきたのは相手側だからな。


「これだけやれば十分だろうが。一応補給に戻る。ゲイリーは残って、何かあったら教えてくれ。リリィは……弾は十分か。残ってゲイリーの援護。何かあったときの時間稼ぎを頼む」

『オーケー残業だな。何もないとは思うけど』

『はーい。今回は出番なしかぁ……』

「一発も撃たず、一発も被弾せずに依頼完遂。傭兵なら誰しも夢見る終わり方だ。喜べ」


 何せ報酬が全部収入になるんだ。素晴らしいじゃないか。


「……ま、これで終わりかどうかは知らんが」

『輸送船に画像を送信しますか』

「そうしてくれ。撤退許可が出ればいいんだが」


 終わりだといいな、と思いながら背負い式のブースターに点火する。コレで終わりじゃあまりにもアッサリしすぎている。もしものこともある、なるべく早く戻ってこよう。


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