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元カノへのプレゼント

「って言う訳で、部屋に置いてるドレス類とか気兼ねなく使って欲しい。」


んなこと言われましても、こんな高級品もらえませんがな。


イクスはへらへらと笑って言う。さっきの僅かなに感じた哀愁もどこにも感じられない。


「わたしには勿体ないですわ。」


こちらも笑顔で辞退する。本当は欲しい。この後王太子に会ったりもしないといけないので、それなりの格好をしていかなければならないが、このドレスがあれば安心して向かうことかできるだろう。しかし、受け取るにはためらわれるお値段のものだ。イクスと元婚約者の復縁も無きにしも非ずのような気もするし。先の夜会はあのドレスで開き直ることができたのだから、手持ちのドレスで大丈夫だと思いたい。


「えー!」


軽くブーイングするイクスに執事らしき人が近寄り、何かを耳元で囁いている。


「そっかぁ…ごめん。これ片付けて。新しいの買おう!」


イクスは思い直して、メイドに積まれている元婚約者へのプレゼントを片付けるよう指示を出した。


「新しいの?いりませんよ!どうしたらそんな話になるんですか?」


イクスと執事に互いに目配せをすると、次はクルーシェの方を向いた。


「元カノへのプレゼントを他の女性に流用するのはダメなんだって。」


さっぱりとした顔でイクスは言う。その意味を本当に分かっているのだろうか。


「それは意中の女性限定ですよ。わたしは高級品だから遠慮している訳で…」


確かに結婚相手が流用してたら嫌だけど、クルーシェはなんとも思わないと思う。それは単にお互いに全くもって何も思っていないからだが。


「なら捨てるしかないんだけど。」

「これを?」


クルーシェはぎょっとする。積み上げられたプレゼントの箱はクルーシェの身長ほどあるし、そのどれもが高級品だ。


「だってあげる人いないし。」

「はい、戴きます。」


食い気味でクルーシェは答える。


有効利用、有効利用。


心の中で言い聞かせる。それにしても、一着でも売れば数日困らないだけの代物を貰ったクルーシェは悪い気持ちが湧いてこない訳ではない。


流石に売るのはクズ過ぎるな。


一生物の一張羅としてありがたく取っておくとしよう。

クルーシェは今時のナウいドレスを手に入れた!


**


む、胸がパカパカする…


他人に合わせて作られたドレスはどうやら私には似合わないらしい。

手で胸元をパカパカさせている呑気なクルーシェとは対照的に、着替えを手伝っていたメイド達の顔が青くなっていく。


気にしなくてもいいのに。


そのまま行く気満々のクルーシェを尻目に、1人のメイドが慌てて部屋を出て行った。

帰ってきたと思うと、そこにはとても頼り甲斐のありそうな年配のメイドと美意識の高そうなお姉さんメイドを連れてきた。


嫌な予感がする。


「あがっ!ぐえ!おぎゃ!」


クルーシェの奇声が部屋に響き渡った。


「まぁ、これで一応見えるようにはなったでしょう。」


一仕事終えた年配のメイドが汗を拭い、一言呟く。他のメイド達が一斉に首を縦に振る。

しかし、クルーシェは瀕死の状態だ!


「姿勢を正して下さいませ!」


クルーシェの背中に年配のメイドがバシッと闘魂を入れる。

その重い一発にクルーシェの背筋がピンと伸びた。


「失礼するよ。」


その声と共にイクスが部屋の中に入ってきた。イクスは一瞬止まると、穏やかな笑顔をクルーシェに向ける。


「見違えたよ。元の姿も可愛らしいけれど、今日は一段と綺麗だね。」


クルーシェが初めて聞くような言葉をイクスは並べて、そっと手を差し出した。クルーシェはその手をありがたく受け取る。

実は余った裾を引きずらない為にクルーシェは今まで履いたこともないような高いヒールの靴を履いているのだ。

そして地味で垢抜けない顔は暑化粧と流行を取り入れたメイクで偽装、そして何より問題の胸は布を入れ込んでドーピングしてある。


敵陣に向かう武装だと思えば、我慢はできた。高いヒールは武器になりそうだし、胸の布は目くらましに、暑化粧は落とせば逃げる際に錯乱させることができる。そう思わないと辛い、と思うクルーシェであった。

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