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18:余暇のひととき

 ある日の自由時間。珍しく暇を持て余した俺は、フィエリと草地に座り込んでまったりした時間を過ごしていた。


 フィエリはお淑やかで口数の多い子じゃないため、ふたりだけだと会話は少なめ。だけど、決して気まずいとかそんなのは感じなかった。

 なんというか、一緒にいてくれると心が安らぐんだよね。フィエリは生粋の癒し系女子に違いない。たぶん、全身からマイナスイオンとか出しちゃう体質なんだろう。


 爽やかな風を全身に感じて、青い空を眺めては流れる雲を見送る。小鳥の鳴き声がすればそちらに視線をやり、姿を観察した。


 うん、こういった時間の使い方も悪くない。無駄に時間を過ごしているふうに見えるかもしれないが、その無駄がいいのだ。だって毎日を忙しなく生きている人からすれば、贅沢な時間の使い方でしょ?


「シギ様、お花で冠を作ってみました。いかがでしょう? 似合っているでしょうか……?」


 のんびり過ごす俺と違い、さっきから手を動かしていたフィエリ。なにをしていたかと思えば、摘んできた花を編んでいたのか。

 白、黄、桃、青と色とりどりな別種の花が、フィエリの手によって輪っか状に編み上げられている。彼女はお手製の冠を頭に被り、少し恥ずかしそうに頬を染めて上目がちに尋ねた。


「上手にできてるじゃないか。不安がらずとも、すごく似合っているよ」


 似合いすぎて、天使かと思った。いや、むしろ女神?

 俺の返答に、気恥ずかしそうに照れ笑いをするフィエリ。うん、やっぱり天使だわ。


「ありがとうございます。次は、シギ様にもお作りしますね」


「え、いいの? ありがとう。フィエリは三人の中で、一番女の子らしいね」


「そ、そんなことはありません! シエラは大人の女性で憧れますし、ミファだって里の男の子たちととても仲がよかったんですから! ふたりに比べて、私は……」


 恥ずかしいのか毛先をもじもじといじり、謙遜するフィエリ。その仕草がなんというか、とても女の子している。


 シエラは俺から見ても大人の女性感はあるが、子供っぽい一面もある。フィエリが考えているほど、完璧な女性じゃないと思うな。


 ミファに至っては、毎日ガルグと楽しそうに体を動かしている。それこそたまに、こいつは本当に女の子だろうかと疑問になるぐらい。あいつは生まれてくる性別を間違えていやしないか?


「もっと自分に自信を持っていいよ、フィエリ。少なくとも俺は、君こそが一番女性らしいと思っているからね」


 男である俺が太鼓判を押すのだから、誇っていい。ちゃんと女性の魅力に溢れている。胸とか一番大きいしね。

 ……我ながらくさい台詞を言っちゃったけど、引かれていないかな? だめだ、今度は俺が恥ずかしくなってきた。


「シギ様にそう言っていただけて、嬉しいです。シギ様は、本当にお優しい方ですね。いつも私に親切にしてくださって……。あの……シギ様さえよろしければ、その、私を……あ、いえ! やっぱりなんでもない、です……!」


 これまで以上に顔を赤くし、俯いてしまったフィエリ。俺もさっきの発言が尾を引き、まともの彼女の顔を見られない。お互いがちらちらと相手を気にかけるものの、口を開けないでいた。


 なんだこの状況は。お見合いでもしてるのかっての。なにか別の話題を……どうにかしてこの気恥ずかしい空気は変えねば!


「あーっと、えーっと……あ! ミファとガルグ! あっちにいるあのふたりだけど、さっきからなにをやっているんだろうね!? ちょっと見に行ってみようか!?」


「ひゃい!? あ……ミファがガルグさんに向けて、なにかを投げつけているみたいですね? えっと、私はここでお花の冠を作っておりますので、シギ様だけでどうぞ行ってきてください……!」


 遠くに見えるミファとガルグを出しに、話題の転換を図る。フィエリも話題にのっかってはくれたものの、誘いは断られてしまった。


「そ、そう? じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 彼女にひと言断りをいれ、隣を離れる。三十にして、十代の頃の甘酸っぱい青春時代を思い出してしまったな。


 フィエリに、女慣れしたキザな人間と思われていやしないだろうか? 大人になってから、女っ気はこれっぽっちもないというのに。

 ……いや。思春期の子供じゃあるまいし、気にしすぎか。




「――はうぅ、シギ様……もう行ってしまわれてしまいました。私の気持ちをちゃんとお伝えしたいのに、いざとなると恥ずかしくて勇気が出ません……」


 シギの去ったあとで、フィエリは背中から草地に倒れこむ。彼女は被っていた花の冠を天にかざし、寝転がりながら輪っかの穴越しに空を眺めた。


「片足を失った私では、シギ様の重荷になってしまうでしょうか……? ……ううん、卑屈になっちゃだめよ、フィエリ。あの方も、もっと自信を持っていいと仰られていたじゃない。ああでも恥ずかしすぎて、面と向かってお伝えするのはまだ無理かも……」


 ぼそりと呟かれた彼女の独白は、直後に吹いた風の音にかき消される。

 フィエリはシギに褒められた花の冠を胸に抱き、身悶えする。なかなか治まらない恥ずかしさを紛らわすため、草地を左右に転げまわった。




「あんなに地面を転げまわって、フィエリはどうしたんだろう? ひんやりして気持ちいいのかな……?」


 ガルグたちのもとへ赴く最中、ふと後ろを振り返る。するとフィエリが楽しそうに、草地を何度も左右に転がっていた。

 普段から物静かでお淑やかな彼女にも、あんなふうにはしゃぐ一面があるんだね。


「で、ミファとガルグはなにをしているんだ?」


「おぉ、シギ。ミファはガルグに頼まれて、ドングリを投げつけていル」


 俺の質問に答えつつも、投げる手を休めないミファ。投げつけられたドングリを、ガルグは懸命にかわしていた。


「これは特訓だ。攻撃を避けるためのな。目が見えずとも、匂いや音、風の流れを感じさえすれば……ほらよっと!」


 おぉ、次々飛んでくるドングリを紙一重で避けている。すごいな、ガルグは。

 どんなもんだと、得意げに頬をにやつかせるガルグ。盲目のハンデをものともしない、彼の圧倒的なセンスには感心させられる。


 ガルグはもっと強く投げてくれとミファに注文をつけ、彼女は快く応じる。

 たまに直撃こそしているけれど、その場合でも急所となる部分だけは避けていた。


 ミファが投げる強さを上げても、ガルグはものの数回で適応してみせる。ミファのほうこそ、最終的には当ててやると躍起になっていた。


「ふむふむ。さすがだなぁ、ガルグは。……ミファ、ミファ。ちょっといい?」


 小声でミファの名前を呼び、手招きする。彼女にそっと耳打ちをし、ふたりして悪戯な表情を浮かべてほくそ笑んだ。


「ガルグ、次はミファも本気を出すゾ。覚悟しておケ」


「ああ、いいぜ。いつでもきな」


 ミファは右手にドングリを握り締め、さきほどまでとは打って変わって力強く振りかぶる。狙いを定めると、彼女なりの全力で投げ放った。


 華奢な手から放たれたドングリは、ガルグの腹部を目掛けて飛んでいく。神経を尖らせた彼は敏感に気配を感じ取り、体を捻ってひらりとかわした。

 ガルグのかわした隙を狙い、続け様に今度は俺がドングリを投げ放つ。ふふふ。さすがのガルグも、まさか俺も投げるとは想定していまい。


 しかしガルグはにやりと笑い、利き腕で俺の投げたドングリを容易くキャッチしてしまった。あまりにも呆気ない。

 驚く俺に対し、ガルグはお返しとばかりに受け止めたドングリを投げ返してきた。


「いってぇ!? ちょ、ガルグ! 本気で投げつけんなよ!!」


 ガルグの投げたドングリは、俺の額に見事命中。予期せぬ痛みに、患部を押さえ蹲まる。

 不意を衝いたつもりが、逆に俺が一杯食わされるとは。目が見えていてこれだ、ガルグのすごさは測りしえないな。


「ははっ、ズルをしようとしたシギが悪い。内容まではわからんかったが、こそこそとした話し声は聞こえていたぜ。よからぬ企みをしているなと、すぐわかったさ」


 ううむ、さすが全神経を研ぎ澄ましているだけある。

 というかガルグの奴、本当は目が見えているんじゃないの? 最近は俺のあげた白杖を使わず普通に歩き回っているし、そう思えてならないぞ。

お読みいただき、ありがとうございます。

いただいた感想、ブクマ、評価は今後の創作の励みになります。

引き続き、お付き合い願えれば幸いです。

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