17:魔法の白い粉
森での狩りを終え、帰宅。
あのあとシエラが、追加で一羽仕留めてくれた。おかげで全部で五羽のスキアフォーゲルを得られた。綺麗な原型を保っているのは、二羽だけだけれども……。
スキアフォーゲルは首を切ってから、軒先で逆さ吊りにしてしばらく放置。血が抜けるのを待つ。
働いたあとはお腹がぺこぺこで、早急に夕食の支度に取りかかる。実は今日の夕飯は鳥肉と、昨日から密かに決めていた。それもこれも、ある発想を思い浮かんだことがきっかけ。
「どれどれ、仕込んでおいたこちらの様子はどうかな?」
台所に蓋をせず置いておいた鍋の中身を確認する。砂糖を作っていて思いつき、昨夜こっそりと仕込んでおいたものだ。
鍋の底には乾燥した白い塊。実はこれ、ジャガイモから抽出した片栗粉である。
皮を剥いた生のジャガイモを摩り下ろし、濃し布に包んで水につけ、でんぷんを水の中に抽出。絞りきった濃し布を取り出してから十分ほど時間を置き、黄ばんだ上澄みを捨てて綺麗な水を入れる。
かき混ぜたらまた放置し、上澄みを捨てる。この作業を三回ほど繰り返す。最後は一時間以上放置して、底にしっかりでんぷんを沈殿させる。
沈殿したでんぷんを捨ててしまわないぎりぎりまで上澄みを捨て、あとは自然乾燥させるだけ。
以上の工程を経て、水分が飛んでなべ底に残ったのが片栗粉である。木ベラをなべ底の塊に刺し込めば、ぼろぼろと崩れて粉になった。
今日の夕食はこの片栗粉と鳥肉を使い、から揚げを作ります。
まずは原型を留めている二羽のスキアフォーゲルをシエラに解体してもらい、鳥モモの部位をひと口サイズに角切りにしていく。
角切りにした鳥肉をボールにいれ、ハチミツと香草の絞り汁、塩を入れて揉みこむ。十分揉みこんだら、しばらく放置。ハチミツに含まれる酵素が鳥肉を柔らかくしてくれる……はず。
続いてとりかかるのは、俺が仕留めた三羽のミンチ鳥。こちらもシエラに、四苦八苦しながら解体してもらった。
筋や血合いを取り除いた肉を、包丁の刃でひたすら叩く。ミキサーがないので、手動で挽き肉にするのだ。
完全にミンチにし終えたらボールに移し、片栗粉作りで使用したジャガイモの摩り下ろしを加える。結構な量となっていたため、捨てるのは勿体ないからね。
細かく刻んだ香草とネギを加え、塩で下味をつける。つなぎとして卵も投入。均一になるように、手でかき混ぜる。これで肉種の完成だ。
混ぜ合わせた肉種を手の平にすくい、ボール状に丸める。こねこねこねっと。大きさはピンポン球よりちょっと小さいぐらいで。
スキアフォーゲルの解体を担当してくれたシエラさんが、鳥肉団子をこねる俺の後ろでそわそわしている。しきりに手元を覗き込み、なにを作っているのか気になっているようだ。
気が散るので彼女にも団子作りを手伝ってもらい、肩を並べて一緒にこねこね。肉種が少なくなってきたら残りをシエラに託し、俺は別の作業に移る。
氷室から、肉の脂身だけを大量に取り出してくる。これまで食べてきた獣肉の脂身で、捨てずに置いておいたものだ。
一番大きなフライパンを強火にかけ、底が熱くなったら脂身を次々投入。すると火が通った脂身から脂が溢れてくるので、必要な量に到達するまで熱し続ける。
最後にカリカリになった脂身は取り出して廃棄し、これで揚げ物に使う油は用意できた。
揚げに入る前に、揉みこんでおいた鳥モモ肉の仕上げにかかる。漬け汁を軽く流水で洗い流し、もう一度塩で下味をつけた。
片栗粉をお皿に広げてその上に鳥肉を転がし、全身を白くお化粧させる。これで下準備は完了。いよいよ揚げに入る。
揚げる油の温度は高温でなくてはならない。低いと衣がしっかり固まらず、かりっと揚がらないのだ。
高温を維持するためには、一度に多く投入してはいけない。肉の入れすぎは、油の温度低下を招くからね。フライパンの大きさを鑑みて、三~四個ずつが適量かな。
そしてから揚げといえば、やはり二度揚げ。
最初に二分ほど揚げてから取り出し、数分休ませる。余熱で中まで火が通るから、半生になる心配はないよ。
休ませたら、最後にもう一度揚げる。二度目の揚げは一回目より短めで、一分もしないぐらいかな。
全て揚げ終えたら、『鳥モモの塩から揚げ』の出来上がり。
生で食べられるパクチーっぽい草をから揚げの下に敷き、くし切りにしたオレモンを添えれば完成だ!
油には火をかけたまま、続いてミートボールの揚げに入る。シエラにお願いして、事前に表面に片栗粉をつけてもらっておいた。
本当ならそれこそ卵とパン粉も使い、まさしく揚げ物として料理したかったが、パンがないため贅沢をいわない。
ミートボールもまた、伝家の宝刀である二度揚げを行う。こちらは鳥モモのから揚げと違い、少し長めに揚げる。
二度揚げが終わったものに、串を刺して中身の具合を確かめる。串先を確認し、火が芯まで通っていれば大丈夫だ。
こちらも全て揚げ終え、皿の上に雑多に盛り付ける。くし切りにしたオレモンとトマトを1:3の割合で交互に並べ、ミートボールを囲う。これで『鳥じゃが揚げ団子』の完成!
両者とも味が薄かったときように、別皿で塩を用意。片栗粉でとろみをつけた鶏がらスープと一緒に食卓に並べ、夕食の仕度が整った。
早く贄をよこせと渇望する、飢えた獣たち。彼らに待てをかけて制し、いただきますを済ませてから食べる許可を出した。
「うまイ! うまいゾ、シギ! ミファはこの揚げ団子、気に入ったゾ!」
「あら、本当ね。一緒に混ぜこまれたジャガイモがほくほくとしていて、優しい食感になっているわ」
まずは揚げ団子に手を伸ばしたミファとシエラが、絶賛の声をあげた。コロッケに近いイメージを連想していたが、肉の比率が多い分どっしりとした食べ応えがある。
一緒に混ぜ込んだネギの辛味がぴりっと舌を刺激し、香草の爽やかな風味が危惧していた油のくどさを和らげてくれている。
「鳥を素揚げした料理は食べたことがあるが、同じ揚げ物料理とは思えんな。表面の衣がサクサクとしていて、噛むたびに中から肉汁が溢れだしてきやがる」
「固そうな見た目とは違って、とても柔らかいのですね! 隠し味に、ハチミツを使われたのでしょうか? ほんのりと感じられる甘みが、さらに味を引き立てていますね」
塩から揚げの評判もまた上々。二度揚げが効果を発揮し、サクふわ食感を実現させていた。
あちらの世界で普段よく食べる、醤油を用いたタレに漬け込んだから揚げと違い、あっさりとした味わい。オレモンの汁を絞ってかければ、酸味が胃を刺激して何個でも食べられる。
薬味が足りていないためか少し獣臭く感じたが、欠点があるといえばそのくらい。から揚げの下に敷いたパクチーと一緒に食べれば、その欠点も気にならなかった。
やはりから揚げは美味い。子供の頃から食べ慣れている料理なだけあって、から揚げなしには生きていけないと思わされるほど。
ああ、ご飯が欲しい。炊きたての白い白米と一緒に頬張りたい。刻んだから揚げをマヨネーズで和えて、おにぎりの具にした『からマヨおにぎり』が恋し過ぎる。
でも稲は森で見つかりそうにないし、あったとしても俺には栽培方法がわからない。
だって田んぼで水を張ったりしなくちゃいけないんでしょ? 無理無理、そんなの。おなじみのポーション栽培が可能なら話は別だけれどさ。
ドングリ粉のちねり米が脳裏をよぎったが、あれは最終手段かな。我慢のできるうちは妥協したくないからね。
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