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16:気軽に使うとこうなります

 ハイゴブリンとの遭遇から引き続き、森の探索を進める。さらに奥へと進んだ先で、今晩の夕食に相応しい獲物と遭遇した。


「あそこの木の枝に、スキアフォーゲルがとまっているわね。狩りの獲物としてちょうどいいわ」


 スキアフォーゲルとは、鳥の魔物である。

 一見すると真っ黒なのだが、目を凝らすとその姿は靄がかかったかのようにぼやけている。羽から黒い粒子を放出していて、その粒子を全身に纏い姿をぼかしているのである。


 スキアフォーゲルが飛ぶと粒子が残像となり、空中に黒い軌跡が残る。粒子には毒が含まれ、吸い込んだ相手の思考を鈍らせる効果があるのだとか。


 さすが魔鳥とあって、その嗜好は残虐。生きた肉を好むらしく、決して死肉は喰らわない。縦横無尽に標的の周囲を飛び回っては粒子を吸わせ、相手の動きが鈍ったところで少しずつ肉を啄ばむそうだ。

 まったく、えげつない食性をした鳥だこと。


「よし、それじゃベータに光線で撃ち落としてもらおう」


 早速指示を出すも、ベータは単眼を曇らせるだけだった。

 まさかの命令拒否!? 指示に従わないベータに動揺していると、シエラが理由を教えてくれた。


「ゴーレムが放つ光線は、纏われた粒子で無効化されるみたいなの。彼はそれをわかっているから、せっかくの獲物を逃がさないために撃たないのよ」


 なんと、そういうことだったのか。まさかの反抗期でもきたのかと焦ってしまった

 ゴーレムが持つ唯一の武器、光線の効かない相手がいるとは思いもよらなかったな。となれば、俺が持つ『穿光の魔杖』も恐らく同じ。


 振り返ればスキアフォーゲルなんて鳥、これまで調理した覚えがなかった。つまりはゴーレムにとって、数少ない狩れない獲物だったのだろう。


 さて、どうしたものか。

 考え込んでいると、シエラが私に任せなさいと胸を叩いた。


 彼女は身を屈めながら距離を詰め、スキアフォーゲルを弓の射程内に収める。ベストなポジションに移動すると弓に矢をつがえ、弦を最大まで引き絞った。


 静かに放たれる一矢。一瞬の風切り音だけが耳に入り、彼女の放った矢は見事獲物の頭部に突き刺さっていた。

 羽を舞い散らせ、木の枝から地面へと落下するスキアフォーゲル。


「お見事!」


「ふふん、私の弓にかかればこんなものね。楽勝だわ」


 こちらへと振り返り、誇らしく胸をそらせてドヤ顔を披露するシエラさん。褒めてほしそうだったので、素直に賞賛しておく。実際、見事なヘッドショットを決めているしね。


 回収のため、仕留めた魔鳥が落ちた場所に駆け寄る。

 纏われていた黒い靄の下は、どんな姿をしているのだろう? 見た目の印象どおり、カラスみたいな毛色をしているのだろうか?


 好奇心を募らせ、いざ仕留めた獲物とのご対面。死後は粒子の噴出が収まるようで、隠された姿を露わとしていた。


 ……うん、至って普通の鳥。魔物っぽい牙や角は生えていなかった。

 毛色は可愛らしい色をしており、どことなく配色に見覚えがある。……ああそうだ、雀だ! スキアフォーゲルの正体は、大きくした雀だったのか!


 気付いてしまうと、急に食肉として見られなくなる不思議。といっても俺が食べたことがないだけで、元の世界でも雀の焼き鳥を出す店があったはず。

 雀だろうが、鳥肉は鳥肉である。奪ってしまった命を無駄にしないためにも、割り切っていただくとしよう。


「一羽だけだと、皆で食べるには少ないね」


「そうね。できればあと二、三羽は欲しいわね」


 ここで、我が家の冷蔵庫でもある現在の氷室事情に触れておこう。


 俺がお世話になり始めた当初は、たんまりと食材が備蓄されていた。しかし住人が増えた現状では、余裕をこいているとあっさり底をつく。

 とくに肉類。作物類に関してはポーション栽培で間に合うが、肉の供給だけは狩りの成果によるのである。


「ガルグもミファも、よく食べるからな。あいつらのおかげで、減りが早いんだよね」


「そういうシギも、結構食べるじゃない」


 まぁ、これでも働き盛りの成人男性ですしね。


 住人の中で一番食が細いのは、フィエリ。そのうえ彼女は肉よりも野菜を好む。

 フィエリはあの食事量で、どうしてあんなにも成長したのか。たらふく食べているはずのミファとは、雲泥の差である。

 逆にどうして、ミファは子供体型のままなのか。疑問が疑問を呼ぶ。人体の謎は深まるばかりだ。


 更なる獲物を求め、森を彷徨う。すると思いのほか早く、再びスキアフォーゲルを見つけた。今後はさきほどと違い、三羽が並んで枝にとまっている。

 シエラが仕留めるには一度に一羽が限度なため、今回は俺も参加。タイミングを合わせて同時に矢を射り、三羽のうち二羽を仕留めてやろうという作戦だ。二兎追う者は~などと言ってはいけない。


 目録を開き、羅列された品の中から弓を選ぶ。


 ・『矢雨降らし』:伝説級

 局地殲滅を得意とする魔弓。

 放った矢を分身させ、雨のごとく降り注がせる。

 使用した矢は消滅するため、回収できない。


 俺の選んだ弓はこれ。矢が雨のごとく降り注ぐって、すごくない?


 シエラと同時に俺も弓を射るって算段をしたのだけれど、そもそも俺は弓を扱った経験がなかった。素人の俺が普通にやって、獲物に矢を命中させられるわけがない。

 なのでここは、卑怯な手を使わせてもらう。この弓なら矢を散弾として放てるみたいなので、俺が射っても当てられるのでは、との浅い考えである。


 シエラに軽く矢の撃ち方を教わり、気配を殺して配置につく。彼女が指でカウントをとってくれたため、それを合図に矢を放った。


「あ……! えっと……ごめん、シエラ。先走っちゃった」


 予定していたカウントは五秒。シエラが三本目の指を畳んでから二秒後に、矢を放つはずだった。ところが気が急ってしまった俺は、シエラが指を畳んだ途端にうっかりとつがえていた矢を放してしまったのだ。


 矢が放たれた瞬間に無数の分身が出現し、文字通り雨のごとく獲物をめがけて降り注いだ。問題だったのは、雨の量が俺の想像を遥かに超えていたこと。


 説明書きはあくまで誇張表現であり、多くとも二~三十本ぐらいだろうと踏んでいた。ところがどっこい、俺の予想を軽く三倍は超えていた。恐らく、百はくだらない数の矢だったと思う。


 容赦のない矢の豪雨に襲われ、おかげでスキアフォーゲルはぐちゃぐちゃ。周辺の木々も軒並み蜂の巣となっている。

 『矢雨降らし』狩猟目的に使う弓じゃなかったね。同じ狩りでも、殺戮を目的とした残酷表現での狩りが正しい使用用途だった。


 ぶっつけ本番で矢をちゃんと飛ばせた喜びよりも、やってしまった感が強い。

 恐る恐るシエラの顔色を窺うと、彼女は突然の出来事に呆然としていた。ひくついた笑みを浮かべており、理解が追いつかないからとりあえず笑っておけといった感じ。


 数秒経ってから我に返ったシエラ。じっとりとした訝しむ目つきで俺を見るや、大きく溜め息を吐かれてしまった。


「……やりすぎよ、シギ」


「はい、ごもっともデスネ」


 回収したスキアフォーゲルは、三羽ともが原型を留めていなかった。一羽につき十本以上は矢が刺さったと思われ、穴だらけ。ミンチ肉にするしかなさそうだ。


「シギ、あなたいったいどんな弓を使ったのよ? ちょっと私に見せてごらんなさい」


 恐ろしい惨劇を起こした犯人の正体が気になったのか、シエラは手の平を差し出してその弓を見せろと要求。大人しく応じ、彼女に弓を渡した。


「きゃっ!?」


 弓がシエラの手に握られた途端、バチリと電気の弾ける音がした。衝撃と音で驚いたシエラは、思わず弓を地面に落としてしまう。


「どうしたの!? 大丈夫!?」


「え、ええ。少し手がひりひりするけど、怪我はしていないわ」


 念のためシエラの手の平を診てみたが、大事にはなっていなくて安心する。

 彼女が落とした弓を拾い上げるも、俺にはさっきのような拒絶する反応を示さない。


 ふと、目録から光が漏れていることに気付き、何事だと開いた。


『警告。許しなき者が『矢雨降らし』に触れました。収納を進言いたします』


 目録には、とても丁寧に書かれた警告文が表示されていた。アーガスさんが俺がへまをやらかしたときに備え、仕込んでおいてくれたのだろう。


 警告文の最後には、貸与に関して一時許諾の可否を尋ねる選択肢があった。はいを選び、もう大丈夫だとシエラに弓を渡す。


 さっきのような拒絶反応は起きず、今度はちゃんと弓を持つことができたシエラ。上から下まで、細部に至るまでまじまじと観察している。

 最後にシエラは弓の弦を引こうと試みる。けれど彼女がいくら力をこめようが、まったく引けていなかった。


「ちょっと、シギ。あなたこんなに強い弓を引いていたの? 私の力じゃ、ぴくりともしないんだけど」


「俺は普通に引けてたよ。シエラが非力なだけじゃない?」


 と思ったが、俺は『剛神のグローブ』を着けていたっけ。

 試しにグローブを外して弦を引いたら、本当にぴくりとも動かなかった。どんな怪力男が使う想定をしているんだよ。


「ちなみにだけれど、シギ。この弓の等級は?」


 等級? というと、ポーションでも質で分類分けされているあれか。

 目録を再度開き、説明文を確認。~級と記されているのがきっとそうだな。


「伝説級……みたいかな」


「で、伝!? 伝説って言った……!? ちょっとシギ、本当なの!?」


 弓の等級を知ったシエラが、目を見開いて信じられないといった顔をする。さすが伝説級。すごいのだろうとは思っていたが、そこまでだったか。


 いまいちすごさを理解していない俺に、シエラは呆れて溜め息を吐く。


「そういえばあなた、ポーションの価値も知らなかったものね。いい? 武器や防具、魔道具にも価値によって等級がつけられているの」


 下から下等級、凡等級、上等級、希少級、固有級、古代級、伝説級、幻想級と順に位があがっていき、最上位が神話級となるそうだ。


 俺がアーガスコレクションの中で頻繁に目にするのは、古代級、伝説級、幻想級の品ばかり。神話級のものも、そういえば存在していたような……?


 下~上等級までが、市販に出回る範囲。希少~古代は大金を積むなりすれば、運がよければ手に入る。伝説級、幻想級はそれこそ国宝クラスで、神話級ともなればまさしく言葉だけの存在となっているようだ。


 シエラが使っている弓は上等級にあたり、一般の者が手に入れられるなかでも最高品質の一品なのだとか。

 ちなみに目録も実は魔道具で、等級は古代級にあたる。


 アーガスさんから聞きそびれ、いつしか気にも留めなくなっていた収集品のレアリティ。あのときの知りたかった疑問が、ようやく晴れた。


 全身を古代級、伝説級、幻想級の装備で固めた俺は、さしずめ人間国宝さんになるのかな?

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