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10:フィエリと松葉杖

 今日は昨日決めた、フィエリのための松葉杖を作る。


 家造りの際に余った木材を持ち出し、壊転鋼刃で大まかな大きさに切り出す。あとは普通のノコギリを使い、必要なパーツごとに切断。細かな調整を要する細部や角は、ナイフで地道に削った。


 フィエリの体格を思い浮かべ、長さを調整。脇下に当たる部分には、巨狼の毛皮をぐるぐるに巻きつけてクッション代わりとした。


 俺にはそこまでの技量はないため、出来上がった松葉杖は非常にシンプルな形状となった。漫画などでもおなじみ、定番の形のものである。

 簡単に長さを調節できる機能はなく、必要であれば先端を切り詰める方法をとる。


 必要数である二本に加え、予備用にもう一本。早朝からとりかかっていたが、作り終える頃にはとっくに昼を過ぎていた。


 慌てて昼食をこさえ、飢えた獣と化したエルフ娘たちを呼びに行く。

 昼食を終えてから隠していた杖を出し、フィエリにプレゼントした。


「はい、フィエリ。君が自力で歩けるように、杖を作ってみたんだ」


「シギ様が私に、ですか……?」


 笑顔で頷き、早速試してみてくれと促す。不安だった杖の長さに関しては、目論み通り先を少し削れば対応できた。

 使い方を教えると、恐る恐るフィエリは杖に体重を預け、一歩を踏み出す。


「きゃ!? あうぅ、いたた……」


 踏み出された最初の一歩は、バランスを崩し見事に転倒してしまった。

 シエラとミファがすぐさま助け起こし、大丈夫かを尋ねる。


 一部始終を見ていて気付く。シエラはフィエリに対し、少し過保護すぎかもしれないな。過度なお節介は、本人が自立する妨げとなりかねない。あとでそれとなく、忠告しておこう。


「ちょっと練習が必要みたいだね。次は支えていてあげるから、もう一度やってみな」


「はい。せっかくシギ様が作ってくれたのですから、期待に応えるためにも頑張ります」


 今度は俺が付き添い、杖をついての歩行練習を行う。

 フィエリの右側に並び、後ろから右手を彼女の右脇下に差し込んで体を支えた。左手はいつフィエリが前に転んでも大丈夫なように、少し前方に離して待機させておく。


 一度失敗を経ているからか、二度目は慎重に。あらためて一歩を踏み出した。

 二歩、三歩と続いていき、次第に要領を得てきたのだろう。途中から俺が手を離しても、フィエリがこけることはなかった。しっかりと杖をつき、自分の力だけで歩いていた。


「ねぇ、フィエリ。シギがくれた杖のおかげで歩けるようになったのはいいけれど、あまり無茶はしちゃだめよ? 片足がなくなった事実は変わらないのだし、少し歩けるようになっただ――」


 シエラが余計なひと言を口走る前に、彼女のお尻を強めにつねる。歩けるようになっただけなんだから、とでも言うつもりだったのだろうが、その発言は却下だ。


「ちょっと、シギ!? 痛いじゃない!」


「シエラさん、ちょっとお黙りなさい。……フィエリがまた自分の力で歩けるようになったんだから、素直に喜ぼうよ」


 だから決して、本人の目を曇らす言葉を言ってはいけない。

 歩けなかったのが、歩けるようになる。出来なかったことが出来るようになったのだから、大きな進歩じゃないか。


 所詮は綺麗だと、俺も頭の隅では重々承知している。

 なんでも出来る、なんにでもなれると言ってあげるには、あまりにも無責任だ。どう足掻こうと、悔しいが健常者に比べて上限は狭まってしまう。


 けれどだからって、本人が自覚して納得するよりも先に、他者が枠組みを設けてしまうのは如何なものか。

 取捨選択の権利は本人にあり、諦める諦めないの権利もまた本人にある。

 今後、出来る出来ないを決めていくのはフィエリ自身。外野がやる前から諦めを促すのは、彼女の可能性を閉ざすにほかならない。


「フィエリ! 一緒に外に行こウ! 綺麗な花が咲いている場所を教えてあげル!」


「うん! 待ってよ、ミファ!」


 知ってか知らずか、ミファがフィエリを外に誘った。グッジョブだぞ、ミファ。

 ミファが扉を開けて家を飛び出し、彼女のあとを松葉杖での歩行に慣れ始めたフィエリが追う。一歩踏み出すたび、上達ぶりが見て取れた。


 こうやって徐々に、他者の助けを借りずに自分ひとりで出来ることを増やしていけばいい。

 小さなことでも積み重なれば、大きな自信となっていく。自信は勇気となって、次なる一歩を踏み出す糧となる。


 やがてはフィエリが義足をつけ、ミファとともに走り回る日が来るのもの遠い未来ではないだろう。

 ……まずは俺が、記憶を頼りに義足を作れるかどうかにかかっているが。


 なおこのあと、シエラさんにはお待ちかねのお説教タイム。正座をさせ、懇々と言い聞かせた。

 訳もわからず叱られた彼女は唇をすぼめてふてくされるが、しっかりと話せばちゃんと理解してもらえた。


 彼女としても、大事な家族であるフィエリが心配なだけ。その心配が裏目にでないように心がけさえすれば、きっといい方向に向かっていくはずだ。


 アルファに同行して森へ出かけるシエラを見送り、朝やり残した畑の世話の続きを始める。といっても、めげずに逞しく生えてくる雑草むしりなのだが。

 葉ネギはこの前収穫したし、ジャガイモはもう少しかかるだろうな。トマトは実が膨らんできたが、まだまだ青い。


 この地域の特性なのか、はたまた肥料として撒いているポーションのおかげなのか。寒暖の差によって成長に要する時間こそ変わるものの、時期を無視して実っている。

 この世界での冬はまだ一度しか経験していないが、寒かろうがお構いなしだった。


 また虫害に関しても、いまのところほとんど発生していない。味は間違いなく旨いのだから、本来であれば虫がこぞって食い荒らしに来るはず。

 だからこそ逆に、不安になる。虫が食べないこの作物は、本当に安全なのだろうか、と。


 食べ続けている自分に健康被害が起きていないので、撒いたポーションが防虫効果も発揮していると信じよう。


「そういや、連作障害とかってどうなっているんだろう? たしか同じ土地で、同じ作物を作り続けたらいけないんだっけ」


 ……うーん、わかんない。

 定期的に期間を空け、土地を休ませる必要もあるとかも聞いた覚えがあるような……?


 昔に理科の授業で習った一般教養のはずが、すっぽりと抜け落ちている。

 とはいえ現在も順調に育っているので、このまま続けていいか。なにか異常が起これば、またそのときに考えればいいな。


 もはや日課と化している雑草むしりを終え、畑を眺めながら今後を思案する。


「……うーん、そろそろ種類を増やしたいよな」


 いい加減この三種だけでは、飽きがくる。なのでそろそろ、別の刺激がほしいところ。

 そこで思い浮かんだのが、先日シエラが森で採ってきた果実。オレンジの色をした、形はレモンの柑橘果実。通称オレモンである。


 定番のはちみつ漬けにしてみたのだが、これがすごく好評だった。ほかにも風味付けとして料理に果汁を加えたり、口直し用に添えたりと用途は様々。

 種はちゃんと確保してあるので、可能なら栽培して安定供給を図りたい。となれば畑を拡張し、育てるしかないな。


 有言実行。早速行動に移し、クワで地面を耕す。

 背の低い木にいくつも実っていたそうなので、日当たりがほかの畑の邪魔にならない場所を考慮する。


 初日は畑の耕しに費やし、下地として土の肥やしにポーションを撒いておいた。種植えは翌日もう一度土を耕してから。

 ……予想してはいたが、次の日には雑草が当たり前のように生い茂っていた。ポーションの力、恐るべし。


 等間隔に土を盛り、中心に指で穴を空けて種を植える。苗木から育てるわけではないので、ちゃんと木が生えるか不安。

 種から木を育てる試みなのだから、いくらポーション栽培といえど成長に時間がかかるかもしれない。けれどもしこの栽培がうまくいったら、果樹類に手を出していこうと思う。

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