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運命の出会い(※気のせい)

勢いで趣味に走っただけ。


 中学生といえばまだ体も未発達。


 同性の成長に敏感な時期でもあろう。


「お前らぁ!」

「よっ! ヒメサマ〜」

「せっかくなんだから写真撮らせろ!」

 俺はこの上なき屈辱を強いられていた。


 姫路優。14歳。性別は正真正銘男である。


 だが周りと比べて背も低く、細身で顔立ちも女顔のせいかよく女みたいだとからかわれ、ついには今日、屈辱の女装姿を披露する羽目になった。文化祭の出し物で毎年恒例の女装コンテストに参加する面々にうっかり声をかけたのが運のツキ。

 自分で認めるのもシャクだが異様に似合う女装姿を見せられて口元が引き攣った。

 一部、俺のことを性的な目で見る馬鹿がいるがこっち見んなと言いたい。性癖こじらせてんじゃねーよ。

 確かに、姉のせいで昔からかわいいかわいいとスカートを履かされたり罰ゲームじみたことをされたせいか慣れてはいるものの拒否感は未だに消えない。

 しかもスカートを履いたまま文化祭の買い出しに行かされるなんてとんだイジメだ。妙に本気を出した女子のせいでクオリティが高い女装は多分、思うより違和感はないのだろう。

 だがストレスはずっと増していくばかり。早く文化祭期間が終わってくれないかと切に願うばかりだ。

「はあ〜……」

「うわっ!?」

 俯きながら大股で歩いていると曲がり角で人とぶつかり、よろめいて尻餅をついてしまった。

「す、すみません……急いでいたもので……」

 先に立ち上がった相手が手を差し伸べてくる。

 前を見ていなかった自分も悪いが自分の姿が恥ずかしいもののせいで早く終わらせたいと思っていた矢先にこれだ。苛立っても仕方ないだろう。

「どこ見て――」

 顔を上げて抗議しようとした瞬間、全ての時間が止まったかのような錯覚に陥る。

「その、大丈夫かい?」

 手を伸ばしてくるイケメンに釘付けになっていた。

 歳は同じくらいだろうか。すらりとした手足に均整のとれた顔立ち。声変わりしていないのかやや高めの声も危うい魅力を引き立てる。

「あ、大丈夫……です」

 思わず敬語になるほど圧倒されていた。同性であるはずなのにこんなにも魅了されるなんて。

「ああ、ごめん! 僕急がないと!」

 イケメンは慌てて駆け出し、俺の静止も聞かずに走り去る。

 その後ろ姿にすら目を奪われた。



(ど、どうしたんだ俺……)

 心臓が高鳴るのがはっきりとわかる。

 だが、相手は男。今までそんな兆しは全くなかったというのに、どうしてこんな風に焦がれてしまうのだろうか。













 体格、顔立ちを顕著に意識する第二次性徴機。


 僕はそれを恨まずにはいられない。


「ルカ様ー!」

「ルカ様今日も素敵!」

「ははは……」

 女子の黄色い声で耳がキーンとする。周りは女子、女子、女子。頭が痛くなりそうだった。


 王谷琉花。14歳。正真正銘女です。


 悲しいことに胸は未だにぺったんこ。背は同年代の女子よりも少し高め。髪も動きやすさを重視して短めにしたのが悪かったのか男っぽくみられる一因である。

 本当は女の子らしくなりたい気持ちは少しある。だがこの背が、胸が、顔つきが、すべての要素が僕を女の子という概念から遠ざけてしまう。

 男兄弟に囲まれて育った影響か口調にもたまに男っぽくなるし、一人称も兄のせいで僕が移ってしまった。矯正するべきなのだがついつい癖になってしまっている。

 理想としては自分もいつかかっこいい男子と出会って付き合いたいのだがなぜか同級生男子は皆自分を避ける。

 それとなく聞き耳を立ててみたところ「王谷ってなんでもできるから近寄りづらいよな」なんて言われてるらしい。

 そんなことないよ! 僕だって数学は苦手だし、裁縫とかも苦手なんだよ!

 まあ、それをわざわざ言うのも変な話なので直接は言わないがどうも男子から距離を置かれるし、僕はヘテロなのに女子から割とガチな目を向けられて困っている。

 そして今、下校中だというのになぜか存在する追っかけを撒こうと全力で走っていた。

 この曲がり角を曲がれば早い。スピードを落とさずそのまま曲がって――女の子とぶつかった。

「す、すみません……急いでいたもので……」

 ちゃんと見てなかったせいで互いに尻もちをついてしまう。さすがに自分の落ち度なので慌てて女の子に手を差し伸べる。

「どこ見て――」

 顔をあげた女の子と目が合う。少しハスキーな声の少女はとてもかわいらしく、見とれてしまうほどだった。自分とは違う小さくて守りたくなるような小動物感。ぱっちりした目と瑞々しい唇に釘付けになる。

「その、大丈夫かい?」

 緊張で声が震えそうになる。こんなにも心惹かれる相手を見たことがなかった。

「あ、大丈夫……です」

 弱々しい声とともに立ち上がった彼女ともっと話したいと思ったが、追いかけられている自分の現状を思い出して悲しいが彼女の手を離した。

「ああ、ごめん! 僕急がないと!」

 後ろ髪をひかれる思いで走りだし、何度も頭の中で彼女の顔を思い出す。



(ど、どうしよう。まだドキドキしてる……)

 走っているからではない。トキメキらしきものがはっきりと存在している。

 だが相手は女。ヘテロだと思っていたはずなのにどうしてこうも惹かれてしまうのか。






 ――二人にとって、運命の出会いだった。




 ただし、二人とも相手を同性だと勘違いしたままの出会いである。






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